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短編集 その他

ぼくはジロ

作者: 燈夜

 ぼくはジロ。彩香ちゃんの犬。


 彩香ちゃんはいつもぼくにご飯をくれたり、いろんなところに連れて行ってくれたり、いつも遊んでくれる。


 ぼくはいつも楽しくて。

 手を握ってはじゃれあって。

 彩香ちゃんがぐるりと回れば、ぼくは勢い良く飛び跳ねる。

 彩香ちゃんが僕の手を取って。ぼくは彩香ちゃんの胸に飛び込んで。


 ぼくらは一緒。いつでも一緒。


 道で、川原で、公園で。

 彩香ちゃんはいつもぼくの先を行く。

 ぼくは追いかけるのが嬉しくて。


 そして遊びつかれた晩ご飯。

 ぼくらは今日も一緒にお食事。

 

 幸せだった。


 彩香ちゃんはぼくを抱いて頭を撫でてくれて、毛繕いをしてくれる。

 くすぐったくて、こそばくて。

 だけど、ほんのりと暖かい。


 彩香ちゃんが大好きだった。


 そんなぼくは、


「くぅん……」


 ずっと、一緒にいられると思った。


 ある日、彩香ちゃんの声が聞こえない。

 ある日、彩香ちゃんがぼくにご飯を持ってこない。

 ある日、彩香ちゃんがぼくに遊ぼうって言ってこない。


 どうしてかな?


 それからずっと、彩香ちゃんの姿を見ない。

 ずっとずっと、見ないんだ。


 なんでかな?


 彩香ちゃんが、いなくなった。

 ぼくは立ち上がる。そして、彩香ちゃんを待つ。


 ぼくはいつも、寂しくて。

 空はあんなに青いのに。

 風は今日も、ぼくの毛を撫でるのに。

 お日様の光はぼくを今日も変わらず照らしてた。


 彩香ちゃん以外の人からご飯を貰う。

 だけど、彩香ちゃんはもうぼくと一緒にご飯を食べてくれない。


 ぼくはなぜだか、悲しくて。


 月夜の晩に、お月様とお星様が光ってた。

 夜の風は冷たくて。

 虫の声は、今日も静か。


 不幸だった。


 雫が、落ちる。

 目から水が、流れ落ちた。

 ぼくは彩香ちゃんに会いたかった。


 気づけばぼくは、駆け出していた。

 がむしゃらに。ただメチャクチャに。


 四本の脚で、ぼくは駆ける。


 とっても会いたかった。


 公園を回った。

 商店街を回った。

 学校を回った。

 川原を回った。


 どこ? どこ? どこ? どこ? どこ?


 ぼくは走る。駆け回る。


 どこ? どこにいるの?


 疲れて眺めるお星様。

 ぼくは犬小屋に帰りつく。


 お星様がいつも以上に瞬いて。

 ぼくはそれを眺めてた。滲んで。揺れて。

 お星様が流れてく。

 大きさを変えて、煌いて。


 ジロって呼んで。頭を撫でて。


 考えれば、ぼくはそんなことばかり。

 涙を流したままに、ぼくはいる。

 気づけばぼくは──。




 ジロ、ジロ、よく聞いて。


 懐かしい声が聞こえてた。


 ジロ、ジロ、もうご飯も一緒に食べれなくなったね。

 一緒に遊べなくなったね。

 その小さな体も抱いてもあげられない。あなたの白い頭も撫でてあげられない。

 でもね、でもね──。


 ……そばに、いるよ?

 いつでも会える。


 今も、これからも。

 それはずっと、ずっとずっと変わらない。


 ぼくは、それを聞いていた。

 それこそぼくの宝物。


 


 今日は晴れ。

 気持ち良い風が吹いている。

 春を運ぶ花香る優しい風。


 ぼくはジロ。

 彩香ちゃんに会えた。


 ぼくはもう、一人じゃない。

 

 目を瞑るとね、彩香ちゃんの事を考えるとね──。


 ぼくは瞼を瞑ってみる。

 花の香りが強くなる。

 彩香ちゃんの香りが強くなる。


 彩香ちゃんはお花を手に持って、首輪にしてぼくに掛けてくれた。


 そうだよ。

 ぼくはいつでも彩香ちゃんに会えるんだ。


 彩香ちゃんはぼくの頭を撫でてくれた。

 彩香ちゃんはぼくと一緒にご飯を食べてくれた。

 彩香ちゃんは一人、川原を駆けて。ぼくは必死にそれを追いかける──。


 そうだよ。

 彩香ちゃんは、とっても遠くて、とっても近いところにいたんだね。


 僕は目を瞑ってみたままで。


 瞼の裏のぼくらはいつもと変わらない。

 ぼくらはずっと、あのときのまま。


 そうさ。

 ぼくはもう平気。


 ぼくはジロ。

 彩香ちゃんにはいつでも会える。


 ほら。目を瞑れば──そこに、小さな白い羽根を生やした彩香ちゃんがぼくを見ていてくれている。


 ぼくはジロ。

 ぼくはもう、慌てない。

 彩香ちゃんにはいつでも会える。


 ぼくはもう、進んで行ける。

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