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聖女様は神父様と付き合いたい

作者: 笹 塔五郎

 わたしの名前はエリル・オルトイ――十六歳の……普通の女の子です。

 わたしが生まれたのは、《ボストレイ領》の端の端の小さな村でした。

 以前は近くに炭鉱があったのですが、それもすっかり廃れてしまい、特産品もない村では村人達が畑を耕して慎ましく暮らしています。はい、そんなところです。

 わたしはそこで生まれて、そこで一生を終えるつもりはありませんでした。


 恥ずかしい話――都会というところに憧れていたのです。

 憧れっていうのは大きいもので、わたしは王都で生活するためにできることを色々頑張りました。

 まずは《魔法》……特にすごい血筋というわけでもないのですが、わたしには魔法の才能があったのです。

 もちろん、それほど大きな《魔力》を持っているわけではないのですが、他の人に比べて魔力を扱うことに長けていて、少し魔法を習えば使えるようになります。

 そんなわたしが目指したのは、《治癒術師》――王都でも不足しているというお話を聞いて、わたしは頑張って治癒術師になることにしたのです。

 その努力が実って見事――《聖女》と呼ばれることになりました。


「なんで?」


 自分で考えて、思わずそんなことを口にしてしまいます。

 小さな田舎の教会の裏で、わたしは空を見上げてため息をつきます。

 わたしは実際、王都には行ったのです。

 治癒の魔法が使えるようになって、それで治癒術師の先生を頼って修行を始めました。

 先生は何かに気付いたように、わたしに《聖属性》と呼ばれる魔法も教えてくれるようになったのです。

 聖属性は邪霊や悪霊――特に悪意のある霊体に対しとんでもない強さを発揮できる魔法です。

 魔法を学ぶのはむしろ好きだったので、修行は地獄のようでしたが何とか頑張れました。


 そんな先生がわたしに紹介してくれたのは、《アルトリレイ教会》。

 女神アルトリレイを主としている教会で、治癒と聖の魔法が使えるわたしは教会のシスターの方が向いていると言われました。

 もちろん、治癒術師でなくてもわたしにそれが向いていると言われたら、その気になってしまうに決まっています。自分で言うのもなんですが、わたしが単純すぎました。


 ――それから、色々なことがありました。

 王都の教会で働き始めたわたしは怪我人の治療をしたり、何故か悪霊退治もしたりしていました。

 聖属性はそもそも《魔物》に対しても有効らしく、時折魔物退治も頼まれるようになったのです。

 ……この辺りから、少しずつおかしくなってきました。

 教会にいるよりも魔物退治で外に出ることが多くなって、しかも大型の魔物退治もできるようになってすっかり《冒険者》稼業が板についてきた頃、王都の近くに現れた《邪竜》を討伐しないか、という依頼がわたしにきたのです。


 竜――ドラゴンとも呼ばれる彼らは、この地上において最強の生物です。

 正直言って、人間が戦うのなら数百か数千単位の兵士が集まって戦わなければならないような相手です。

 その中でも邪竜は最強クラス――わたしは迷いました。

 迷ったけれど、一人の男の子の言葉で一緒に戦うことを決意したのです。


「大丈夫。僕も元々王都で《魔法師》をやる予定だったんだけど、気付いたらこういうパーティにいたんだ」


 ああ、この人はわたしと同じタイプの人なんだな、と思いました。

 魔法師の方の名前はウェイン・アーカル。

 黒の少し長めの髪に、整った顔立ち。

 正直好みのタイプ――失礼しました、聖女と呼ばれるわたしがこんな話をしてはいけません。

 とにかく、わたしとウェインを含めた仲間達と共に邪竜を討伐しに行って、見事討伐できてしまいました。なんでですか。


 成功したのはもちろんよかったことなのですが、それからわたしは有名になりすぎました。

 仲間達が、「邪竜を討伐できたのは聖属性魔法が使えるエリルのおかげ」だとか、「エリルの治癒魔法がなければ勝てなかった」とか、「もう聖女様だな」とか言い始めたのです。はい、ここです、わたしが聖女と呼ばれるようになったタイミング!


 小さな村から出て、有名になって、王都で暮らすようになった――夢のようなお話で、正直できすぎていると思いますが、わたしにはできすぎだったのです。

 毎日押し寄せる人の波は……正直わたしでも疲れてしまいます。

 こんなこと、聖女と呼ばれるようになったわたしが口にしてはいけないことだと思うのですが、そう呼ばれたってわたしも結局人間です。

 だから――


「聖女様、こんなところにいたんですか」

「! ウェイン……」


 不意に声をかけられて、振り返るとそこには神父服姿のウェインがいました。

 彼は邪竜を討伐した後にこの小さな村の端にある教会で神父をやっていたのです。

 それを知ったのは、わたしが聖女として活動を始めてからそれなりに時間が経った頃で……気づけばわたしはウェインのところにやってきていました。

 そうして、今は二人でこの小さな教会で暮らしています。


「子供たちが探していましたよ」

「……」

「聖女様?」

「二人の時はその呼び方はしないはずですよ? それに敬語もダメです」

「聖女様だって敬語じゃないですか」

「わたしはいいんです! ウェインはわたしと邪竜を倒すという苦楽を共にした仲間なのですよ!?」

「わ、分かりましたから」

「敬語!」

「分かったって。エリルは変わらないね」


 苦笑いをしながら、ウェインは言います。

 変わらない――きっと、わたしが生まれた村の人達や、王都で出会った人々がわたしを見たらすっかり聖女のようになったと、変わったというのでしょう。

 けれど、わたしはそう演じているだけ――何も変わらない。


 ただ、好きな人の前では自分らしくいたいと思うのは、間違いだとは思いません。

 ……そんな、不純な動機で今も小さな教会で聖女を名乗っているわたしは、きっと誰よりも聖職者には向いていないのかもしれませんが。


「それと、早く子供たちのところに行ってあげてくれないかな。泣きそうな子もいるからさ」

「……分かりました。今日は《聖女かくれんぼ》の日ということにしましょう。死ぬ気で探すのです、と伝えてください」

「聖女が死ぬ気で、とか言ったらダメだって。まあ、かくれんぼのことは伝えとくからさ」


 そう言って、ウェインは教会の方へと戻っていきます。

 いつから彼のことが好きになったのか――きっと、ウェインがわたしと同じなんだと思ったときからなんだと思います。あえて言うのなら、ですが。

 もちろん、そんな告白をしたことはありません。

 聖女であるわたしが、神父であるウェインに告白するなど……。


(許されないのでしょうか……うぅ、わたしには分かりません……)


 告白して付き合いたいのか、と言われると、付き合いたいです。はい、心の中では包み隠さず話しましょう。

 ……けれど、今はこれでいいのです。

 王都での暮らしに憧れていたのに、今は生まれた時よりも田舎らしい田舎の教会で静かに暮らしていますが――


「まあ、悪くない生活ですね……」


 付き合えなくても、好きな人と一緒にいられるというのは幸せだと、わたしは思います。

異世界でのラブコメみたいなのが書きたいなぁと思い書いてみましたが着地点がちょっといい風味になったのとラブコメ感は出ませんでした。

でも、こういう感じで付き合えるように奮闘する聖女を書いてみたいと思ったのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連載への布石ですかな(๑╹ω╹๑) [一言] 聖女様が奮闘していない件(´・ω・`)
[一言] 面白かったです。
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