強行突破お忍び ~宝石の国~
「ヴィルヘルム! ちょっと〝宝石の国〟に遊びに行くから、城のことはベルマードにでも何とかさせとけ!」
「は!?」
朝日が昇って間もない、王の私室にて。
バルコニーから、そうイイ笑顔で叫んだアズマに、国王ヴィルヘルムは仰天して、驚愕を叫び返した。
「ア、アズマ様!? お待ちをっ」
思わず窓に駆け寄るも、すでにアズマの姿は無く。
ただ、実にのんきな返事だけが、国王ヴィルヘルムの耳に届いた。
「まぁまぁ。じゃあ、行ってきまーす!」
――聞く耳持たず、とはこの事。
「お待ちをおおおおお!?!?」
もし、アズマがただの臣下であったならば。
王の私室に響いたその言葉は、間違いなく。
――〝人の話を聞けえぇぇ!?〟……だったことだろう。
国王ヴィルヘルムが、久しぶりに心身ともに全力な叫びを、私室に響かせていた頃。
転送魔法ですでに〝宝石の国〟――レルーヴァ王国へと飛んでいたアズマは、王都の目先に在る森の中で、輝かしい王城と、その頭上に浮かぶ〝浮遊陸地〟に、視線を送っていた。
「《蒼白銀晶の賢者》、か……」
ぽつりとした呟きが、サッと吹いた風に流される。
紡いだその名は、この〝宝石の国〟において、王族と並び立つもう一つの宝石の名。
このレルーヴァ王国が誇る、《賢者》の呼び名だった。
「元気にしてるかな? それとも、また旅に出てたり?」
空に浮かぶ陸地を見つめ、アズマは笑む。
「強行突破してでも、たまにこうして会いたくなるんだよな……許せ、ヴィルヘルム」
そっと伏せられた瞳が、その内につい先ほどのやり取りを映す。
若干の申し訳なさを胸中に抱きながらも、アズマは驚愕に満ちていた国王ヴィルヘルムの表情を思い出し、その可笑しさに小さく笑い声をたてた。
――本当に久しぶりに見たあの驚愕に、見合うだけの情報は掴んでこよう。
そう、決意しながら。
静かな青の瞳が、今回のお忍びの目的地である、浮遊陸地へと向けられた――。