影の森 6
影エルフの里を今回もリゼラの先導で出発して東に向かう。
森の中の獣道を進んで行くが魔境ではないので魔物に遭う事無く一日で魔境との境目近くまでこれた。
リゼラが野営しやすい場所を教えてくれ、最初から野営の準備に混じってくれる。
俺以外の三人で作ってくれた夕食を食べた後、リゼラが話が在ると全員を集めた。
「明日入る魔境の事を教えておくわね。」
「いいのか?リゼラ。」
「ええ、セイジ達の能力と精霊との契約を確認したから、もう試すようなことはしなくていいのよ。きちんと情報を与えてさっさと契約を済ませてくれたら、その分早く里の警備に戻れるから私にも得なの。」
そこで話を一旦区切り、リゼラは俺達の納得したという表情を見回して話を再開した。
「ここの魔境は、入れる個所は一か所なんだけど奥へ進むにつれて複雑に分岐していってね、とある分岐の最奥に精霊の場があるの。地図無しで精霊の場を見つけるのはかなり時間が掛かるけど、そこはわたしが案内するから問題ないわ。出てくる魔物はマンイーターとバインドアイビイに風と雷のカーズドエレメントよ。マンイーターは北の魔境いたやつとほとんど変わりないけど、バインドアイビイは殆ど地中にいて奇襲をしかけてくる上、毒を持っているやつがたまにいるの注意して。カーズドエレメントとセイジ達は戦った事はある?」
「火と土のカーズドエレメントなら何度も狩った事があるから、対処法も心得ているよ。」
「そういう事なら問題ないわね。後は魔境に入ったら迷いの森の有効範囲を出るから防御は必要ないわ。最後にここから精霊の場までの距離は歩きで1日以上掛かると思うから、魔境内での野営を覚悟しておいてね。」
俺達三人は、リゼラへ頷いた。
話が終わった後は三人を先に休ませて俺が最初の夜番に立った。
日が昇った直後位にリゼラに起こされ、身支度を整えて野営地を出発した。
歩き始めて30分程すぎると10m位の崖に突き当たり、崖に沿うように歩いて行く。
すると崖に一本縦線が入ったような谷が見えてきて、その谷底へリゼラを先頭に入った。
谷に入った時点で空気の感触が魔境のものに変わり5m幅位の谷底を進んで行くと、俺達の手前で急に瘴気が集まり3匹のカーズドエレメントがいきなり実体化した。
とっさに構えは取れたがカーズドエレメントと10m以上の距離を取れず、魔術の矢が撃ち込まれてきた。
見極めづらい風の矢とかなりの速度の雷の矢に後の事も考えて慣れるまで防戦してから倒し、付き合ってくれたリゼラに礼を言って移動を再開した。
時々突発的に現れるカーズドエレメント達には多少手を焼かされたが、擬態したマンイーターや地面の下にいるバインドアイビイは瘴気探知で見つけ出し俺のファイアージャベリンで楽に仕留めれた。
谷底に入って1時間ほどで最初の二股分岐に到着し、リゼラが進む方へ俺達も続く。
一応王女様を魔眼で探してみると横になって休んでいるようで、取り巻きの騎士が一人いなかった。
監視役の影エルフも傍にいないようなので、姿が見えない取り巻きの騎士へ捕捉眼で視線を向けてみると小走りで移動中だった。
しかも監視役だろう影エルフが同行しており、進行方向から判断すると魔境の外へ向かっているようだ。
どういう状況かは分からないが視界を広げて俺達との位置関係を確認すると、王女様が休んでいる場所や騎士と影エルフが移動している場所は、リゼラが選んだ谷筋とは合流の無い別の谷筋だった。
王女一行に何が起きたにせよ、このまま精霊の場を目指して進み転移で帰還すれば関わり合いにならずに済みそうなので、魔眼を切って視線を戻した。
それから歩みを進め分岐を一つ過ぎ昼時になったので、休憩を兼ねての昼食にした。
三人が作ってくれた昼食を食べ食器や調理道具をポーチに仕舞っていると、気配探知に反応がある。
道がカーブしていて視線が通らないので魔眼を気配がする方へ向けてみると、魔境の外へ向かっていた筈の王女の取り巻きの騎士と影エルフが、こちら向かって小走りにかけて来ていた。
何故こちらに向かって来るか分からないが、他のみんなも気配に気づいている様子でティアやファナと急いで片付けを済ませて、二人が近づいてくるのを待った。
カーブを曲がり切りお互いが見える位置まで来ると、まず影エルフが足を止めつられるように騎士も足を止める。
お互いを値踏みするように数秒向き合うと、影エルフが何か合図を送ってきた。
「セイジ、呼ばれてるから行って来るわ。」
「分かった。何で俺達に近づいて来たのか訳を聞いてきてくれ。」
リゼラはしっかりと頷いて、合図を送っている影エルフへ向かって小走りにかけていった。
リゼラが走り出すと騎士を残して向こうの影エルフも歩きだし、俺達と騎士の中間点位で落ち合った。
聞き耳と読唇術が2人の会話を拾ってくれる。
「どうしたの?パトール。」
「すまない、リゼラ。君担当の討伐者達への依頼を仲立ちしてくれ。依頼の内容は彼らの手持ちで1番効果の強い解毒薬を譲ってほしい、報酬は俺が責任を持つ。伝えて来てくれ。」
「待って、あなたは毒に掛かってないようだし、解毒薬は持ち歩く決まりよね?どういう事?」
「俺の監視対象者がバインドアイビイの毒にやられて生死をさまよってる。手持ちの解毒薬では何故か小康状態を維持するのが精一杯で、その薬ももう切れかけてる。間に合わないだろうがそれでも里へ救援を呼びに戻ろうとしたらお前達の足跡を見つけて、薬を持っている可能性が高いと思って追いかけてきた。どうしても死なせる訳にはいかない対象なんだ。頼む仲立ちをしてくれ。」
「分かったわ、ここで待ってて。」
必至の表情の相手に押され、多少困惑気味の表情を浮かべているが、そう返事をしてリゼラが戻ってくる。
毒に掛かった死なせるわけにはいかない監視対象というのは、あの王女様の事だろう。正直関わりたくないが、ここは影エルフの里へ恩を売っておこう。
ポーチからアルバンさん達から貰った一番効果の高い状態異常回復薬ポーションを取り出し、戻ってきたリゼラにこちらから話かける。
「これが手持ちで一番の状態異常回復薬だけど、薬だと信じてくれるか?」
「聞こえてたんだ。話が早くて助かるわ。それと今の疑問は杞憂よ。監視役に選ばれる者は皆最低限の薬の知識を持っているし、パトールというんだけどあのエルフは皆の内1,2を争う知識を持っているわ。」
「そういう事ならこれを渡してきてくれ。報酬は里に帰ってから払ってくれればいいから。」
「ありがと、恩に着るわ。」
リゼラに薬を手渡すとホッとした表情に変わり、またパトールの元へ走っていく。
リゼラからパトールへ薬が渡り、瓶から一滴薬を手にたらしなめる事で確認したパトールが俺達に頭を下げた。
続けてリゼラへ頷くと待っていた騎士の元へ駆け寄り、連れだって今来た道を小走りに引き返していった。
リゼラが戻ってくると俺達も移動を再開する。
逃げ道は無いので隠れていたり突発的に現れたりする魔物を全て片付けながら進んで行き、まだ空は明るかったがリゼラが進める大きめの横穴を今日の野営場所に決めた。
横穴の出入り口に結界を展開し、光魔術で灯りを取りながら野営の準備を進めていく。
三人で作ってくれた夕食を食べると、いつものように俺が最初の夜番に立った。
夜半前、夜番をティアに替わって貰いテントに入って横になると、気配探知スキルが複数の人の気配を捉えた。
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