影の森 5
目が覚め意識がハッキリしてくると、魔術で清浄化する前に王女一行へ魔眼を向けて様子を確認する。
法術師の女性が一人起きて身だしなみを整えているが、他の三人はまだ寝ているので普通に準備すれば先にこの里を出られそうだ。
俺達に合わせて起きてきたリゼラも一緒に朝食を取り、昨日と同じ魔境へ向けて里を出発した。
リゼラを先導にもうすぐ魔境に差し掛かる所で、念の為魔眼を使い王女一行の様子を探る。
捕捉眼で捉えた一行は移動中のようで、男性影エルフの先導で里から東に向かっていた。
東にある精霊の場は風の精霊と契約できるとリゼラは言っていたので、昨晩自身で言った通りに王女は行動しているようだ。
目指す精霊の場が違うとはっきりしたので、王女一行にそれ程注意を払う必要は無さそうだ。
王女の元から視線を戻すと、暫くして魔境へ入った。
リゼラが先導から外れて離れていくと同時に俺とティアは精霊を召喚して防御を展開し、昨日作ったポーションをティアとファナへ分けながら今日の相談をする。
「昨日戦ってみた感触だと魔物は問題無いと思う。後は精霊の場を探す方法だけど、二人には何かいい考えがある?」
「わたしにお任せ頂けませんか。セイジ様。」
「何か考えがあるの?ティア。」
俺の問いかけにティアは、自信に満ちた笑顔で頷いてくれた。
「おぼろげですが、ここからでも精霊の場の方向を感じる事が出来るんです。案内はお任せ下さい。」
「そういえば、以前もティアは精霊の場を感じる事が出来てたな。じゃあ、案内はティアに任せる、ファナは索敵に専念してくれ。魔物との戦闘は進路を塞ぐものと迎撃に限定して、移動を優先しよう。後プラーナとマナの消費がいつもより激しくなると思うから、お互い補給には気をつけよう。」
三人で頷き合いティアの感覚を頼りに魔境の奥へと足を踏み出した。
襲ってきたオークの群れを潰し、素材に変わるまで暇なので念の為ティアが示してくれた進行方向を魔眼で確認する。
1日歩く分の距離を魔眼で辿っても、精霊の場のような場所を見つけられなかったので多少焦ったが、1日半程歩いた場所に別格の大きさと存在感の巨木を見つけた。
万象の鑑定眼を発動すると巨木の周りや枝葉の間に光の球が見えるようになったので、この巨木が精霊の場となっているとみて間違いなさそうだ。
ただ無理しても1日では着きそうにないので、野営に適した場所を見つけたら粘らず休もう。
そう考えを纏めているとオークはとっくに素材へ変化していたようで、ティアとファナが素材の回収まで終えて声を掛けてくれ移動を再開した。
空が少し赤くなり始めた頃、少し開けた場所に出たのでそこを今日の野営地に決めた。
ティアとファナは多少意外そうだったが、ポーチから道具を出したりテントを張る場所を確保したりと野営の準備に入ってくれた。
そういう俺達の状況を見てか、少し離れた所にリゼラも自前で野営の準備に入ろうとするがその前にこっちへ来るよう呼びかける。
リゼラはすぐに応えてくれたが、多少不満気な表情をしていた。
「何か用?。」
「野営なら俺達と一緒にやろう。リゼラ。」
俺の提案を聞いてリゼラは不満気な表情を引っ込めてくれた。
「いいの?」
「ああ、人が多い方がより安全だからな。」
リゼラの安全確保の意味合いも強いが、それを口にするのは余計だろう。
「ありがと、ご一緒させて貰うわね。」
そこからはリゼラも準備に加わってくれ、俺を除く3人で夕食を作ってくれた。
複数の結界を多重展開していつものように夜半まで俺が最初の夜番をし、ティアとリゼラに引き継いでテントで眠りに落ちた。
明るくなって目を覚ますと、先に起きていた3人が用意してくれた朝食を取り野営の後片付けをして移動を再開する。
進路を塞ぐように襲って来るゴブリンやオークの群れを潰しながら半日ほど進むと、急に魔物の気配がしなくなった。
火と土の精霊の場も周りには魔物がいなかったので近くまで来たようだ。
精霊を見るため万象の鑑定眼を常時発動で固定して進んで行くと、だんだん昨日魔眼で見た巨木が姿を現してくる。
根元まで進んで巨木を見上げると、魔眼で見た時より大きく感じた。
存在感も数割増しに感じ暫くただ見上げていると、精霊だろう光の球がゆっくり目の前に下りてくる。
鑑定してみるとリゼラが言ったように植物の精霊のようで、手を出して受け止め何を話かけてくるか注意していると、契約する?とだけ念話を送ってきた。
勿論と意思を伝えると、光の球から小さな光が分かれて俺の掌へ吸い込まれるように消え、新しい絆を実感していると光の球は巨木の枝葉の間へ戻っていった。
一応他の種類の精霊がいないか確認してみるが、リゼラの言うとおり植物の精霊しかいないようだ。
俺は上手く行ったので、ティアやファナもどうだったか確認しておこう。
「精霊との契約は上手く行ったか?」
そう問いかけまずティアの方に顔を向けると自身に満ちた笑顔で頷いてくれるが、ファナの方を向くと残念そうに首を横に振った。
ファナが精霊と契約できなかった残念だが、俺とティアは上手く行ったので結果としては上々だろう。
ここでの用は終わったので転移で引き揚げるためリゼラを呼ぼうと後ろを向くと、自分ですぐ傍まで来ていてくれたので転移法術を発動して影エルフの里へ帰還した。
借家の居間に無事転移すると、リゼラの方から話かけてきた。
「精霊との契約を見届けたから精霊の場についての情報を話せるけど、それを聞いて里を出ていく?それとも東の精霊の場がある魔境への案内を希望する?」
王女一行とは関わりたくないが、風と出来れば雷の精霊とはここで契約しておきたい。
王女一行が俺の素性を知っている可能性はあるが、魔境やその周辺で王族が自ら現地の討伐者に接触する事は無いだろうから、人の気配がしたら向こうから去ってくれる筈だ。
後は俺がこまめに魔眼で警戒すれば、王女と接触せずに済むだろう。
「今日はこの里で休んで、明日の朝から東の魔境に案内してくれ。それと今日中に消耗品の補充をしたいから、これから買い物が出来る所に案内してくれるか?」
「分かったわ、ついてきて。」
リゼラの案内で里の商店を回り保存食や矢を補充するが、途中どうしてもポーションを造ってほしいと頼まれてしまう。
魔境で消費した分の補充もあったので、1回だけ造り補充した残りを売って買い物に戻った。
消耗品の補充を済ませると借家に戻り、この日は早く休んだ。
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