炎の溜り 4
アトミランさんを先頭に続く騎士達のさらに後ろについて迷宮の入口近くまで移動すると、既にロンソンさんが指揮している3〜40人程の騎士や従士の一団がいた。
他にも銀の腕章をつけていたり、いなかったりする2〜30人程の討伐者の一団もいて、作戦前の最後の確認作業をしているようだった。
アトミランさんはロンソンさんの元へ行き、騎士の人達も同僚の中に混じったので、俺達は騎士から少し離れて突入順の待つ事にした。
それでもただ待つのも退屈なので、魔眼で迷宮内の様子を確認してみる。入口から俺達が通る道順を重点的に確認してみると、入口に魔物が貯まっていたり異様に密度が高かったりという事は無かった。
魔眼で見た迷宮の状況から作戦は上手く行きそうなのでそれほど緊張せず待っていると、騎士と討伐者の両集団が段々と静かになっていく。
アトミランさんが直率する10人程の班が入口に展開し、ロンソンさんが掃討開始と号令をかけると、迷宮の扉を開けアトミランさんの班が突入して行った。
続けてロンソンさんの護衛役以外の騎士や従士が迷宮へ突入して行き、騎士や従士の最後の班のすぐ後について俺達も迷宮の中に入る。
先行してくれている騎士や従士たちのお蔭で、担当する区画に着くまで剣を抜く事無く着く事が出来た。
ここまで迷宮内とは思えないほど楽にここまで付けたので、ティアとファナや俺自身にも気合を入れ直す為に、二人に声を掛けた。
「さて、ここからが俺達が掃討を担当する区画だ。怪我をしないように無理せず確実に魔物を仕留めていこう。」
「はい、援護射撃はお任せください。」
「わたしも奇襲は絶対にさせない、まかせて。」
俺が頷くと二人も頷き返してくれ、三人共武器を構えて担当区画に足を踏み入れた。
俺とファナが軽い火傷を負ったが、魔物の掃討自体は何とか済ませ、掃討完了後にこの階層担当の者が集まる集結地点へ向かうと、もう何人かの騎士と従士が集まって来ていた。
先に来ていた者達の怪我の手当てを手伝いながら互いの状況を確認していると、他の騎士や従士も集まってきた。
大体の物が軽傷を負っていて中には重症の者もいたが、何とか死者無く予定の人員が集まれたので撤収を開始する。
怪我をした者達の手当てをしながら移動し、下の階から上がってきた騎士や従士たちを加えて上の階を目指した。
途中ギルドの討伐者達も上層で加わり迷宮を出ると、地上はもうだいぶ暗くなっていた。
未帰還者がいない事が確認されるとロンさんが作戦の終了を告げると、討伐者達は各々この場から散って行き、騎士や従士たちは迷宮入口の警備の者を残して砦へ引き上げた。
俺達は砦内で暫く待たされ、アトミランさんから報酬のお金と約束を書面にした証書を貰って、ミラルテの街へと転移した。
宿へ戻り夕食を頼むと、女将から遅いと文句を言われるが、それでも食事を用意してくれる。
その夕食を平らげて部屋に引き上げ、装備を脱いで生活魔術で身を清め結界を張ると、ベッドで横になりティアとファナを抱き寄せた。
いつもならティアとファナを満足するまで楽しませた貰う所だが、今日は昼間の魔物掃討の時に感じた問題点の解決策を考えよう。
まずは問題点の確認だ。
一つ目は複数のフレイムゴーストとカーズドエレメントの組み合わせの群れと当たった時、それらからの魔術攻撃でファナが近づけず防御一辺倒になった事だ。
耐久より敏捷が高い能力値や装備の関係上、ファナが盾役に回るのは悪手だろうから何か改善が必要だろう。
二つ目は先の群れや炎弾を吐き出すフレイムウルフの群れと会った時、俺やファナが炎系の攻撃の集中砲火を浴びせられた事だ。
気鎧や魔装衣に気纏や魔纏を使っていた他ティアが水の精霊ですぐ火を消しくれたので、服や鎧はすすがついた程度で火傷もごく軽いもので済んだ。
だが迷宮の下層へ向かえば当然炎の攻撃も強力になってくる筈で、こちらも防御の強化が必要だろう。
三つ目はロックゴーレムと鑑定出来た岩製のアイアンゴーレムの類似種と当たった時、ティアやファナが上手く核の位置を自力で見つけ出せなかった事だ。
後は戦う相手の関係でティアの放つ矢の消耗が、いつも以上だった事位が問題点か。
さて解決手段だが、一つ目はファナに遠距離攻撃手段を身につけて貰い、三人で相手の射程外から攻撃するか、最悪俺が盾役に回ろう事だろう。
ファナの能力値やクラスを考えると身につけて貰う遠距離攻撃手段は、弓に錬気弾や錬魔弾といった所か。
別に一つに絞る必要は無いから、対応するスキルは全部覚えて貰おう。後はどんな弓を使わせるかだが、これは明日ファナと相談して決めればいいだろう。
二つ目は炎に抗する為のスキルやアーツをアリア嬢に教えて貰おう。
俺もどんなアーツブックが在るか調べているが、聞いた方がより確実だろう。
後それと併せて防具の耐火性強化も目指してみよう。
俺のアビリティの効果で全員の武具のレベルは結構上がっていて、この街にはデジレさんという付与術師がいるんだから、耐火の付与が出来ないか話を聞いてみるだけでも損は無い筈だ。
明日、朝一でデジレさんの工房に出向いてみよう。
三つ目はティアとファナ両方瘴気探知スキルを身につけて貰えばいいだろう。
俺も最初はゴーレムの核を探すのに、鑑定眼と透視眼を併用していたが、今は魔眼で探すのとほぼ誤差なく瘴気探知スキルで見つけ出せる。
二人に瘴気探知スキルを覚えて貰えば、程なくこの問題は解決するだろう。
ついでに気配探知や危機感知のスキルを覚えて貰えば、二人の安全性が増しファナの索敵能力の押上げにもつながる筈だ。
後はいつの以上に十分矢をポーチに備蓄して置けは問題ないだろうが、それでも矢が尽きた時の対策は必要だろう。
無くなったなら作るしかない訳で、いつも手元にある材料となるとプラーナやマナ位だろう。
実際上手く行くか試してみるため、ファナには悪いが枕にしていた右手を抜いて錬気弾を生成する。
生み出した錬気弾をティアが使う矢の形に成形してみると、すんなり矢の形をした錬気弾を生み出せた。
上手く行ったので一旦それを消し、今度は始めから矢の形をした錬気弾を生成してみるとこれも上手く行き、試しに動かしてみると投槍より自由に操れそうだし連射も出来そうだ。
これなら矢弾としてこのまま俺も使えそうだし、後はティアが実際に錬気弾と錬魔弾のスキルを覚えて試してみるしかないだろう。
これで見つけた問題点の大まかな解決策は思いついたが、ティアとファナの気鎧系と魔装衣系のスキルが増える事になるので、二人には気鎧術スキルや魔装術スキルを覚えて欲しくなる。
ミルネ教会にこの二つに対応するアーツブックが在るのは確認しているが、統合スキルの普通の取得条件によっては、流石におかしいと思われるかもしれない。
だがあれば間違いなく有益なので、アリア嬢に口止め料を払う事になっても二人には統合スキルを覚えて貰う事にしよう。
大体考えが纏まり少し頭が重いが、心地いい疲労なのでもう一度二人を抱き寄せてそのまま眠りに落ちた。
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