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影の森 7

 近づいてくる人の気配に通り過ぎてくれと願ったが、先頭の気配がこの横穴に入ろうとして俺達の展開した結界に阻まれ、しりもちをつくのが明確に感じられた。

 寝たふりをしようかとも思ったが、ティアの警戒を告げる声でファナやリゼラがテントを飛び出したので俺も続いた。

 鎧は着たままだったのでポーチから剣と盾を取り出し、剣帯にさげて結界の方に目を向けると、昼間直に見たのとは別の騎士が結界へがむしゃらに切りかかっていた。

 恐らく中に入れろという事だろう。

 

 王女一行に会う事自体はそれほど問題では無いと思う。

 これまでも黒目や黒髪をした人とたまに街ですれ違っていたし、両方揃っている人も何人か見かけた。

 顔の形も洋の東西どちらにも偏らず色々なタイプがいたので、死んだ事になっている筈の俺の顔を見られただけでは、千葉さんと同じ召喚された者だとはばれないだろう。

 それでも名前を知られたら、それが千葉さんに伝わって素性がばれる恐れがある。

 幸い向こうが剣を抜いてくれているので、信用できないと関わりを拒否すれば名乗らずに済むだろう。

 それでもこのまま締め出しておこうかと考えていたら、すまなそうにリゼラが話かけて来た。

「セイジ、結界を解いて外の人を迎え入れあげられない?人族はどうでもいいけどパトールはきちんと休ませてあげたいの。」

「そうゆう理由なら断れないな。ただ俺からも頼みがある。どんな身分だろうといきなり剣を抜くやつを信用出来ないから、俺達の名前をこれから呼ばないでくれ。俺も気を付けるから、ティア、ファナも頼む。」

 リゼラから順にティやファナに顔を向けると三人共頷き返してくれた。


 結界の外にいる王女様達に視線を向けて唇を読むと、今も結界を斬りつけている騎士を制止しようとしているが、自棄になって聞く耳を持たないようだ。

 かなり鬱陶しいし、厄介事を持ち込んできた腹いせをさせて貰おう。

 騎士が斬りつけてくる瞬間ティアとタイミングを合わせて結界を解くと、剣が空振りし勢い余って横穴の中へ転がり込んできた。

 これだけ恥をかけば大人しくなるかと思ったら余計激昂し、体を起こすと俺達へ向かって切り掛かって来た。

 とっさに俺が前に出て剣を盾で受け止めると、結界にしていたようにまたがむしゃらに斬りつけてきた。

 剣を盾で受けてみて腕前自体は大した事無いと分かったので、この騎士がばてるまで受け流そうと半ば諦めていたら王女が横穴の中に入ってきた。

「おやめなさい!」

 その王女の怒声に騎士が動きを止めたので、バックステップをして俺から間合いを開ける。

 流石にこの状況では切りかかってこれないようで、忌々しげに剣を納めて王女の脇へ下がって頭を下げた。

 王女は頭を上げるまで従者へ向けていた視線を、俺達へ向けてきた。

「まずは従者の非礼を詫びます。次に確認します。今日の昼間あそこの者に解毒薬を渡したのはお前達ですね。」

 王女を見返して頷いた。

「解毒薬の提出には感謝しますが、施しは受けません。後で褒美を取らせるので名乗ることを許します。」

「申し訳ありませんが、いくら貴族の方とはいえ、いきなり切り掛かってくる方を信用できないので我々の素性は明かしません。報酬もいりませんし、もし感謝しているという言葉が嘘でないなら、これ以上我々には関わらないで頂きたい。ここで野営をしたいというならお好きにしてください。失礼します。」

 大分無礼だとは思うがあまりやり取りをしてぼろが出ても困るので、話を打ち切って横穴を区切るように結界を多重展開した。

 王女様はまだ呆然としているがもう気にせず、夜番と日が昇ったら起こしてくれるよう頼んで俺はテントで横になった。


 日が昇るとファナが起こしてくれ野営道具をポーチに仕舞い始めると、横穴の向こう側で野営をしたのだろう王女一行も慌てて出発の準備にかかった。

 俺達が携帯食をかじり水を飲みながら横穴を出ると、少し距離を置いて王女たちも移動を始め、一定の間隔を保って俺達の後ろをついて来た。

 今日最初の分岐も俺達と同じ方を選んだので、どうやら王女一行は俺達の後をつけて精霊の場を見つける事にしたようだ。

 多少狡く感じるがパトールにリゼラも何も言わないので、里としては黙認できる範囲なんだろう。

 ならもう王女一行の事は気にせず、魔物にだけ注意を払おう。


 昨日と同じように魔物を排除しながら歩き今日三つ目の分岐を過ぎ暫く進むと、魔物が出なくなり急に視界が開けクレーターのようなすり鉢状の地形が目の前に広がっていた。

 底にあたる部分には幾つも竜巻が渦巻いており、その間を時々雷が走っている。

 クレーターの中に足を踏み入れ底へ下りながら魔眼を発動すると、竜巻の間を舞う光の球が見えるようになりリゼラの説明通り風と雷の精霊がいた。

 竜巻の間近まで行くと風と雷の精霊である二つの光の球が前に下りてくる。

 差し出した掌の上に精霊たちは留まると、契約するかーと両方から陽気な声の念話が送られてきた。

 勿論と念を返すと精霊から別れた小さな光が俺の掌に吸い込まれ、確かなつながりが出来た。

 ティアの方も上手く行ったか問いかけてみる。

「風と雷両方の精霊と契約できたか?」

「はい、上手く行きました。」

「ならここにもう用は無いから引き上げよう。ただあの貴族様一向に手の内を見せたくないんで、転移はあの一行と離れてからにしよう。」

 頷いてくれた三人と一緒に今来た道を引き返した。


 思った通り俺達の後について精霊の場に入っていた王女一行とすれ違う時、他の三人は俺達を完全に無視していたが、昨日切り掛かって来た騎士だけはさらに忌々しげに俺達を睨んできた。

 勿論俺達はそれを無視して横を通り過ぎると、王女一行の後について監視をしていたパトールが話かけてきた。

「お前達に頼みたい事がある。あの貴族一行の退路の露払いを頼みたい。」

「あの貴族の為に働けっていうのか?」

「里の為に働いて欲しい。あいつらは絶対に死なせるわけにはいかないから、より安全に気をつけたいんだ。報酬は俺が責任を持って里に出させる。どうだ?」

 正直王女一行とは少しでも早く離れたいが、里へはリゼラを派遣して貰った恩もある。

 転移の隠ぺいをより確かなものにすると思えばいいだろう。

「分かった。魔境の外へ出るまで移動中遭遇した魔物はすべて倒していく。これでいいか。」

「十分だ、よろしく頼む。」

 口約束だが露払いの依頼を引き受け精霊の場を後にした。

 魔物を狩りながら今日来た道を引き返していき、昨夜と同じ場所で野営の準備に入ると暫くして王女一行が追いついてきた。



お読み頂き有難う御座います。

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