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昔話

TAKASHI「はぁ〜、明日から元の生活に逆戻り、か。」


TAKASHIは家に帰りながら夜の空を見上げて呟いていた。

街灯の光がやけに明るく感じていた。


TAKASHI「それにしても、厄介なことになった。」


主者に関して日向からできる限りの情報を得たTAKASHIは暇つぶしに主者について探ろうと考えていた。

その時、声をかけられた。


???「TAKASHIさんですね?」


TAKASHI「誰だい?」


???「とある執行機関の者です、立ち話もなんですので近くのバーでお話を。」


TAKASHI「わかった。」


敵意を感じなかったため、TAKASHIは突如現れた男についていくことにした。

見た目は若いが落ち着いていて、なおかつどこかで感じたことのある雰囲気だった。


???「つきました、中で我々の頭がお待ちです。」


TAKASHI「頭?」


恐る恐るバーのドアを開けて店内に入ると一番奥の席にだけ客がいた。

その客は白髪でスーツを着ており、向うむきに座っていた。


???「彼が我々の支えるべき者…」


引率の男が言うと白髪の男は立ち上がってゆっくりとこちらを向いた。


???「枝吉唐ノ助長官です。」


枝吉「来たか、TAKASHI。」


その白髪の男は枝吉だった。


TAKASHI「貴様っ!!」


すぐさま銃を抜こうとしたTAKASHI、しかしあたりの雰囲気に気がついて手にかけていた銃を離した。


枝吉「素早い判断だ、流石は元軍人だ。」


TAKASHI「そうか、『主者』の命令だな?」


予想外だったのか枝吉は一瞬黙ったがすぐに笑い始めた。


枝吉「ふっ、ふははははっ」


TAKASHI「何がおかしい。」


枝吉「お前からその言葉が出てくるとはな、知っていたのか。」


TAKASHI「ああ、知ったのはほんの10分前だがな、主者の命令で俺をここに誘い込んで蜂の巣にしようってところか。」


枝吉「御名答、と言いたいが違うな、もはや我々に貴様を殺す義務など無くなったのだからな。」


TAKASHI「どう言うことだ。」


TAKASHIは枝吉が自分を殺そうとしていたのになぜいきなり殺さないといったのか不思議だった。


枝吉「今日、我々は主者から、脱退した。」


その答えではTAKASHIを納得させられなかった。


枝吉「疑うならばそれでいい、我々はそうなることをして来たのだからな。」


TAKASHI「なぜ唐突に脱退をした。」


枝吉「奴らの真の目的を知ったからさ。」


TAKASHI「目的?」


枝吉「奴らは人間を粛清するつもりだ。」


TAKASHI「なんだと!?」


枝吉「我々は痩せても枯れても国民を守るために組織されたSAWTの構成員だ、たとえそれが世界を動かして来た組織でも国民を捨てることはできない。」


枝吉の答えにTAKASHIは一瞬、かつての傭兵時代を思い出した。

枝吉は人間臭いが正義感もある良い仲間だった。


TAKASHI「なるほどな、お前らしい、だがお前が俺を狙わないとしても俺にはお前を殺す理由がある。」


枝吉「あの日のことか…」












ベトナム戦争中、ケサン〜


ベトナムで最も激化した戦場の一つ、ケサン。


2人ともかつてはここでケサン基地の防衛に当たっていた。

ひたすらに敵を鏖殺するTAKASHIと計画的に敵を追い詰めて殺していく枝吉、2人は真逆のスタイルを持ちながらもダブルエースとして活躍していた。


その時、TAKASHIは10代、まだ若かった。


そしてTAKASHIはマウントジャンゴの通信士の女性に片思いを寄せていた。

その名は「美玲」、同じ日本出身でありながら地獄のような生活をして来た女性だった。


TAKASHIは美玲の気を引きたいがために晩御飯のデザートをあげたり、積極的に話しかけていくなどの中学生のようなアピールを繰り返していた。


そのアピールが身を結び、ついに交際までにこぎつけた。

戦場で恋愛というのもどうかした話だがTAKASHIには帰るべき場所が見つかったように思えていた。


美玲もTAKASHIに『かけがえのない存在』とされているのを嬉しく感じていた。


やがて撤退が近づく頃にTAKASHIと美玲は日本に帰ったら結婚前提で話し合いをすることを決めていた。

両者ワクワクして眠れなかったという。


しかしその日の夜、枝吉唐ノ助がマウントジャンゴを裏切り仲間多数を殺害してソ連側に逃亡した。


死傷者は87名、マウントジャンゴ隊員の半分が再起不能となった。

そのうちの犠牲者がTAKASHIが唯一愛した女性、美玲だった。








TAKASHI「お前がいなければあんなことも起こらなかった。お前がいなければ、あいつはまだ生きていた!!」


TAKASHIは激昂していた。


枝吉「落ち着け、っていっても無理そうだな。」


TAKASHI「おちつけ?おちつけだと?ふざけるのも大概にしな、今から手前をポケットに入るサイズまで粉微塵にしてやる。」


枝吉「俺を撃ちたいならこいつを使え。」


枝吉は懐からSAAを取り出してTAKASHIに渡した。


枝吉「こいつで早撃ちだ、これで遺恨は残らんだろう。」


TAKASHI「早撃ちはお前の専売特許じゃねえ、殺してやる。」


バーの店内にはSAWTの隊員が陰で待機していたが2人の気迫のせいで突入できなかった。


2人の顔は冷や汗でビッショリだった。


やがてTAKASHIの顔から滴った冷や汗が地面にポツンと落ちた。



ズドンッ!!!


ズガァン!!


銃声は同時に鳴った。







TAKASHIの放った弾丸は枝吉の側頭部をかすめて後ろの壁にめり込んでいた。


枝吉は銃弾を放ったはずだが弾痕は見当たらなかった。


TAKASHI「どういうことだ。」


枝吉「少しだけ試させてもらった、本当にお前は全てを俺のせいにしているのかをな。」


枝吉のSAAから排莢された薬莢を見るとそもそも弾頭が付いていなかったように見えた。

空砲だ。


枝吉「もしもお前に少しでも『自分が守ってやれなかった』と思う心があるなら当たらないと確信していた、お前は愚直で不器用な男だ、雰囲気で人は騙せてもない面までは隠しきれない。」


TAKASHI「…そうだ、そうだよ、あいつが死んだのは俺のせいだ、笑われても蔑まされても俺の責任なんだよ。ハッ、笑えよ、今世紀最強とまで言われた殺し屋が1人の女の子とでめそめそしてるんだぜ?」


枝吉「笑いはしないさ、お前はあの頃の後悔を繰り返したくない一心で銃を置かずに今を生きてるんだろ?敵としてみれば厄介だが仲間としてみればお前ほど頼りになる人間もいないさ。」














鷹志の家〜


鷹志「はぁ、お前の女はどこに捕まってるんだ?」


鷹志の家では日向の尋問(?)が続いていた。


日向「わからない、奴らの隠れ家のはずだがそれがわからないんだ。」


鷹志「困ったもんだ、お前が俺たちに捕まっていることを知られたら人質がどうなるかもわからん、ましてや肝心なお前が情報をTAKASHIさんに渡すんだからな。」


鷹志たちはひたすら日向の彼女を助ける方法を考えていた。


鷹志「一通り体の方は調べたから盗聴器とかはないはずだ、でもGPSの発信機が埋め込まれていたら厄介だ、今日は解放してやるから明日来いよ。」


日向はこの言葉に少し驚いた。

それがいつ逃げ出してもおかしくない人間を信用しているように見えからだ。


日向「僕は明日にでも消えているかもしれないよ?」


鷹志「消えないだろ?お前の女を助けてやるってんだ、お前に百の得がある。」


日向はこの言葉に少しだけの仲間意識を感じた。

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