4話〜日常〜
温かい水流が頭のてっぺんから床まで体を伝う。シャンプーを出して頭を洗う。独特のスッとする臭いが意識をハッキリさせて行く。
バルデス大佐が指揮する部隊、『特別戦闘部隊』。通称“特戦”。そこに入ってからかれこれ3日が経った。
カンナはノズルをひねり、シャワーを止める。腰にタオルを巻くと個室を出る。
脱衣所に着くと自分の胸辺りまでしか身長の無い少年と出くわす。
「お疲れ様ですカンナさん!」
少年は元気よく挨拶してくる。
同じ部隊に所属するアルト・エンパイヤ。若干14才にして特戦に入ったいわゆる“天才”。だが性格はこの3日間――正確に言うと2日とちょっとだが、一緒に過ごした限り、礼儀正しく勤勉でとても真面目な少年だと思う。
「お疲れ」
素っ気なく返して着替えを始めると、アルトは近くにあった椅子に座る。
「今日も訓練大変でしたね」
「そうだな」
「でもカンナさん凄いですよ! 特別な訓練も受けて無いのに普通について行けてました」
「そりゃどうも」
「年齢だって僕と5つしか違わないのに」
カンナはカッターシャツのボタンを止めていく。
「シルヴァさんやライカさんとも互角に戦ってる。ホントに凄いですよカンナさんは」
何故かカンナはアルトにとても好かれているようだ。
ネクタイは付けずに白のスーツに袖を通す。
「なぁ」
「何ですか?」
「あんまりオレに関わらない方がいい。お前まであの女に邪見される」
所詮一時だけの仲間だ。親睦を深める必要は無い。
カンナは自分にいい聞かす。
「あの女って誰の事ですか?」
「二丁拳銃のヤツだ」
「あぁシルヴァさん。大丈夫ですよシルヴァさんはそんなに悪い人じゃ無いです」
無邪気な笑顔をコチラに向けながらアルトが言う。まだまだガキだとカンナは思いながら脱衣所を出て行く。
◇
部屋に戻ると扉にロックをかける。電気は点けずにベッドに座る。
真っ暗な部屋に月の光が差し込む。
カンナはポケットを探る。そして首からかけられる用にチェーンのついたネームプレートを取り出す。
「…………」
金属で作られているプレートは所々赤黒く錆びている。チェーンにも同様の錆び。 プレートには『ユウナ・イグナイト』と彫られている。その名前はカンナの脳裏に過去の惨劇を蘇らせる。
『そのネームプレートは生き残った隊員が力を振り絞ってターゲットから取った物よ』
レイナはそう言っていた。ホントかどうか分からない。でも、もしホントならば――。
「ユウナ……」
プレートを強く握る。怒りと悲しみが体を駆け巡る。
ピンポーン。
不意にインターホンが鳴る。ネームプレートをポケットに直すとドアを開ける。
目の前に短髪の女が現れる。
「やっほー! カンナくん元気?」
「用件は?」
「もぉ連れないなー!」
ライカはむくれながら言う。
「大佐が至急第2会議室に集合だって」
「了解」
カンナがそのまま外に出ようとすると、ライカが不思議そうにコチラを見て来る。
「何?」
「ネクタイしないの?」
「しねぇけど」
「大佐、服装とかうるさいよ?」
「関係ねぇよ。どうせ一時的な補充要員だ。一々服装ぐらいで言ってこねぇだろ」
「ふーん。そっか」
ライカはそう言うと廊下を歩いて行った。カンナもその後を気だるそうに歩いて行く。
◇
「カンナ、ネクタイ締めてこい」
何故こうなる。
また機会がありましたらお会いしましょう