必殺料理人、ミムラちゃん
食事。それは生物が持つ行動理念の一つ。
調理。育んだ物を殺し、食するために創造していくこと。
自ら生きるため、他者の何かを奪う。
この世界はそーやって、生きていやがる。
だから、
ジュワーーー
「とりゃーーー!」
盗人を褒めてしまうかもしれないが、大切に物を扱ったり、売ってくれるのなら、食事と同じく正しい事。ある意味、最低限の罪滅ぼし。
しかし、彼女がやっているのは、死体蹴りという容赦ないして、純粋無垢な気持ちでやってのける。極悪非道の、必殺料理人である。本人は下手ぐらいの自覚しかないのが、ヤバイ。
「炒飯ができました!!」
「……………」
可愛いエプロンと三角巾までつけて、調理する姿は若奥様という感じ。食べてもらう人は旦那さんかな?沖ミムラと同い年の広嶋健吾である。
大皿に黒焦げの飯と野菜、肉、卵。後ろから調理姿を見ていた彼は、悲惨な姿にされた炒飯にさらなるトドメを刺す。
「お前、なんか掛けたか?」
「え?」
「醤油とか塩胡椒。それと炒飯の元は、そこにあるわけだが?」
「あーーー!忘れてたーーー!?」
せっかく炒めたのに、ただの黒焦げ飯になってしまう。炒飯にすらさせてくれない、とんでもない必殺料理人。その飯マズ具合と、家事の下手ぶりは本気で共に住もうとする人を殺しにきている。
「お前食えよ!」
「えーっ!?だって、焦げてるし、調味料を入れ忘れちゃったの分かったのにー!?」
「作ったのお前だし、これを俺に食わせる気かよ!?」
しょうがないので残飯行きである。カラスでも食ってくれるだろうか、ゴキブリでも湧くだろうか。
この沖ミムラは、ホントに料理が下手である。
せっかく作った、お米と野菜が可哀想である。
本当にごめんなさいと泣いてみるミムラ。
溜め息交じりで、広嶋は尋ねる。
「カップラーメンくらいはできるよな?フタを開けて、袋の中の調味料入れて、お湯入れるの」
「バ、バカにしないでよ!!ぺヤングソース焼きそばの湯きりまで、できるし!!」
「馬鹿にしてんじゃねぇよ。言われてるんだから、お前は馬鹿なんだよ」
ぐすり、涙が零れると、料理ができない自分を思い知る。でも、今しか言えない事である。
「その、即席ラーメンはできません」
カップラーメンと大差ねぇのが、できないのか。
「まったく」
広嶋は殺されるために来てしまったのかと、溜め息ついて。
「とりあえず、米を砥げ。ご飯にお茶漬けの元があれば、それで今日の飯は満足してやる」
「ホ、ホント!?ごめんね。せっかく、来てくれたのに」
ジャッ
そー言われて、ミムラはお米を1合、お釜に入れ。水の分量を合わせ、炊飯器のスイッチを入れる。
その手際の良さ。というか、なんか忘れてないかと。
もしかすると、
「お前。ミムラ……」
「ん?」
「米、ホントに磨いだか?さっきの炒飯ももしかして。もしかすると」
「え?」