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影の森 9

 いきなり瘴気探知に強い反応があり、そこへ視線を向けると黒い球体が割れた場所から少量だが見える程高濃度の瘴気が湧き出していた。

 いきなりの事に思考がついて行かず2〜3秒見入っている内に、高濃度の瘴気湧出量が加速度的に増えていく。

 瘴気探知の反応が以前ある場所で感じた反応によく似ており、予想の通りならかなり不味いので慌てて退避を決めた。

「リゼラはパトールを、俺が騎士を担当するから、二人は女を一人ずつ担いでくれ!野営道具は放棄する。この横穴を離れるぞ!」

 パトールから離れて若い騎士が倒れているテントに入り、足を引いて引き繰り出すと肩に担ぐ。

 立ち上がるとリゼラもパトールを背負って立ち上がっており、ティアが王女をファナが法術師の女性を抱いて立ち上がっていた。

 もう一度行くぞと声を掛けて暗視が出来る俺が先頭に立ち横穴を飛び出した。


 魔境の外へ向かう道は横穴がすぐ死角に入り見えなくなるので、精霊の場へ向かう方の道を選んで走っていく。

 100m程走って横穴が見える崖際まで来ると足を止め、担いできた騎士を崖に背を添わせて座らせた。

 王女と法術師の女性も同じようにティアとファナが座らせ俺達が立ち上がると、何とか立てるようになったパトールに肩を貸しているリゼラが困惑した表情を浮かべて問いかけてきた。

「どういう事、説明して。」

「あの横穴で急に湧いてきた瘴気の感じが、以前別の魔境で見た瘴気泉から受けた感じとよく似ていたんだ。もし本当に瘴気泉ならいきなり多数の魔物が現れて囲まれる可能性があると思ったから慌てて離れたんだ。だけど絶対の確信がある訳でもないから、暫くここから様子を見よう。」

 リゼラとパトールも真剣な表情に変わって頷いてくれ、体ごと横穴の方を向き様子を注視する。

 横穴の監視は二人に任せてティアとファナには周囲の警戒を頼み、俺は後回しにした王女一行の解毒を始めた。

 限界突破を併用した解毒の法術アーツで王女から順に三人全員治療すると、プラーナとマナを結構な量消費した。

 治療を終えても王女一行はすぐには動けないようだが、鑑定眼で見ると深刻な麻痺はきちんと抜けているので後は時間経過で元に戻るだろう。

 消費した分の回復のため自作のプラーナとマナの複合回復ポーションをポーチから出して飲み干すと、リゼラが警告の声を発した。

「みんな、見て!」

 すぐに横穴へ視線を向けると、外観はカーズドエレメントとほぼ同じだが球の直径が倍以上ある、恐らく別の魔物が横穴から吐き出され始めていた。

 詳しく観察すると横穴の中は既にその魔物で溢れており、1分に5〜6体のペースで外へ出てくる。

 その1体を鑑定してみた。


ビッグカーズドエレメント Lv25

筋力 50

体力 50

知性 200

精神 100

敏捷 50

感性 50

アビリティ

幽体

属性干渉 風

スキル

1個


 他の個体も順次鑑定してみると、風の代わりに雷の個体もいてレベルは24から26位のようだ。

 この魔境で湧いてきた普通のカーズドエレメントはレベル13から15位で、あの場所が明らかに何か影響しているようだ。

 それに今のペースでビッグカーズドエレメントが湧き続ければ、すぐにこの谷底一杯に広がっていくだろう。

 そうなる前に影エルフの里へ退却すべきだな。


 ビッグカーズドエレメントを複数個体鑑定してどう行動するか考えていると、後ろから押し出されるようにビッグカーズドエレメントがこちらへ向かってくる。

 先頭の個体が50m位まで近づいてくると動きを止め、後ろの個体を含めて次々と魔術の発動準備に入った。

 普通のカーズドエレメントよりはるかに長い射程に驚くが、王女一行はまだまともに動ける状態ではないので、急ぎ全力で対魔法障壁の発動準備に入りティアも続いてくれる。

 弾速はそこそこで魔術アーツ属性ジャベリンとよく似た風と雷の槍が撃ち込まれてくるが、着弾前に障壁の展開か間に合った。

 障壁と激突し風と雷の槍の一撃目は全て四散したが、次々撃ち込まれてくる槍に障壁への負荷が増して行く。

 守ってばかりだと転移で逃げる時間も稼げそうにないので、こちらも出し惜しみせず攻撃に転じた。

 障壁を維持したまま前に出て、先頭のビッグカーズドエレメントから横穴の中まで範囲に納め、


「限界突破」


アビリティ限界突破も上乗せして魔術アーツファイアーピラーを発動する。

 地面から炎が崖を超えて上空に吹き上がり、谷の間を炎の渦が柱となって埋め尽くす。

 アビリティを切り炎が勢いを弱めていくと、持てる全力で放ったお蔭かと範囲内のビッグカーズドエレメント達は一掃できた。

 だが瘴気泉へ打撃を与える事は出来なかったようで、また横穴にビッグカーズドエレメントが先程と同じペースで湧き始めた。

 本当にここが引き時だろう。

「また押し寄せて来る前に転移で影エルフの里へ脱出しよう。集まってくれ。」

 障壁はそのままにして王女一行の傍へ戻りながらみんなに声を掛けると、ティアとファナはすぐ集まってくれるがリゼラとパトールは少し距離を置いたままだ。

「何してる、早くこっちに来てくれ。」

「わたしとパトールはここに残るわ。瘴気泉から湧く魔物は精霊の場を壊せるって言われていて、影エルフとしてそれを見過ごして逃げる事は絶対に出来ないの。勿論あなた達が逃げるのを引き留める権利なんて無いんだけど、討伐者としてのあなた達に依頼をさせてくれない?」

 早くこの場を離れた方がいいと思うが、リゼラにそう言われては話を聞くくらいの義理はあるだろう。

「二人とも、話を聞く時間を稼いでくれ。頼む。」

「お任せください」

「任せて。」

 ティアとファナは自身に満ちた顔で頷いてくれる。

 二人の視界を確保するため光魔術で横穴までを照らし、弓と弩を構えて前に出てくれた二人の背中からリゼラ達へ視線を戻した。

「依頼の内容を聞かせてくれ。」

「最優先はここに残って援軍が来るまで、瘴気泉から湧く魔物を抑え込んで欲しいの。後誰かを転移で里へ送って援軍の要請も頼むわ。里には瘴気泉を抑える儀式魔法を会得されている方がおられるから、その方が到着した時点で依頼は終了よ。報酬は私とパトールを奴隷としてあなたにあげるわ。討伐者として役に立つつもりだし、売るとしても影エルフの奴隷はいい売値がつくのよ。どう受けてくれる?」

 パトールの方に目を向けるといたって真剣な表情をしているので、俺を騙そうという訳ではなさそうだ。

「確かにこの危険度の依頼を不確かな後払いじゃ引き受けられないけど、本当にその報酬でいいのか?」

「ええいいわ、あなた達がこの依頼を引き受けてくれないなら、私とパトールは精霊の場を守ることも出来ずほぼ間違いなくここで死ぬ。無駄死にのつもりは無いけど、ただ消える命で精霊の場を存続させる可能性を少しでも生み出せるなら返って本望よ。」

 そう言うリゼラの顔もいたって真剣で、俺を騙そうという感じはしない。

 

 依頼と報酬に間違いは無いようで危険度は高いしアビリティを持たないパトールはいらないが、リゼラが手に入るならやってみてもいいだろう。

 ただ幾つかの保険は掛けさせて貰おう。

「分かった。受けてもいいが、幾つか条件がある。報酬として俺の奴隷になるのはリゼラだけでいい。パトールはその状態じゃ足手まといになるから、そこの貴族一行と一緒に里へ転移で送る。少しでも早く援軍を送ってくれ。次に前金代わりとして転移で送り出す前に、パトールの立会いでリゼラを俺の制約法術で奴隷にさせてもらう。勿論俺達が依頼の完遂前にここから逃げた時は、リゼラの奴隷化は無効になると法術で制約する。最後に止むを得ず援軍到着前に逃げる事になっても、違約金や損害賠償の請求をしないでくれ。条件はこれで全部だ。飲んでくれるか?」

「問題ないわ。すぐに始めましょう。」

 そう言ってリゼラはパトールを王女一行の傍まで連れて行き、自分は俺の前に立った。

 動きに迷いは感じられなかったので、俺も迷わず提示した条件で制約法術を俺とリゼラの間にかけ、続けて法術アーツ隷属制約を抵抗なくリゼラに掛け終えた。

 リゼラとのつながりを実感し終えると、転移法術の準備に入る。

 プラーナとマナを高め王女一行とパトールを転移対象に設定した所で、パトールが口を開いた。

「里にも転移法術の使い手はいる。何とか1日瘴気泉を抑え込んでくれ。」

 俺とリゼラが頷いた一拍後、4人を影エルフの借家に転移させた。


 依頼を受けた事をティアとファナに説明する間を作る為、もう一度限界突破を併用したファイア―ピラーでビッグカーズドエレメントを薙ぎ払う。

 再び炎が谷を埋め尽くす間に、二人を呼び戻して依頼の話を切り出した。

「貴族は転移で影エルフの里へ送ったから、もう気にしなくていいぞ。あとリゼラからの依頼で、影エルフの里から援軍が来るまであそこから湧いてくる魔物を狩り続ける事になった。ファナ、グン、ネイ、グロムを使っていいが、長丁場の持久戦になるからな。みんなも極力消耗は避けてこまめな回復を心掛けてくれ。もう少しリゼラと話があるから、ティア、ファナ、警戒を頼む。」

 ティアとファナはとも真摯な表情で頷いてもう一度前に出てくれた。

 二人作ってくれる時間を有効に使い、装備やスキルは無理だがリゼラのクラス位は調整しておこう。

「リゼラ、今設定しているクラスと解放されてる全てのクラスを教えてくれ。」

「精霊戦士を設定していて、あと精霊術師と戦士に斥候が解放されているわ。」

「そうか、なら精霊術師以降の3つのクラスも設定してみてくれ。」

リゼラは怪訝そうに小首をかしげるが、頷いて促すと目を閉じて設定を試してくれる。2〜3秒すると目を開け驚きの表情をリゼラは浮かべた。

「出来た、わ。これってセイ様のアビリティの効果?」

「そうだけど、俺の事はそう呼ぶのか?」

「ダメだった?奴隷になったんだから、呼び捨てはまずいと思って変えたんだけど。」

「まあ最低限の敬意を払ってくれれば、リゼラの好きに呼んでくれていいよ。後クラスを複数設定している事は、他言無用で頼む。じゃあ俺達も戦闘に加わろう。」

 リゼラは頷いてくれ、一緒にティアとファナの後に続いた。



お読み頂き有難う御座います。

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