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第一話 殺意の出会い (1)

久しぶりの連載です。


相変わらず暗めの物語ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです!!

つけられてる、そう思った。


 何せ後ろから痛いほど見つめられていて、振り向かなくても視線を感じるのだから。深夜の住宅街はひっそりと寝静まっていて、街灯の僅かな灯りが等間隔に照らしているばかりだ。相手の姿は見えないが、尾行するならせめて時々見るくらいにすれば良いのに、と心の中でぼやきながらも、後ろを少しだけ意識しながら、歩くペースをさりげなく落とす。


 四月中旬、暦の上ではすっかり春なのに、今夜はやけに空気が冷たく感じる。こんな気候を、花冷えというのだったか、とぼんやり考えていると、こちらに駆け出す足音が聞こえてきた。足音が聞こえだした位置からして、おそらく尾行者に違いない。


 押し殺した様な呼吸が小さく聞こえて、前を向いたままゆっくり立ち止まった。向けられてくる殺意から推察すると、引ったくりなどの物取りではなく私と知った上での凶行だろう。足音からして右手に持っているのはナイフ、素人らしい動きに思わず苦笑する。


 他人から恨まれる様な事なんて……ああ、数えきれないくらいあったな。


 このまま刺されても良いが、明日も仕事が待っている。生にしがみつくつもりもないが、やり残したことが終わるまで死ぬわけにはいかない。穏便に話し合えば、きっと相手も分かってくれるだろう。ため息を一つつき、迫りくる足音のタイミングを見計らうと、身体を勢い良く反らした。そのまま反動を利用して横からぶつかり、相手の体勢を崩す。


「きゃっ!?」

「!?」


 思いがけない幼い声と、あまりにも軽い衝撃に驚いたものの、自分の意志とは関係なく身体が慣れ親しんだ一連の動作をしてしまう。ちらりと見えた銀色に光るナイフを持つ手を視界の隅に捉えそのまま掴むと、相手の身体を地面に倒して馬乗りになる。足で腕を踏みつけ、ナイフを握った手を握りつぶすよう押さえたまま、反対の手で首元を締める様に力を入れた。


「がっ!っは……!?」


 呼吸が出来ずにもがくのをしっかりと首を締めつけながら、ようやく尾行者と対面すると思わず自分の目を疑った。私の腕に押さえつけられているのは、あどけなさが残る少女だったからだ。流石にこんな子供にまで恨まれるような事をした覚えもないが、ぎらついた瞳は私から視線を離そうとせず、確かに憎悪の炎を宿していた。苦痛に歪む表情と生理的にじみ出す涙を見て、自分が少女を締めつけたままだということを思い出した。片手でナイフを奪うと少女の頬数ミリの場所に刃を向けて突き立てる。ナイフがアスファルトに当たる鈍い音が響いた。


「騒がないで。良いわね?」


 恐怖で強ばる少女を睨むようにして、ナイフを片手で持ったまま少しだけ首元を押さえる手を緩めると、少女は思い出したかのように震えながら、必死で荒い呼吸を鎮めようとする。離れた街灯に照らされた目元が光っているのは滲んだ涙のせいだろう。やがて、口を抑えた手の間からすすり泣く声が聞こえ始めた。私の言葉を覚えているのか、漏れでる声を殺しながら、それでも私を睨み付ける少女の涙は、恐怖よりもむしろ悔し涙に見えた。

本日は三話更新します。

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