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影の森 1

 ルディアを昼過ぎに出発し、貰った地図を頼りに田園の中を通る道を夕暮れ近くまで歩くと、道は森の中へ続いていた。

 地図によると目的地はこの森の中だが、まだ距離があるようだし野営のやり易さを考えて森の入口付近にテントを張った。

 ティアとファナが作ってくれた夕食を食べると、いつものように最初の夜番を引き受ける。

 火の番をしながらルディアでの事を思い返した。


 今日の昼前、ルディアにつくまでの移動に問題は無かった。

 資料にあった通り交通量が多く、そのお蔭か警備も行き届いているようで魔物や盗賊にあう事は無かった。

 だがルディアについて護衛の完了証を換金して貰う為、ギルドについてからいつもと勝手が違っていた。

 ギルドに入り受付を探すと受付嬢が一人しかおらず、その前に5人程並んでいたが別の受付嬢は出てこない。

 仕方ないので俺達もその列に並ぶと、後ろに他の討伐者たちが並んでいくが、それでも追加の受付嬢は出てこなかった。

 暫く待って俺達の順番になり、護衛の完了証を換金して影エルフの里への接触の仕方を訪ねると、受付嬢の笑顔が露骨に引きつった。

 数秒動きまで止めてしまった受付嬢だったが、俺の後ろにいたティアに気付くと俺のパーティーの一員かと確認してきた。

 肯定するとさらっと一枚の地図を書き上げ、そこに行って独自で交渉して下さいと怖い笑顔で言ってくる。

 質問を拒絶する雰囲気だったので礼を言って受付を離れたが、資格試験などを想定していただけに情報が簡単に手に入って逆に釈然としないままギルドを出た。

 そこからはさらに様子が変で、護衛の疲れを癒そうと宿泊を頼んだまともそうな宿屋全てで、部屋の空きがないと宿泊を断られてしまった。

 ランクを落として宿を探してみるかと三人で相談するが、盗みを警戒するくらいなら消耗品を補充して影エルフの里へ向かおうという事になって今にいたる。

 

 街では気付かなかったが今考えてみると、ギルドが人手不足になり宿が埋まっているという事は何かしらの行事がルディアであるんだろう。

 街の雰囲気を思い出すと浮かれているという事は無かったので、祭りとかではない筈だから巻き込まれずに済んで運が良かった。

 影エルフの里で何日過ごす事になるかは分からないが、ルディアに戻る時は様子を確認する事を忘れないようにしよう。

 ついでに何か忘れている事が無いか思い返していると、後回しにしていた事を思い出したのでファナを少し早めに起こす。

 預けてあったグロムを実体化し、ミラルテの迷宮で手に入れた魔核石を各種一通り与えてみた。

 無駄になる事も覚悟していたが、ロックゴーレムの魔核石から格闘スキルを、火と土のカーズドエレメントの魔核石から火と土魔術スキルを取得してくれたので思った以上の成果が出た。

 強化の終わったグロムを幻核石に戻してファナに渡し、夜番を引き継いでテントに潜り込んで横になった。


 食事の匂いで目が覚めると外はまだ暗く、テントを出ると地平線がうっすら明るくなり始めていた。

 ファナもテントから出て来たのでティアが用意していた食事を三人で食べると、大分明るくなってきたので野営道具を撤収して道なりに森へ足を踏み入れた。

 外の様子が見えている内は特になんともなかったが、森が深くなるにつれて違和感が増していく。

 魔物の気配とは違う違和感に気味が悪くなってくると、後ろできゃあと二人の悲鳴が聞こえた。

 慌てて振り返ってみると、180度回転したファナが最後尾を歩いていたティアと正面衝突したみたいだ。

「どうしたんだ?二人とも。」

「ティアが急に目の前に現れて避けられなかった。」

「わたしはファナが急にこちらを向いたので避けられませんでした。」

 状況を見るとティアの言っている事が正しそうだが、ファナが嘘を言っているようにも見えない。

 事態を掴みかねていると、ファナが助言してくれる。

「セイジ様。今のファナの様子を見て確信が持てました。この森には迷いの森か排斥の森、どちらかの精霊術が掛けられています。どちらの術も許可のない者が術の効果範囲に入ると方向感覚を狂わされてしまうというもので、ファナは抵抗に失敗したんだと思います。」

「なるほど、俺の違和感の正体も多分それだな。対抗策も知ってるか?」

「どちらの術もかける森の広さや植生の深さに対象の精霊に対する親和性で術の影響が変化すると、私の里で教えて貰いましたが、対抗策までは教えて貰っていません。すみませんセイジ様。」

「術の内容が分かっただけでも十分だよ、ティア。そうなると森の奥へ向かうと俺やティアも方向感覚を失う恐れがあるのか。でもファナがここで術にかかって、俺とティアがまだ大丈夫なのは、何でだろうな?」

「それは、セイジ様と私が精霊と契約しているためではないでしょうか?」

「ああ、その可能性は十分あるな。精霊に対抗できるのは、精霊って事だな。なら精霊術や精霊召喚でこの森に掛けられて術に対抗できるかもな。」

「試す価値は、十分にありますね。」

 ティアと頷き合い俺が土の精霊を召喚してみると、違和感が一気に薄れたので効果がありそうだ。

 ファナにも歩いて試して貰うと精霊の近くなら方向感覚は正常だったが、離れると途端に感覚が狂ってしまった。

 ファナのお蔭で、精霊からどれくらいの距離まで森に掛けられた術を妨害できるか分かったので、移動を再開する。

 俺とティアが交互に精霊での防御を維持しながら、ギルドで貰った地図に従い森の奥へ続く道を進んで行くと、もう少しで昼という時刻に門が見えてきた。

 近づいて行くと二人門衛もいるようで、銀髪に暗めの褐色の肌をしているがティアとよく似た耳をしている影エルフと鑑定出来た門衛の間近まで行くと、露骨に警戒した表情で手に持っていた槍を向けられた。

「何者だ。何用でこの里を訪れた。」

「俺達はルディアのギルドでここの場所を教えて貰った討伐者だ。精霊の場の位置を教えて欲しくてここを訪れた。情報に対価が必要なら払う意思もある。情報提供の判断が出来る者に取り次いで欲しい。」

 門衛の二人は目配せをし、槍は向けられたままだったが表情は少し緩めてくれた。

「ルディアのギルドからの紹介だと証明しろ。」

「この地図を受付で書いて貰って、それを頼りにここまで来た。証明になる物はこれしかないんだが、証拠になるか?」

「見せてみろ。」

 近くにいた方の門衛に地図を渡すと、ざっと目を通し相方に頷いた。

「確かにギルドから紹介を受けているようだな。これから外との交渉を担当している長老様の元へ連れて行く。おかしな真似をすれば命が無いと思え。ついて来い。」

 大きな門の傍にあった小さな門を開けてくれ、門衛の一人の先導で中に入った。


お読み頂き有難う御座います。

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