2話〜ルール〜
村を出てから約6時間。ワゴン車から見る周りの景色は森や草原から、ビルが立ち並ぶ都会の風景へと姿を変えていた。
カンナは三列ある席の一番後ろに座り足を組んで窓の外を眺めてる。不意に村長の最後の言葉が浮かんだ。
「…………」
苦々しげに小さく口元を歪める。
それを見ていたのか前の席に座っているシルヴァがコチラを向いて嫌みな笑みを浮かべる。
「あのお婆さんの事でも考えてた?」
「…………」
「あんたもしかて熟女趣味? キモーい」
あからさまな挑発にカンナは呆れて溜め息を吐く。それが気に気に入らなかったのかシルヴァはさらにつっかかって来る。
「なによ、文句あるなら言ってみなさいよ」
「香水臭い。少し離れてくれ」
「っな!?」
「頭だけじゃなくて耳も悪いのか? 臭いから離れろと言ったんだ」
「アンタね……!」
頭に血が上ったシルヴァが腰のホルスターに入れた拳銃に手を掛けると、喉元にカンナの手刀が突き付けられる。
銀色覆った腕の指先は尖って、刃物のように鋭利になっている。
「そこらへんのナイフよりは切れるぞ」
シルヴァが息を呑む。しかし、直ぐに口元に笑みが浮かぶ。
「アンタ、殺しはしないんじゃないの?」
「…………」
「安い信念ね」
「オレは別に信念やら何やらで、殺しをしないんじゃ無い。ただ単に飽きたからだ」
空気が凍りつく。
「今さらお前を1人殺した所で、オレにとってはアリを踏み潰す事と変わらない」
カンナの指先がシルヴァの肌に触れる。血液が染み出す。
「そこらへんにしておけ」
ハンドルを握ったバルデスの視線がミラー越しにカンナ達を見る。
「…………」
「…………」
カンナが腕を下ろしたのを見計らって、シルヴァは助手席に移動する。
「悪かったなカンナ。もうすぐ支部に着くから我慢してくれ」
バルデスの謝罪を無視してカンナは再び窓の外へ顔を向ける。
◇
「ここが東中央支部だ」
車を降りるとバルデスが言う。カンナは、どうでもいいとばかりにボンヤリとしている。
「じゃあ行くか」
バルデスに連れられて病院のような白い建造物へ入って行く。
◇
綺麗なタイル張りの廊下を歩いて行くとエレベーターの前で止まってバルデスがボタンを押す。
カンナは相変わらずボンヤリとしたまま口を開かない。エレベーターに乗り込みボタンを押すとバルデスが口を開く。
「車の中ではホントに悪い事をしたな」
「別に」
シルヴァは先程車を降りるなり、どこかへ消えてしまった。
「いや、あんな非道な事をして君を連れ出して、その上あんな事を言われたんだ、怒るのも無理は無い」
ホントに申し訳なさそうにバルデスは瞳を伏せる。カンナは小さく溜め息を吐く。
「アンタ達の事。恨んで無いと言えば嘘になる。村での事も“昔の事も含めて”」
「…………」
「でも、今は嫌いなはずのアンタ達と同じ魔術師。オレは目的の為なら手段を選ばない。それこそ脅迫、拷問、殺し、何でもしてきた」
カンナはホントに生きているのか疑いたくなるような綺麗な瞳でバルデスを見る。
「だから今さら、正義を語る資格もましてや道徳なんて概念はオレには無いのさ。あるのはたった1つのルール。」
エレベーターが止まりドアが開く。目の前に1つの扉へ続く一本の道が現れる。
「『殺さない』
それだけだ」
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