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現世のサムライ

日向「殺しのバイトかい?」


鷹志の頭はその言葉でいっぱいだった。


あまりに考え込んだ挙句、鷹志には綾乃の声が聞こえていなかったらしく綾乃が鷹志の部屋のドアを強く叩いた。


綾乃「ご飯だって言ってるでしょ!!」


鷹志「ごめん、宿題してたんだよ。」


今の鷹志にはありきたりな嘘をつくことしかできなかった。

綾乃が家に来てからはご飯を綾乃が作ってくれていた。

鷹志の楽しみはそのご飯を食べることだったがこの日ばかりは手につかなかった。


鷹志「夜中に食べるから冷蔵庫に入れておいてくれる?」


綾乃「気分悪いの?」


鷹志「頭痛がするんだよ、勉強しすぎたのかもな。」


綾乃「鷹志も大変ね、気をつけないと体に毒よ?」


鷹志「わーってるよ(わかってるよ)、心配するんじゃねえ。」


鷹志はそういうと部屋に閉じこもった。


鷹志「TAKASHIさんには『殺し屋には警戒が必要だ、過剰なほどのな…』って教えられたことがあるが考えすぎか?」


今にも頭が爆発しそうなほど鷹志は考えていた。


鷹志「始末しておいたほうがいいかもしれない、でもここで厄介ごとを起こすと巷がたちまち乱痴気騒ぎだ。」


鷹志の携帯「ピロロロロッ」


鷹志「うわっ!!なんだ携帯か。」


突然鳴ったのは鷹志の携帯だった。

番号を確認しても非表示になっていてわからない、鷹志はとにかく電話に出た。


鷹志「もしもし、畝傍鷹志です。」


???「やあ、鷹志君。」


鷹志「???」


日向「忘れたのかい?まあ非表示だから仕方ないか、僕だよ伊勢日向だよ。」


電話は日向からだった。


鷹志「何かよう?」


少しとぼける鷹志に日向はこうきりだした。


日向「よう?わかってるくせに何言ってるんだよ。」


その口調は鷹志が殺し屋であることを知っているかのような、いや、知っている口調だった。


鷹志「その感じじゃ俺が何してるかわかってるみたいだな。」


日向「そうだね、君は殺し屋、それもTAKASHIの一番弟子。なんで人を殺すのかわからないけどね。」


鷹志「そんなのは決まってんだろ、生きるためだよ、両親殺されて復讐こなしても後に残るのは虚しい感情だけだ。」


日向「盤上亜里沙だね、彼女には世話になっていたのによくも殺してくれたね。」


鷹志「こっちは両親殺されてるんでね。」


日向「今回は盤上亜里沙の件でお礼がしたいんだよ、時間取れるかい?」


鷹志「その気なら乗ってやる。」


日向「よかった、それならゲンリュウ海運の四番倉庫に来てくれ。」


ゲンリュウ海運の四番倉庫は鷹志の家から自転車で10分ほどのところにある。

鷹志は早々と済ませるために支度を始めた。


胸元のホルスターには愛銃のルガーP08が二丁差し込まれ、ベルトにはルガーP08専用のマガジンがずらりと挟まれている。


それだけでなく足首にはゴムバンドでナイフを挟んでいる、靴の裏にもナイフが埋め込まれていつでもかかと落としからナイフを刺さるようになっていた。


上着の内ポケットにはスタングレネードが一つ、背中には鞘に入れられた刃渡り35センチほどのマチェットが一本備えられていた。


鷹志は支度を済ませると家のドアを開けてから綾乃に一言だけ言って出て行った。


鷹志「気晴らしに散歩に行ってくる。」


自転車に乗った鷹志は焦る様子もなくペダルを回した。


集中していた10分は早く感じいつの間にか四番倉庫についていた。

鷹志は四番倉庫の表口を開けて中に入った。


中には何もなく暗くて気味が悪かった。

唯一の光は天井の窓から差し込む月の光だけだった。


???「逃げずに来てくれたんだね。」


声がした方を向こうとした瞬間、いきなり四番倉庫の照明に明かりが灯った。

声がした方には伊勢日向が立っていた。


日向「君にここまでの度胸があると思わなかったよ。」


鷹志「バカ言え、生活のために命を懸けて二足三文の報酬を受けてるのに度胸がないはずないだろ。」


鷹志はバカにするように答えた。


日向「与太話はこれくらいでいい、本題に入ろう。」


伊勢日向はいきなりその話題を持ちかけて来た。


日向「君のおかげで組織がめちゃめちゃだよ。」


鷹志「組織?潰れたんじゃなかったのか。」


日向「盤上亜里沙の組織は本店の下請けだよ。僕らがヤクを作り、彼女が売る。」


鷹志「で?そのことでお礼参りか?」


日向「そういう事だ!!」


伊勢日向はそういうと背中に隠していた日本刀を繰り出した。


日向「俺の愛刀『殺陣死列』の一太刀を避けることなど不可能!!」


その振りはまるで音を裂くように早かった。

しかし、それを上回ったのは鷹志の瞬発力だった。


きぃぃん!!と大きな音を立てて地面と接触する日本刀、それを避けた鷹志の右肩には縦に入った浅いかすり傷があった。


鷹志「殺陣死列だぁ?それなりに斬れ味はいいようだが、肝心の使い手がねえ…」


日向「俺を舐めると痛い目に合うぞ。」


伊勢日向はそういうと刀を持ち上げて鷹志に斬りかかろうとした。


それと同時に鷹志はホルスターからルガーP08を取り出した。


振り上げた日本刀が振り下ろされると同時に鷹志の愛銃は火を吹いた。


ズドォォン!!!


鷹志「勝った!!」


この瞬間、鷹志は勝利を確信した、しかしこの確信が油断となる。


鷹志「この距離であのルガー弾を喰らえば…」


日向「だれが勝ったって?」


鷹志「な、何!?」


伊勢日向は死んでいなかった、それどころか振り下ろされた日本刀は鷹志の腹を浅く縦一文字に裂かれていた。


日向「俺の振りは弾丸を斬る。」


鷹志「なるほど、あと一歩前に出てたら内臓が元気に飛び出していたようだな。」


平静を保っているようで鷹志は内心驚いていた。


鷹志「…(まずいな、まさかこんな近くに弾丸を斬り落とす化け物がいたとはな。)」


鷹志は復讐の訓練中にTAKASHIにこんな噂を聞いていた。


【世の中にはありとあらゆる化け物がいる、スナイパーの面は俺と考えてくれていい、しかしこれを防ぐ化け物が日本には存在する。なんせ弾丸を斬るんだぜ?馬鹿げてるだろ。そいつの名前は、たしか、伊勢だった気がする。】


鷹志「そうか、お前があの、噂の【伊勢】だったのか。」


日向「噂とはありがたい、それほど親父と築き上げて来た『源刃紫龍流』が名を上げたということ。」















???「やつはどうだ?」


???「強いよ、この中でも屈指の強さを誇る、でも弱点があるんだよ。」


???「その弱点ってのは?」


???「強いて言えば、自分より強い相手と殺し合いをしたことがないことかな?」

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