帰ってきた暗殺師
枝吉「クソ!!」
枝吉はTAKASHIを追い詰めながらもあと一歩のところで取り逃がしたのを後悔していた。
さっきから何度も机を殴る様子を見て部下たちもかなり気まずくなっていた。
枝吉「あいつは放っておけない、組織がなくなれば世界の均衡が完全に崩れ去る!何としても止めなければ。」
???「やつを取り逃がしたようだね枝吉君。」
枝吉「その声は!?」
SAWT本部の大モニターには若い男がうつっていた。
枝吉「あなたでしたか、失礼しました。」
???「いいんだよ、それよりも早くタカシを消してくれよ、奴がいつ隠れ家に来るか心配だよ。」
枝吉「心得ております。」
???「それに奴らが今回の計画の邪魔になりうる、この『人類再起動計画』のね…おっと、口が滑った。」
枝吉「人類再起動計画?」
???「聞かれたからには言わなきゃね、我々は細かい争いに手を焼くのにいささかあきが回ってきた。」
枝吉「…(まさか、人類再起動計画ってのは…)」
???「我々としても残念だよ、何せ我々以外の人間を『皆殺し』にしなきゃいけないからね。」
枝吉「!!!!?」
???「戦闘馬鹿の枝吉君にも理解できたようだね、安心してよ、君達の安全は確保するからね。じゃっ、またね。」
モニターは切れてしまった。
残されたのはSAWT隊員の動揺の声、皆が人類の最後を悟ってしまった。
枝吉「こんなのでいいのか?」
隊員「人類再起動計画って、殺すのか!?」
隊員「俺たちの安全は確保すると言ってたが。」
隊員「信用できない!!」
完全に我を失っていた。
皆が混乱していて右も左も分からない状態になっていた。
その時…
枝吉「黙れ!!!」
一喝が入った。
枝吉「我々はこの世をより良くするためにSAWTを創設し、君達はここに集まった。TAKASHIの逮捕が不可能とまで言われた時、我々は彼らを頼るしかなかった。しかし今はそう言ってられない、人間は戦争の歴史を繰り返してきた、いや、人間が戦争そのものだ!!」
枝吉の声は隊員の集中を一気に集めた。
枝吉「しかし協調できるのも人間だ、その協調できる人間を守るのが我々だ、人間を守る我々がその人間を殺すための計画の一つとなっていいのか!!」
隊員「そうだ、駄目だ!!」
隊員「俺たちは平和のためにここに集まったんだ!!」
枝吉「そうだ!!我々はSAWTだ!SAWTのモットーを言ってみろ!!」
隊員一同「国民を守ることを考えろ!!国民なき平和は虚無と同じと心得て、ただ悪のみを確保せよ!!」
枝吉「総員に告ぐ、これより我々は世界を導くもの『主者』を脱退する!!特別編成重武装で常に特別配備をしけ!!奴らにこの国をとらせるな!!」
隊員一同「了解!!!!」
その声は今までで一番生きのいい声だったという。
日向「?ここは、どこだ。」
鷹志「ようこそ。」
日向が目を覚ますと目の前には鷹志がいた。
日向「なぜ助けたんだ?」
鷹志「組織のことを聞こうと思ってね。」
日向「俺がそうやすやすと話すとでも?」
日向は強気に鷹志に話す。
しかしその目には力がなかった。
鷹志「お前、何か強制されてないか?」
日向「な、何が?」
一瞬、ほんの一瞬だけ日向の顔が青ざめた。
鷹志はそれを見過ごさなかった。
鷹志「やっぱりな、おおかた愛する女を人質にでもとられているのか。」
日向「なんで、わかるんだ。」
鷹志「え、本当だったの?」
鷹志がテキトーに言ったことは本当のことだった。
日向「僕の女が奴らに捕まってるんだ。」
鷹志「僕の女って、傲慢だな。それは置いといて『奴ら』ってのは組織のことか?」
日向「組織は組織だが僕が取り仕切っていた組織とは違う、彼らは盤上亜里沙とは無関係だ。」
鷹志「ってことは、第三勢力的なやつか。」
鷹志が続けようとすると部屋のドアがノックされる音がした。
日向「誰だ!!」
鷹志「落ち着け、一緒に住んでる綾乃だ、昨日夕方会っただろ。」
綾乃「起きてたんだ、傷は大丈夫?」
綾乃は優しく日向に問いかけた。
日向は少し照れながら答えた。
日向「大丈夫、ありがとう。」
鷹志「女いるのに鼻の下伸ばしてんじゃねえよ。」
しばらく3人で楽しくしていると、鷹志の家のインターホンが鳴った。
鷹志も怪我をしていたため綾乃が見に行く。
綾乃「はーい、少々お待ちください。」
鷹志「怪我さえしなきゃあんな雑用させねえのに、自分が情けない。」
鷹志は階段を降りていく綾乃を見てボソッと呟いた。
綾乃「鷹志〜、お客さんよ〜。」
お客さんと聞いても心当たりがなかった鷹志はとりあえず痛みを隠しながら部屋を出て行った。
鷹志「はい、ご用件は…あ、…」
鷹志の目の前には音信不通となっていたTAKASHIが立っていた。
TAKASHI「怪我したらしいじゃないか、大丈夫か?」
鷹志「今まででどこに、いたんですか。」
TAKASHI「悪かったね、少し旧友と戯れてきただけさ、それなりに楽しめたけどメインディッシュまではいただけなかったよ。」
TAKASHIは怪我したにもかかわらず表情ひとつ変えなかった。
まるで閉じているかのような目は細きながらも力を発しているように見えた。
鷹志「何があったかは聞きません、しかしここにきた理由を教えてください。」
TAKASHI「実はな、古い友人の様子が変だった、恐らくは何かを強要されている。それを知りたいんだ。心当たりないか?」
この話を聞いていたのか日向が階段から降りてきた。
日向「あなたが有名なTAKASHIですか、はじめまして、伊勢日向です。」
TAKASHI「俺のことを知っているなんて嬉しい限りだ、で、君は何か知っているかい?」
日向「鷹志に敗れて隠す必要もなくなりました、恐らくあなたのご友人に何らかの影響を及ぼしたのは『主者』と思われます。」
鷹志「しゅ、主者?」
鷹志はよくわかっていなかった。
TAKASHIも初めて聞く名前だったようで首を傾げている。
TAKASHI「主者ってのは何者なんだい?」
日向「人質をとって僕を操っていた組織です、世界を導くもの、それこそが『主者』です。」
TAKASHI「…(枝吉とその連中に何の関係がある。)」
日向「主者は僕に『たかしを殺せ』と命じられました、奴らは他の何者かも雇っていたようでそれがご友人だったのではないかと。」
日向の説明には確証はなかったが信頼できる何かがあった。
日向「奴らは他人の弱みにつけ込みます、僕は恋人を人質にとられ、彼らは『国民の安全』を保障されていたと思います。」
この『国民の安全』という言葉でTAKASHIはそれが枝吉たちSAWTだと気がついた。
TAKASHI「ビンゴ、間違いなくそいつだ、『主者』が何を目論んでいるかわかるかい?」
日向「それは僕にはわかりません、僕は利用されていただけです。」
TAKASHI「奴らが起こしたアクションは?」
日向「それは伝えきれません。」
この言葉にTAKASHIは少し表情を固めた。
TAKASHI「伝えきれないってのは?」
日向「戦争、株価、政治、テロ、人間が中心となる行動には奴らがほぼ全て関わっています。」
鷹志「全てだと!?」
日向「彼らは第二次世界大戦の頃に世界の有名な政治家が中心になって組織されました、『世界をあるべき姿に導く』それが『主者』です。」
その話は鷹志の想像よりも恐ろしいほど大きかった。
日向「世界の完全平和のための組織は紛争、冷戦数々の争いを繰り返す我々を哀れに思ったようです、彼らはキューバ危機以来方向を変え、完全平和を諦めました。」
TAKASHI「ってことは、ベトナム戦争も奴らの計算のうちだったということか。」
日向「そうなります、しかしマウントジャンゴなどの国家に属さない団体までは操ることができなかったようです。」
TAKASHI「つまりは俺か…」
日向「えっ?マウントジャンゴに所属していたのですか?」
日向はTAKASHIがマウントジャンゴのエースであることを知らなかった。
TAKASHI「俺はマウントジャンゴの実質的エースだったんだよ。俺が出れば万事解決だろ?」
日向「奴らと戦争する気ですか!?」
TAKASHI「言ったそばからもう忘れたのかい?俺は元軍人、暗殺よりも戦争の方が得意なんだ。」
TAKASHIはそう言うと「ねむい!!」とだけ言い残して帰っていった。




