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影の森 8

 俺達と王女一行に監視のパトールはお互いを無視していたが他の邪魔はせず、別々に野営の準備を済ませた。

 夕食も個別に取り終えると俺とティアが結界を多重展開して横穴を仕切り、俺が夜番に立って三人を休ませた。

 王女一行は薬を取りに来た若い方の騎士が見張りに立ち、後の三人は2つのテントへ男女に別れて入った。

 パトールは王女一行や俺達と距離を取って壁にもたれて座った。

 見張り以外がテントの中に引っ込み俺達のテントと王女のテントから寝息が聞こえ始めると、俺達に切り掛かって来た中年の騎士がテントから出て来た。

 見張りをしていた若い騎士へ一方的に交替を告げ焚き火の前に陣取る。

 怪訝な表情を浮かべたが若い騎士は立ち上がり、中年の騎士が出て来たテントに潜り込んだ。


 若い騎士の寝息がテントの中から聞こえてくると、中年の騎士から気配探知スキルが魔術の発動を感じ同時に危機感知スキルも反応して、一番外側に展開していた俺の結界が突然途切れた。

 慌ててティアの張ってくれていた結界の内側にもう一度結界を展開し、こちらに背を向けている中年の騎士の動きに注視する。

 また切り掛かってくるかと警戒していたら、王女一行の方から危機感知の反応が反応し、それが広がってくる。

 皆を起こそうか迷ったが危機感知に反応する何かを結界が遮ってくれたようで、俺達の傍まで危機感知の反応が広がってはこなかったので思いとどまった。

 中年の騎士とパトールの様子に気を配りながら、何に危機感知が反応しているのか万象の鑑定眼を使ってみると、空気中に無味無臭の麻痺毒が撒かれていると見えた。

 それとほぼ同時にパトールが背中を壁に擦りながら地面に倒れ、状態を見てみると毒に侵されているようだ。

 これで中年の騎士が毒を撒いたと推定していいと思うが確認は必要だろう。

 

 俺の元まで毒が届いていると装うため、出来るだけ音を立てないように王女一行を視界に収めたまま倒れ込んだ。

 毒が回りきるのを待っているのか中年の騎士は焚き火の前から動かないので、王女一行のテントの中を魔眼で確認してみる。

 王女や御付の女性法術師に若い騎士は三人共麻痺毒に侵されており、次に魔眼を向けた中年の騎士はきちんと対策を取っているようで毒に侵されてはいなかった。

 これで毒を撒いた犯人はこの中年の騎士で確定だ。

 幸いこの毒には即時的な致死性は無いようなので、中年の騎士が次にどんな行動に出るか注視していると、俺が倒れた振りをしてから10分以上たってようやく焚き火の傍から立ち上がった。


 俺達の方へ振り向いた中年の騎士の手に、結晶のような何かが握られているので魔眼で鑑定してみる。

 持っていたのは制約法術が込められた封魔法結晶で、使用対象を奴隷化出来る可能性がある以上使われると不味い。

 壊すなり奪うなりしたいが結界の向こうは麻痺毒がまだ充満していて、中年の騎士に仕掛けるには毒を排除し多重展開した結界をティアと一緒に解除するという作業が必要になるので、不意を突く奇襲はまず無理だ。

 しかも悠長に毒の除去と結界の解除作業をしていては、仕掛ける前に制約法術を使われてしまうはずだ。

 試した事も無いぶっつけ本番になるし、俺が毒に掛かった振りをしているのもばれるだろうが、転移法術で結晶を引き寄せてみるしかないだろう。


 転移を使う時のようにプラーナとマナを集中し、普段は自分にしている転移の対象を中年の騎士が手に持つ結晶に合わせ、出現場所を俺の手の中に設定する。

 転移の前兆現象が結晶に起こり流石に中年の騎士に気付かれてしまうが、妨害は出来ないようで結晶は俺の手の中に現れた。

 相手の切り札だろう物は押さえたしこれ以上倒れた振りも無理だろうから起き上がり、結界の向こうに風精霊を召喚して横穴の強制換気を命じる。

 同時にテントへ声を掛けるとすぐに三人共飛び出してきてくれた。

 それを見て中年の騎士は俺へ飛び掛かってくるが結界に阻まれてしりもちをつき、昨日よりさらに忌々しげに表情を歪めて俺達へ吠えた。

「どうして忌々しい結界がまだ残っている!確かに消したはずだぞ!」

「昨日の事で勘違いしてるみたいだが、俺達は野営時には結界を1枚じゃなく多重に展開してるんだ。だからお前が消したのは一番外側の1枚だけだ。その後そこの監視役が急に倒れたから毒だと思ってな。誰がやったか確かめるため俺も毒にやられた振りをしたんだよ。」

 中年の騎士は俺の返答で何かに気付いてようで、得意げに顔を歪めると機敏に立ち上がり俺達と距離を取った。

「そいつが言ったようにそこのエルフは俺が盛った猛毒に侵されてる。解毒薬が欲しかったら、影エルフの女、お前がそいつから手に持っている結晶を受け取って俺の所まで持って来い。」

 リゼラが歯噛みをして、すがるように俺の方を見る。

 パトールはすぐに死ぬわけではないが、無用な心配を続けさせる必要も無いだろう。

 結界の向こうにあった毒の排除を魔眼で確認し、ティアの方を向いて結界の解除を命じる。

 ティアは即応してくれ俺も結界を解除した。

 中年の騎士の表情はますます得意げに歪むが、俺がパトールの方へ歩き出すと一気に怪訝なものに変わった。


 仕掛けて来るのに備えてその表情を横目に見ながら歩き、パトールの傍にしゃがむ。

 まだ状態異常回復ポーションは持っているが、先に解毒の法術アーツを試してみよう。

 パトールの胸に手を当てて法術アーツ解毒を始める。

 毒がかなり強力でアーツと拮抗して中々解毒が進まずポーションに切り替えようかとも思ったが、試しに限界突破を併用したら一気に解毒が済んでしまった。

 魔眼で確認しても毒状態が解除されていて、ポーションが節約できたのを内心喜びながらパトールを起こしてやり声を掛けた。

「具合はどうだ。」

「まだ、手足にしびれが残っているが、それもゆっくり抜けていっている。」

 パトールへ頷いて中年の騎士を見ると、呆気にとられた表情をした後目一杯の呪詛を込めたと感じる声で絶叫した。

 また切り掛かってくるかと俺だけではなくティア達も身構えるが、中年の騎士は腰の亜空間ポーチに手を入れる。

 そこから黒い球体と何かの結晶を取り出し、黒い方を横穴の床に投げつけて割り外へ走って出ていった。

 黒い球体が纏っていた余りに禍々しい瘴気に当てられ、とっさに全員と黒い球体を遮断するように障壁を展開するが、割れた球体が纏っていた瘴気は地面に吸い込まれて消えてしまう。

 防御に回ったせいで中年の騎士を追えず、取り出した結晶が転移法術を納めていたようで妨害もできずに転移で逃げられてしまった。

 ダメ元で捕捉眼を使い中年の騎士を探してみると、この魔境を出た森の中にいる。

 このまま逃げられるかと残念に思おうとしたら、迷いの森対策が無いのか同じ場所をぐるぐる回り始めた。

 中年の騎士のいる場所は魔境から余り離れておらず、この魔境まで来た道からもそう離れてはいないので、転移の反応を追えたとでも言って帰り道の途中で捕まえ洗いざらい情報を吐いて貰おう。

 中年の騎士は取り敢えず置いておいて、王女一行をどうするか考え始めたら異変が起きた。


お読み頂き有難う御座います。

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