炎の溜り 11
1層まで下りると、これも取り決め通りロンソンさん達は暫く入り口付近で待機し、俺達は先に進む。
俺達が先行して魔物の群れを狩り、ロンソンさん達は少し距離を置いて俺達に追いつかないようにして下層を目指した。
封印された魔物と疲労した状態で戦闘したくは無いので、移動には余裕を持って1日目は11層への階段付近で野営し、2日目は20層の結晶付近で野営をして、3日目の午前中魔物へ挑むつもりだ。
移動効率を重視しロックゴーレム以外の魔物の群れは俺のウォーターピラーで始末し、ロックゴーレムは遠距離攻撃の一斉射で仕留める。
魔物が素材に変わるまで待たず、回収は後から来るだろうロンソンさん達に任せて俺達は先に進んだ。
特に問題なく昼を少し過ぎた位に、1日目の野営予定の場所につく。
近くにいた魔物の群れを排除して暫く待つとロンソンさん達も欠員なく予定地についたので、大分早い時間だがロンソンさん達は野営の準備に入った。
俺達は夕食時まで新しく覚えたアーツの実戦テストをさせて貰い、食事を済ませると俺とティアの他にロンソンさん達も魔道具で結界を展開した。
ティアとファナを先に休ませ最初の夜番を受け持つ。
ロンソンさん達も一人夜番を立てているが特に話掛けてこず、不意にバハシルが気になって捕捉眼を起動してみると、14~5人の取り巻きと共にこの迷宮の7層の中程で俺達と同じように野営をしていた。
俺やロンソンさん達を追ってきたのか、日をまたいでの狩りか、どちらなのかは微妙だが注意する必要はありそうだ。
多少気分は重くなったが無難に夜半まで夜番をこなし、ファナへ引き継いでテントで眠りに落ちた。
2日目の移動と野営も問題なくこなし、身支度を整えウォーミングアップも終わらせる。
起きてすぐバハシル達の居場所を確認してみると、20層への階段付近にいたので俺達を追ってきたという事で確定だ。
読唇術で拾った会話の内容も雑談だけで目的は不明だが、もし揉め事が起こったら対応はロンソンさん達に丸投げするしかないだろう。
バハシルが近づいている事を教える訳にはいかないが、最後の打ち合わせのついでにロンソンさん達に注意喚起位はしておこう。
ロンソンさん達の撤収作業の終わりを待って話かけた。
「これから封印された魔物の討伐に向かいます。取り決め通り退路の確保と邪魔者の介入阻止の方、よろしくお願いします。」
「ああ任せておけ、セイジ達こそ困難な討伐になろう、武運を祈る。」
「有り難う御座います。ロンソン様も油断なきようにして下さい。」
頷いてくれたロンソンさん達が取り決めた待機地点へ向かうのを見送って、俺達は結晶の元へ向かった。
結晶が見える位置まで来ると武器を構え、さらに歩くペースを落として近づいて行く。
扉のついていない結晶が安置された部屋に俺が先頭で足を踏み入れると、鑑定していた通り結晶に変化が起きた。
結晶から高濃度の瘴気が湧きでると、それは結晶から離れた場所で一塊となり一気に肌を焦がすような熱気を放つ赤色のゴーレムへと変化した。
このゴーレムが結晶を調べて鑑定していた通りの魔物か、万象の鑑定眼で確認する。
マグマゴーレム Lv31
筋力 323
体力 186
知性 124
精神 155
敏捷 61
感性 61
アビリティ
マグマボディ
ギミックボディ
剛力
スキル
4個
調べていた通りの能力だったので矢から二人を守ろうと盾を構え手前に出るが、マグマゴーレムは俺の予想とは違う変化を始めた。
右手の拳部分が形を失うと共に直径50cm程の球体になり、瘴気を纏ったマグマゴーレムが振りかぶる動作を始めると共に危機感知スキルが強く反応する。
「散開!」
とっさに出した俺の指示に、ティアとファナも危機感知スキルが反応していたのだろう間髪を入れず応えてくれ、3人共マグマゴーレムが投げ込んできた溶岩球を回避出来た。
だがその溶岩球は鎖のようなものでマグマゴーレムとつながっており、すぐさまそれを手元に引き戻してマグマゴーレムは頭上で旋回させ始める。
厄介な飛び道具だが撃ち込んでくる瞬間が、攻撃のチャンスになりそうだ。
「溶岩球の回避が最優先。後はゴーレム戦のセオリー通り仕掛ける!」
「はい、セイジ様。」
「任せて、主様。」
俺の指示に答えてファナはグンとネイを実体化させてマグマゴーレムの包囲を始めてくれ、ティアも回避姿勢だが矢筒に手を掛けていつでも狙撃出来るように備えてくれる。
俺もマグマゴーレムと距離を詰め包囲に加わると、一番前に出ていたネイに溶岩球が振り下ろされた。
ネイはバックステップで回避し、その瞬間俺がさらに間合いを詰めるとマグマゴーレムの左拳が鎚に変わり打ち込まれてくる。
回避できたが防御膜を展開した盾でその鎚を受け止めるとマグマゴーレムの動きが止まり、その隙を見逃さずティアが狙い澄ました弓による水の精霊武技を核目掛けて撃ち込んでくれた。
勝ったと思ったが矢が直撃する瞬間、マグマゴーレムの体内で核が動いて矢をかわしてしまう。
まぐれでではないと確かめるため鎚を弾いてバックステップし、俺も錬鎧装矢弾で狙ってみるが核が体内で動いてかわされてしまう。
どうやらまぐれではなさそうだし、今の動きを核にされると直撃を撃ち込むのは難しそうだ。
ティアへ視線を向けると頷いてくれ、核への攻撃に擬態した前衛への援護射撃に切り替えてくれる。
他にもグンとネイがマグマゴーレムの攻撃を誘引してくれるおかげで、俺とファナが踏み込んで剣を撃ち込む隙が出来た。
何とか与えるダメージがアビリティマグマボディによる回復量を上回り始める。
撃ち出された溶岩球をティアが回避し、足に噛みつこうとしたグンへの鎚攻撃が、空振りして体勢が崩れたのを見逃さずファナが切り掛かる。
身体強化系スキルを使い鎧装纏状態で放たれたファナの一閃が、伸びきったマグマゴーレムの左腕を前腕の中程で切り飛ばし、ファナと同じ状態で続いた俺の水刃剛一閃も腰のあたりを引き裂いた。
大技を放った後のため俺とファナ共に間合いと取ると、マグマゴーレムの左腕はつながり始め腰の傷も再生が始まる。
だがその分ライフの回復速度は極端に下がっているので、ここが攻め時だろう。
「二人とも、ここで畳み掛けるぞ!」
はいと言うティアとファナの返事を聞いて再度間合いを詰めようとすると、マグマゴーレムが攻め手を変えてくる。
足元から円状にマグマが地面を這いはじめ、すぐに属性ピラーのような攻撃だと気付けた。
ダメージ覚悟で斬り込むか一瞬迷うが、
「ファナ、ティアの所まで後退だ。」
幻獣たちと共に後退するファナに続いて俺も下がった。
ティアの元へ走りながら俺もウォーターピラーを準備し、溶岩球を迎撃するため弓を構えたティアと先に後退していたファナの元に着くとすぐさま発動する。
俺達の足元を除いて広がっていく水円とマグマが接触すると、お互いを削り合いながら天井へ向かって立ち上っていった。
ティアも同種の精霊術ですぐに加勢してくれ、マグマピラーの相殺には成功するがこの防御の選択は悪手だった。
お互いの魔術が霧散し視界が戻ってくると、マグマゴーレムの傷は完治しており、その上両腕が融合して大砲のようになっていた。
砲門はこちらを捉えており、チャージ光のようなものが光度増すと危機感知スキルの反応も強くなる。
完全に足が止まっている以上、防御しか選択肢は無い。
「ティア、精霊術と法術で防壁展開!」
指示を出すと同時に俺もウォーターウォールと対魔法障壁の展開を始め、俺とティアの防壁展開とほぼ同時にマグマゴーレムも大砲を撃ち込んできた。
発射された溶岩の弾体は、防壁に当たるたびに威力を減じていくようだったが、4枚の防壁を全て貫いて俺達に迫る。
弾体の軌道は目で追えていたので、防御膜と抵抗膜を重ね掛けした盾を掲げて右手でも支えて溶岩の弾体を受け止めた。
盾から伝わってくる衝撃の大きさに吹き飛ばされそうになるが、ファナが背中を支えてくれ何とか持ちこたえる。
溶岩の弾体が盾の表面で弾け飛んだが、何とか防御しきれた。
だが防御した左腕は殆ど麻痺しているし、支えた右腕も剣を握れるか怪しい。
その上マグマゴーレムは体を覆っていた瘴気は消えているが、鑑定してみるとライフは完全に回復していた。
これで瘴気まで時間経過で回復されてしまうと、明らかにこちらがじり貧となるのが目に見えているので、ここは勝負に出るしかない。
幸いリスクはあるが逆転を可能にする切り札はあるので、撤退は切り札を切ってみてから考えればいいだろう。
「ティア、ファナ、アイツが回復しきる前に今度はこちらが勝負に出る。俺がアイツの懐に飛び込めるよう援護してくれ。」
そう指示を出し二人の返事を待たずに走り出す。
加速しながら剣は抜かず、土の精霊武装で右腕に肘まで覆うガントレットを作り出す。
ティアとファナが左右に分かれながら弓と弩で援護射撃してくれる中、俺は正面からマグマゴーレムに仕掛け、
「限界突破」
アビリティを発動させる。
矢による攻撃を無視してマグマゴーレムは拳を撃ち込んでくるが紙一重でかわし、飛び込んだ勢いも上乗せして武技アーツ螺旋撃を発動させた右拳をみぞおち付近に撃ち込む。
肘の近くまで右腕をねじ込み、アビリティや強化スキルで増幅した気力浸透波と魔力浸透波を同時に体内へ叩き込み一気に全身へ伝播させ核を捉えた。
両浸透波が周辺の大気や迷宮の床まで伝播すると、俺を抱き潰そうとしていたマグマゴーレムは動きを止める。
右腕を引き抜きバックステップで距離を取ると、レベルが上がった時の漲る感覚の中、マグマゴーレムの形は崩れていき靄を経て何も残さず迷宮の大気にとけて消えた。
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