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追跡 3

 夕食代わりの携帯食をかじって水で胃に流しこみ夜が更けていくのを待つ。

 洞窟の監視は続けているが俺達がここに着いてからまだ誰も出入りしてはいない。

 日が落ち暗くなると暗視が出来る俺が主に監視役を務めた。

 時折洞窟内の様子を魔眼で確認すると、男達の大半は酒盛りをしていて警戒心もかなり弛緩しているようで仕掛ける方としてはかなり有り難い。

 男達の酒盛りは夜がふけると共に段々と低調になっていき一人また一人と眠って、最後は見張りも立てず全員眠ってしまった。

 最低でも1人か2人は見張りを立てると思っていたので少し計画を変更する。

 転移の反応を気付かれるかと思い先にティア達へ陽動を指示していたが、男達は全員寝ているので俺が先に動くとしよう。

 10分後に正面から洞窟へ仕掛けるよう三人に頼みアリア嬢達の元へ転移した。


 無事彼女達が押し込められている部屋の前に転移を終え、男達の様子を確認してみると誰も起き出してはこない。

 それでもグロムを実体化して見張りを頼み部屋の中に入った。

 彼女達は魔眼で見た通りぼろぼろの毛布の上に身を寄せ合うように眠っていたが、俺が部屋に入ると三人共一瞬体を震わせるが起き上がってはこない。

 鎧のこすれる音で侵入者に気付いたと思うが、三人共騒がず寝ているふりを続けているのであまり近づかず声を掛けた。

「アリアさん、セイジです。助けに来ました。」

 三人共恐る恐るといった感じで起き上がり、真っ暗で見えない筈だが俺の方を向いてくれた。

「盗賊の排除をこれから行うので、三人共この部屋でじっとしていてください。一応部屋の出入り口に結界を展開していきますから。」

 三人共頷いてくれ、むこうは見えないと思うが頷き返して部屋を出た。


 外から部屋の出入り口に結界を展開しグロムの後ろについてファナ達の陽動開始を待つ。

 周りの警戒はグロムに任せて洞窟の入口へ魔眼を向けていると、まずはグンとネイが完全に足音を殺して洞窟に侵入していた。

 そのまま出口に一番近い10人程の男達が雑魚寝をしている部屋の前まで来ると、そこからは一気に加速して部屋の中へ飛び込む。

 グンとネイは出入り口近くで寝ていた別々の男の喉に噛みつくと一撃で噛み砕くが、それでもその男達の上げた断末魔のうめき声で周りの男達も飛び起きていく。

 グンとネイを目の当たりにした男達の絶叫に近い魔物襲撃の報が洞窟内に響くが、二体は構わず2人目となる別々の男に襲い掛かった。

 魔物襲撃の報に洞窟内は一気に慌ただしくなっていく。

 グンとネイが仕掛けたのとは別の部屋にいた男達が取り敢えず武器だけ持って部屋を飛び出し、同じく自室から出た首領格がそいつらに指示を飛ばしていく。

 10人程をグンとネイの応戦に向かわせ、残った者達にアリア嬢達の確保を命じて自分は装備を身に着けるためだろうか部屋に引き返した。

 5人程が俺とグロムの方に向かって来るが、少し間があるので入口の方に魔眼を向ける。

 グンとネイはこの短い時間で部屋の中の掃討をほぼ終えており、救援のためその部屋へ踏み込もうとした盗賊の増援も、入り口のすぐ外に隠れていたリゼラ達が横から撃ち込む弓や精霊術でなぎ倒されていく。


 入り口付近は問題なく片付きそうなので自身の周りに視線を戻す。

 もう少しで曲り角の向こうに盗賊達が姿をみせるので、グロムに攻撃準備を指示し俺も錬鎧装弾投槍を準備する。

 2人の盗賊が角を曲がって現れた瞬間、グロムの溶岩球が片方の顔を潰しプラーナとマナで出来た俺の槍がもう片方の胸貫いた。

 先頭の二人を襲った凶事に後ろの三人は動きを止めてしまい、その隙を逃さず一気に間合いを詰める。

 近づいてくる俺に対しその3人は慌てて構えを取ろうとするがそれを許さず、鎧装纏を付与した剣ですれ違いざまに3人共1刀ずつ胴薙ぎにした。

 そのまま少し距離を取って振り返り盗賊達の様子を確認すると、グロムの溶岩球を顔に受けた男だけまだわずかに息があった。

 助ける気はないが苦しめる気もないので止めを刺してやり返り血を生活魔術で綺麗に落とした。


 後は首領格の盗賊とゼス教団の騎士を生け捕るだけだと思うので二人を魔眼で探してみる。

 有り難い事に出口が一つしかない少し広めの部屋に二人は一緒にいたが、襲撃開始から少し間があったので二人とも装備を身に付け終えていた。

 話す唇を読むと逃げる算段を話し合っているので、今いる部屋に留まっている内にこちらから仕掛けるとしよう。

 グロムに声を掛け後ろの警戒を任せて洞窟内を走る。

 一応出会い頭の奇襲を受けないよう警戒して先に目的の部屋に踏み込むと、手下が報告に来たと思ったのだろう二人はイラついた表情で俺達の方を向いたが、違うと分かるとかなり驚いた表情に変わった。

 問答は生け捕りにしてからやればいいのでグロムを待って同時に仕掛けようとしたら、騎士が首領格に俺の排除を命じた。

 首領格もそれに応じ面倒くさいという感じの表情を浮かべて一人俺との間合いを詰めてくる。

 個別に仕掛けてくるのはこちらとしても有り難いので、追いついたグロムに首領格の捕縛を命じた。

 俺の後ろから姿を現したグロムに首領格は一瞬怯むが、それでも剣を抜き襲い掛かってくる。

 俺の前に出たグロムを首領格の剣が捉えるが、グロムは僅かにめり込んだ剣をそのまま体内に取り込み、呆気に似取られる首領格の両腕を捕らえると身長差を利用して地面から引き抜いた。

 グロムが捉えた首領格の両腕から肉が焼ける音がし首領格も苦痛に顔を歪めて必死にもがくが、グロムは全く気にせず首領格を宙づりにした。


 首領格を上手く生け捕りにしてくれたグロムにそのまま下がるよう指示し、今度は俺が前に出る。

 ゆっくり間合いを詰めていくとゼス教団の騎士は忌々しげな表情で一つ舌打ちし、自身も剣を抜いて俺に切り掛かってきた。

 2合3合と打ち合ってみるとこの騎士の剣の腕前は大した事無いとすぐ理解できる。

 時間をかける理由もないので騎士の打ちこみに合わせて剣を巻き込んで絡め取り、部屋の隅へ剣を弾き飛ばして騎士の首に俺の剣を突きつけた。

 これで大人しくなるかと思ったが、騎士は金属製の手甲で俺の剣を弾くと何かの術を発動したようで手に強烈な危機感知の反応が起こる。

 念の為バックステップで距離を開けて様子を見ると、騎士の手に光の刃が生み出された。

 危機感知の反応はこの光の刃から感じ打ち合う事すら不味そうなので、グロムには首領格を捕獲したままここからの退避を指示し、切りかかってくる騎士による問題の刃での斬撃は回避に専念する。

 部屋の隅に追い詰められないよう右に左に回り込みながら騎士の斬撃を回避し、光の刃を鑑定してみるとゼス神の神聖法術アーツ消滅の光刃というものだった。

 消滅の光刃は触れた物と対消滅を起こして引き裂く光の刃を生み出す法術アーツのようで、強力だがその分維持に膨大なプラーナとマナが必要になると見える。

 その維持ために必要量はこの騎士程度なら3分と経たずプラーナとマナが枯渇する量なので、このままこの騎士が自滅するまで回避に専念すれば良さそうだ。

 だが俺のその考えを見抜いたように騎士は一旦俺から距離を追って吠えた。

「どうやらこの刃の事を知っているようだな。だが時間稼ぎは無駄だ。聖女を配下に置き力の供給を受ける俺の刃は決して消えない。大人しくこの光刃によって塵となれ。」

 話かけて来たのは息を整える間とはったりのためだったようで、荒い呼吸が収まると騎士はまた切り掛かってくる。

 斬撃の回避に問題は無いし法術が途切れないというのもはったりだと思うが、アリア嬢達の状態を考えるとプラーナやマナの吸い上げ位は考えられる。

 そうなるとこの騎士の自滅を待てばアリア嬢達も道連れにされる可能性が出てくる。

 プラーナやマナの枯渇位で済めばいいが、最悪の場合命まで力に変えて搾り取られると考えたほうが無難だろう。

 絶対にそれをやらせる訳にはいかないので、こいつはさっさと気絶させよう。


 光刃を避けながら思いついた手を試すため、無駄に傷をつけられないよう剣と盾を捨て両腕の手甲も外していく。

 騎士は怪訝な表情を浮かべるがそれでも切り掛かって来て、それを全て避けきり手甲も外し終えるとバックステップで騎士との間合いを開けた。

 土の精霊武装で両腕にガントレットを生み出し、苛立った表情で追撃してくる騎士の横薙ぎを間合いを外してかわし白刃取りの要領で上下から掌で挟み込んだ。

 どうやら精霊は簡単に対消滅出来ないようで、精霊武装のガントレットは少しずつ削られるが掌の間に光の刃を拘束した。

 その一瞬を逃さず光の刃を通して騎士へと気力浸透波と魔力浸透波を流し込む。

 洞窟の床まで両浸透波が到達すると、光刃は消滅し騎士の目からは意思の光が消え膝から崩れ落ちた。

 殺したかと少し不安になったので、倒れた騎士の首に指を当てると脈を感じホッと一息ついた。


お読み頂き有難う御座います。

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