始まり
俺は畝傍鷹志、地方の工業高校に通ってる。
部活はしてない、彼女がいない、勉強そこそこバイトもせずにだらけた生活を送っている。
個人競技が得意だけどそもそも部活してないから意味がない。
いってみたら「やる気のない奴」って感じ。
そもそも無口だから女友達もいない。
「キーンコーンカーンコーン」
このチャイムは下校の合図だ。
みんなは一斉に教室を飛び出し、部活に行く。
今は6月、最後の大会目前だけあってサボる奴はいない。
そんな中俺だけが1人で家に向かう。
「たいしたこと、なかったな。」
俺は空を見上げて呟いた。
人生に刺激が欲しいんだ。
でも俺の求める刺激はありえない形で俺に降りかかった。
「明日は英語の小テストか…めんどくせえ。」
???「いいじゃないか、明日は学校休みだぞ?」
突然後ろから低い声が聞こえた。
振り向くと「プシュッ!!」と聞こえた。
その瞬間俺の腹に小さな注射のようなものが刺さった。
「痛っ!!」
そう反射的にいったのもつかの間俺は意識を失った。
ピチャッピチャッ…
水が滴る音がする。
「あ、うう…あ、あ…」
口が思うように動かない。
体も少しピクピクする程度にしか動かせない。
???「お目覚めかい?」
さっきの低い声がした。
目だけは動くので声のする方を見た。
これだけの誘拐まがいなことをする人物だ。
もしかすると俺に恨みを募らせた人かもしれない。
しかし顔に見覚えはない。
ヒゲに覆われている。
「俺に…何かようか?」
髭面「喋れるようになってきたか、驚きだねぇ。」
「質問に…答えろ、…俺に用でも…あるのか?」
少しキレ気味に言った。
髭面「そうカッカするな、俺の質問に正しく答えたら解放してやる。」
髭面の男は少しにやけて俺に言ってきた。
髭面「例のブツはどこにあるんだ?」
(例のブツ?何のことだ?)
心当たりが無かった、というのも「ブツ」なんて業界用語なんて知らないからだ。
もしかすると俺を誰かと間違えているかもしれない。
「ブツなんて知らない…何のことだ。」
髭面「ばっくれてんじゃねえ!アレは組織の存亡をかけたブツだ無くしたなんて言わせねえ!!」
「知らないものは知らないんだよ。」
髭面「そうか、痛いもん見せたらなあかんみたいやな。」
髭面はそう言うと携帯電話を取り出した。
髭面「これ見ろ。」
携帯電話の画面には俺の両親がうつっていた。
「何する気だよ。」
髭面は喋らない。
「なんか言えや。」
鬼気迫ったように声を張り上げると携帯電話の画面の中から両親の声が聞こえてきた。
「鷹志、無事なのね?」
「無事だったのか。鷹志、何かあるなら言ってくれ、父さんたちにはよくわからないんだよ。」
(そんなの俺にもわからないよ。)
「俺にもわからない、何でこんな境遇に置かれているのか。」
そもそもブツだ何だと言うのがわからない。
それに両親を人質にとるあたり人違いでもないだろう。
髭面「口を割らねえか、殺れ。」
画面の奥からは叫び声が聞こえてきた。
「よせ!やめろ、やめろー!!」
「きゃぁぁぁぁ!!」
ズドンッズドンッ!!
「…っ。」
やりやがった。
こいつらは俺の両親を殺しやがった。
髭面「次はお前だ。」
俺も殺される、嫌だ、まだ死にたくない。
???「オイタはその辺にしときなヒゲ野郎。」
別の声が聞こえた。
髭面「なんだお前。」
???「俺?俺はお前らの組織のカードtだが?」
髭面「コードtだと?じゃあこの餓鬼は何だ。」
???「俺が組織の追撃を逃れるために住所を偽造した一般人だ。」
俺には彼らが何を言っているかわからなかった。
???「可哀想に、普通なら面白おかしく生活しているはずなのに。」
髭面「貴様、何なんだ、コードt!!本名を名乗れ!組織の情報網なら貴様の住所を名前だけで特定できる!!」
???「本名ねえ…実は俺も知らねえんだ、小さい時に事故ってから本名を思い出せないんだよ。」
俺は1人だけ話についていけない。
???「とりあえず呼ばれ名ならある、俺はTAKASHIだ。」
(TAKASHI!?これまで警察の追撃を逃れてきた殺し屋の!?)
髭面「んな馬鹿な!極秘扱いされてた化け物が!!」
TAKASHI「ああ、やがて被害者が多すぎて極秘に保つことが不可能になったがね。」
TAKASHIはまるでただのおじさんのようだ。
6月なのにセーターを着ていて、帽子をかぶっている。
目は細くて白髪だ。
銃を握っていること以外はただのおじさんの風格だ。
髭面「ああクソっ!計画が丸つぶれだ!もう貴様を殺すしかねぇ!!簡単に殺してやるぜ!!」
TAKASHI「簡単に殺されないからプロなんだよ。」
次の瞬間二人の拳が交錯した…かと思ったらTAKASHIが髭面に固め技をかけた。
その動きはスムーズすぎて何が起きたかわからないほどだった。
髭面「げはっ!」
TAKASHI「チェックメイト…だ。」
ズドンッ!!
次の瞬間、髭面の男の顔面は跡形もなく吹き飛んでいた。
あたりには血が飛び散っていて、中にはピンクの肉片が混じっている。
俺はあまりの気持ち悪さにゲロを吐いた、そして目の前が次第に暗くなっていき、意識を失った。
今度は布団の上で目が覚めた。
「……ここは?」
TAKASHI「俺の隠れ家だ。」
目の前にはTAKASHIがいた。
「あんた、本当にあのTAKASHIなのか?」
TAKASHI「そうだよ?」
TAKASHIは少し抜けた感じの返事をしてきた。
(こんな人があの連続殺人者?)
「俺の…両親は?」
TAKASHI「ああ、君の両親は…。」
「そうですか…。」
TAKASHI「すまなかったな、俺のせいで君の家族を巻き込んでしまった。」
「気にしないでください、事故と思えば…。」
気前のいいことは言うがやはり悲しい。
だって目の前で親が殺されたんだ。
TAKASHI「どうする?君には復讐の権利がある。」
TAKASHIはそう言って俺にピストルを渡そうとしてきた。
「これでどうしろと?」
TAKASHI「これで復讐するんだ。その復讐の矛先が俺に向くか例の組織に向くかは君次第だ。」
TAKASHIは撃たれる覚悟だ。
こんな人が世界で指名手配されてる人間とは思えない。
「この銃は受け取ります。」
俺はTAKASHIから銃を受け取った。
「でも俺が復讐するのはあなたじゃない。」
この時、俺は殺す側の人間になった。