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影の森 4

 万物の透視眼で姿の見ただけでは確信が持てず、拡縮の遠視眼と万象の鑑定眼を使って鑑定をしてやっとその人が千葉さんだと納得できた。

 それと同時に永続の捕捉眼を並列発動して千葉さんと周りにいる5人の男女を目標に設定し、会話を読み取るため口の動きに注視する。

 だがダビアムさんが門外に姿を現すまで誰一人口を開かず、従者を連れてダビアムさんが現れても集団の中程にいた少女が前に出てよしなにと、あいさつをしただけで他の者は口を開かなかった。


 影エルフの戦士たちが数人がかりで大門を開き、ダビアムさんが里の中へ一行を促す。

 挨拶をした少女と装備からして騎士の男2人に杖を持っている魔術師か法術師だろう女性はダビアムさんの後に続くが、千葉さんともう一人の女性は一礼して里へ背を向け歩き出した。

 別れた理由は分からないが離れていく千葉さんは後回しにして、取り敢えずダビアムさんの先導で里へ入ってくる少女の一行に注目する。

 借家の近くを一行が通る時はいつでも逃げられるよう緊張して動向を観察したが、ダビアムさんや影エルフの戦士達を含めだれも口を開かず、淡々と里の中心部へと歩みを進めて行った。

 少女の一行と十分距離が開いたので、順番に鑑定していく。

 少女は東ヴァルノム中央付近にあるライメント王国の第一王女オーレリア・ライメントで、二人の男性と女性は付き人の騎士と法術師だった。

 

 東ヴァルノムの王族が何故こんな所にいるのか疑問に思ったが、移動中誰も口を開かないので何も分からない。

 少しでも情報を集めるため王女一行を魔眼で追っていると、ダビアムさんの家に着きそのまま俺達も通された応接室へ向かう。

 ダビアムさんと王女が差し向かいで座り、二人の騎士と法術師が王女の後ろに立つと、ダビアムさんの方から口を開いた。

「早速ですが当里への御用を伺いましょう。」

「地水火風どれかの精霊の場を御紹介頂きたいのです。」

 その答えを聞いて平静だったダビアムさんが顔をしかめる。

「精霊との契約を希望すると?まさか王国連合とエルフ族の今の関係を、ご存知ないのか?」

「一部の国の暴挙によって断交状態になっている事は十分承知していますが、そこを曲げてお願いします。」

 頭を下げる王女にダビアムさんの表情はますます険しくなる。

「ルディア候からの添え状を持参されていると聞きました。拝見できますか?」

 どうぞと言って王女が差し出した手紙に険しい表情のままダビアムさんは目を通していき、読み終わると目を閉じた。

 微動だにせずダビアムさんは暫く考え込み、ゆっくり目を開いた。

「いいでしょう。ルディア候の顔を立てて、あなた達を一般の外来者と同等に扱います。明日あなた達を案内する者と引き合わせましょう。今日はこの家に泊まって下さい。」

 険しい表情のままそう言うとダビアムさんは、応接室を出ていった。


 絶対とは言えないが、王女の訪問理由が俺とは関係なさそうなのでほっとして視線を手元に戻すと、丁度リゼラが戻ってきた。

 不意打ちで千葉さんや王国連合の王女とニアミスして内心くたくたな俺と違って、得意げな笑顔で鍋を返してくれる。

「はい、これ。それでね、あのポーションなんと金貨5枚で引き取ってくれたわ。同質以上のポーションなら瓶が無くてもまた引き受けるからよろしくって買取り担当からの伝言よ。でこれが代金の金貨5枚。」

「ありがとう、手間をかけたな。」

「いいのよ。来訪者への対応が私たちの仕事なんだから。それにポーションは常に不足気味だから補充してくれたのは単純に有り難いの。じゃ部屋に戻るからまた何か用があったり、出掛ける時は声を掛けてね。」

 金貨5枚を手渡してくれ、軽い足取りで割り当ての部屋へ戻るリゼラを見送って、自分達で使う分のポーション製作に取り掛かる。

 鍋に水を作りプラーナとマナを過充填するまではそれほどの集中を必要としないので、千葉さんの姿を探してみる。

 影エルフの里から道なりに千葉さんを探していくが見つけられず、永続の捕捉眼を使うと一気に視界が別の場所へ飛んだ。

 捉えた千葉さんの姿を中心に視界を周辺まで広げて場所を確認すると、ルディアにある宿屋が集まる一角だった。

 移動速度と千葉さんの能力を考えると、一緒に居る女性が転移法術を使う事が出来るのだろう。


 その女性を連れて一軒の宿屋に入ると声を掛け垂れたようで、千葉さんは酒場にいる中年の討伐者風の男の方へ顔を向け口を開く。

「何だ、アルグか。」

「何だ、はねぇだろススム。まあいいや、仕事は上手く行ったのか?」

「安全と分かっている道を歩くだけの護衛の仕事で失敗のしようがあるか。厄介な術とやらも向こうで対策をしていたようで、ナイエの神聖法術も出番なしだ。この依頼本当に意味があったのか?」

「大ありさ、お前が同行すれば他の国の連中に今回の影エルフの里への訪問を、王国連合使節団の公式行事だと装うことが出来る。その為にライメントの連中は高い金を俺達に払ったんだぜ。」

「名目だけとはいえ、使節団団長って事になってる俺が同行すれば、行事の主体が何処の国であれ使節団の公式行事だと他の国に言い張れるって事か?」

「その通り、加えて俺の予想じゃあの王女様たちはこの街へ最低でも4~5日は戻ってこない。その間移動は無いんだ、酒でも飲んで憂さを晴らそうぜ。」

 アルグと千葉さんが呼んだ男が酒杯を向けるが、千葉さんの表情は僅かに歪んだ。

「何だ、勝手に英雄ってクラスを利用され、ランバール王国への使節団団長って神輿へ祭り上げられたのをまだ納得してねぇのか?」

「そうじゃない。ガレリアスの連中に未熟な英雄を鍛えるって名目で飼い殺しにされてた所に、あんた達がチャンスを持って来てくれた事には感謝している。この使節団が成果をあげれば、俺が自由に行動できる権利を王国連合全体から引き出せるんだろ。だから日程が遅れるのがもどかしいんだ。」

「なるほどな、なら余計に酒でも飲んで憂さを溜めないようにしろよ。ここから王都へは大身の貴族の領地を通る事になるから、その貴族への挨拶やら社交やらでここまでよりさらに時間を食う。今からイラついてたら、身が持たないぞ。」

 そこまでのアルグの話を聞いて千葉さんはさらに表情を歪めたが、諦めた表情に変わり深いため息を吐いた。

「分かった。付き合おう。」

「そうこなくっちゃな。部下と酒を酌み交わすのも団長様の務めだぜ。」

 脱力気味の千葉さんがアルグの元へ向かい、ナイエと呼ばれた女性が後に続いた所で視線を他へ移す。


 千葉さん達の話からもしやと思ってルディアの町中を探してみると、千葉さん達と同じ宿にガレリアスの使者も滞在していた。

 他にもほとんどの宿屋に王国連合に所属する色々な国の使者や騎士が滞在していて、この所為でルディアの街では宿が取れなかったんだろう。

 千葉さん達とルディアで鉢合わせしなかっただけでも有り難いが、王都へはミラルテへ引き返して別の道を行った方が良さそうだ。


 視線を手元に戻し、準備が終わった水に薬草を入れて反応させポーションを仕上げる。

 残しておいた空の薬瓶に、出来たポーションを小分けにしながらミラルテに戻る上手い訳を考えてみるが、思い浮かばない。

 上手い言い訳がすぐに閃かない以上、取り敢えずは精霊の場の情報を得る事に専心しよう。

 出来たポーションと道具をポーチに仕舞い、ティアとファナが寝床を準備してくれている部屋に引き上げる。

 通常と遮音の両結界を多重展開し、溜まっていたものが精神的疲労と共に空っぽになるまでティアとファナに相手をして貰った。


お読み頂き有難う御座います。

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