表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きたくない彼女の未来を、憎む私は望まない  作者: 菜央実


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/53

第十五話 孤独な心 (8)

子供の頃は虫が好きで、夏になると雑木林にカブトムシやクワガタムシを探しに行っていました。どきどきしながら木の周りを探して、小さくても見つけたときには凄く嬉しかったのを覚えています。


私の住んでいる所は自然が多い、というかド田舎です。カブトムシやクワガタムシもありふれすぎて、子供はあまり喜びません。雑木林もあるのですが、一番良く見つかるのは深夜のコンビニの周りです。昆虫採集の虫取り場所がコンビニだなんて、時代ですかね……

 部屋に戻ると、夕貴が眠っているのを確認する。タオルケットを被って横になると、テーブルの向こうで小さく呻く声が聞こえた。うなされているような声が心配になって近寄ると、そっと声をかける。


「夕貴?」


 身体を丸める様にして震えている夕貴の目は固く閉じられたままだったが、その寝顔は決して穏やかではなかった。


「…………お母さん」


 小さく呟かれた言葉に思わず息をのみ、布団越しに夕貴をそっと抱きしめた。細い背中を擦ってやると、震えが少しずつ収まっていく。しばらくして身体を離そうとすると、夕貴が身体を寄せてきたので、仕方なく彼女の隣に横になる。柔らかい髪を撫でながら、早く離れないとこのまま寝ちゃうかもな、と考えていると案の定、いつの間にか眠ってしまった。



 目を閉じながらも朝日を感じて、時計を確認しようと手を伸ばそうとした時、身体に違和感を覚えた。目を開けると、夕貴に腕枕をして足を絡め、密着した状態で布団の中にいる。夕貴が目覚めたら確実に怒るだろうと抜け出そうとするものの、彼女の腕が私の身体に回されているため、動くことすらままならない。

 触れている身体が熱くて、頬に手を当てるとやはり熱がある気がする。確かめようと何度か触れていると、身じろぎした夕貴が胸にぎゅっと顔を埋めてきた。無防備に眠る横顔に抜け出す事を諦めて、ぎりぎりまで寝かせてから、起こすことにした。



「夕貴、起きて」

「…………う、ん」


 何度か身体を揺すると、ぼんやりとした目が私を見つめる。


「おはよ」

「………………」


 すぐ目の前にある夕貴の目が見開いたまま動かなくなり、恐る恐る視線が動く。私に抱きついているこの状況を次第に理解したらしく、みるみるうちに顔が赤くなった。


「あー、何と言うか……ごめんね?」


 とりあえず謝ってみるが、案の定思いっきり突き飛ばされ、布団に籠ってしまった。ようやく離れた身体を少し残念に思いつつも「朝食買ってくるからね」と声をかけて着替えると外に出た。


 買ってきたパンを手に持ち部屋に戻ると、既に制服姿の夕貴がそこにいた。私を見て顔を赤めながらぷいっと背ける表情に、相当怒っているな、と苦笑する。テーブルに向かい合って食べる朝食に相変わらず会話はなく、冷えた雰囲気に一応釈明を試みる。


「一緒に寝たのは悪いと思うけど、何もしていないから安心して」

「そんなの信じられないわよ。

 あんた自分で言ったじゃない、子供には手を出さないって」

「本当に出してないから」

「それなら、どうしてあんたが一緒に寝てた訳?」

「……成り行き?」


 夕貴がうなされていたからとは言えず、かといって上手い理由なんて思いつくはずもなく、口にした言葉にジト目を向ける彼女は無言でにらんだだけだった。


 そそくさとパンを食べ終えて鞄を持って立ち上がる夕貴に、念のため「何かあったら電話してね」と声をかける。無言の返事に完全に嫌われたな、と内心苦笑いしながら仕事に向かう準備を進めた。


「……いってきます」


 小さく聞こえた声に振り向くと、ドアの向こうで仏頂面の夕貴が私を見ている。


「……いってらっしゃい」


 くすぐったさを感じながら送り出すと、思わず笑みがこぼれた。

次回更新は明日21時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ