情報を求めて 2
ミルネ教会を出るとそのまま道を横切って斜向かいにあるギルドに入る。
丁度お昼時で賑わう酒場を横目に、依頼表を吟味する討伐者の中に混ざった。
ティアとファナにも協力して貰い、ルディアへ向かう商隊の護衛依頼を4〜5件見つけ、条件の詳細や差異を聞く為受付に向かう。
手すきの受付嬢に話を聞こうと近づくと向こうから話かけてきた。
「すみません。貴方が腰に着けているポーチは亜空間ポーチではありませんか?」
「そうですけど、何か問題があるんですか?」
「そうではありません。実は亜空間ポーチをお持ちの討伐者の方に当ギルドから依頼したい事があるんです。」
「ギルドからの指名依頼って事ですか?」
はいと言って頷いた受付嬢が続けて話してくれる依頼の内容を要約すると、ダレンへの援軍がまだ十分帰還しておらずかなりの人手不足になっているらしい。
その所為で運よく見つかった近場の新しい迷宮の一般討伐者への解放準備が全く進んでないそうだ。
最近盗賊騒ぎがあったせいで、迷宮周辺の建物を整備する大工や荷運びの人足が移動を怖がり、その護衛をする討伐者が少ない事も準備が進まない原因のようだ。
その為亜空間ポーチを持っている俺達に迷宮周辺整備の為の物資を運んで貰い、ついでに大工を迷宮まで護衛して欲しいという内容だった。
報酬は応相談という事だし王都に向かうと決めているが、急いでいる訳では無いし、見つけた迷宮を可能なら調べてみたいので、この依頼受けてもいいと思う。
後はどれ位の要求ならギルドは飲んでくれるかだが、求められている依頼の内容から考えて見付けた迷宮での制約の無い魔物狩りの許可か、ファナのランクDへの昇格試験の免除位だろう。
ダメ元でこの二つに物資の輸送料と大工の護衛料を加えて依頼の報酬として要求すると、
俺達のカードを確認した後上司と相談すると言って受付嬢は事務所の中に消えた。
それから30分ほど待たされた後、受付嬢が一枚の依頼表を持って事務所から出て来て、その依頼票を俺に手渡してくれる。
依頼表を確認してみると俺が要求した報酬での物資と人員の輸送依頼だが、迷宮での魔物狩りの許可と昇格試験の免除は、輸送量が規定量を超えたら認めると但し書きがあった。
規定量は依頼表に明示してあり、ポーチが満タンになるまで荷物を入れて運べば、6〜7回で済む位の量なので妥当な所だと思う。
その上ギルドの壁に張り出されている依頼より輸送や護衛の報酬を増額してくれてもいるようなので、これなら引き受けても構わないだろう。
神妙な表情でこちらの返事を待っている受付嬢に、この依頼を引き受けると伝えると安堵の表情を浮かべ、明日からお願いしますと頼んでくるので了解する。
明日の朝ここに顔を出すと受付嬢に約束してギルドを出た。
予想外の展開で時間が掛かってしまい、アリア嬢をだいぶ待たせてしまっている筈なので、足早に通りを横切りミルネ教会に入る。
そのまま資料棟に向かうと、カウンターに置かれた本の近くでアリア嬢が座って待っていてくれた。
待たせた事をアリア嬢へ詫び資料を手に取った所で、このままだとティアとファナをただ待たせてしまう事に気付く。
どうするかと少し考えるが、二人には暇つぶしを兼ねてアーツブックを読んで貰えば良さそうだ。
ティアには結界法術のファナには速読のアーツブックを読むよう指示して、アーツブックを持って来て欲しいとアリア嬢に頼む。
するとアリア嬢は俺の頼みを快諾してすぐにアーツブックを取りに行ってくれ、その姿を見送ってから幻獣の資料に目を通し始めた。
アリア嬢が用意してくれた資料によると幻獣は、魔核石を触媒にプラーナとマナで形作った魔物の事のようだ。
触媒に使う魔核石を落とした魔物を再現して形作られる幻獣は、自我を持つが自身を製作した創造者や魔核石を引き継いだ契約者に服従するとあるので強力な戦闘手段になりそうだ。
重篤なダメージを受けたりプラーナとマナの供給が無くなると実体化が解け、触媒にした魔核石を砕かれるとその幻獣を失う事になるなど運用上の諸注意も色々あるが有用な事に変わりは無いだろう。
また鑑定で見たファナのクラスの一つは、幻獣の強化や使役に適したクラスだったので、より有効に使う事が出来ると思う。
資料を読み進める内、持っているミスリルゴーレムの魔核石も幻獣化出来るかと期待が膨らんでくるが、魔物を倒して魔核石を手に入れてから12時間以内に最初の幻獣化を行わないと、その魔核石は幻獣の触媒として使えなくなる、という記述が出て来て内心がっくりきた。
続けて資料を読んで行くと内容は具体的な幻獣の創造方法や使役方法へと続き、一度創造した幻獣の強化方法へと移っていく。
その強化方法は実体化している幻獣に魔核石を取り込ませるというもののようで、レベルが上がるだけではなくスキルやアビリティを得たり上位種に変化したりする事もあるようだ。
なんだか育成ゲームのようだがその分、分かり易いし馴染み易そうだ。
そして資料は最後に有名な幻獣使いを紹介しており、その中にはコリレスの街に仕掛けて来たガレリアス幻獣騎士団の記載もあった。
一通り資料に目を通し終わるとティアはアーツブックを読み終わっており、ファナはもう少し残っているようだった。
外へ目を向けると大分空が赤く染まって来ているし用は済んだので、ファナがアーツブックを読み終わったら宿へ戻った方が良さそうだ。
だが帰る前に以前の分を含めた情報料と謝礼をきちんと払っておいた方が、今後も気持ちよく情報を提供してくると思う。
ファナがアーツブックを読み終えた所で、資料棟に残っていてくれたアリア嬢へ声を掛けた。
「アリアさん今日はこれで帰ります。後これは今までの情報料と謝礼です受け取って下さい。」
「前にも言いましけど情報料や謝礼など必要ありませんよ。知識を広める事はミルネ様の教えなのですから。」
そう言ってアリア嬢は俺が差し出した金貨の受け取りを手を振って拒むが、ここ多少強引でも受け取って貰おう。
「ならこの金貨はこの教会への寄付にします。それなら受け取って貰えますよね?」
「・・・分かりました。有り難く頂戴します。」
困ったような表情のアリア嬢へ金貨を手渡し一礼してミルネ教会を後にした。
ミルネ教会を出た後、真っ直ぐ宿屋に戻ると食堂で夕食の提供が始まっていたので、部屋の戻らずそのまま食事を済ませた。
部屋に戻って装備を脱ぎ生活魔術で三人の身を清めて、全員で寝られるようベッドを寄せた。
魔道具と法術で結界を張った後は、ベッドに腰掛け休むふりをしてミルネ教会にどんなアーツブックが在るか魔眼で確認していく。
以前は邪霊の灰を集める事優先でやらなかったが、鑑定でスキルやアーツの効果が分かるので俺が知らない有用なものを見つけ出せると思う。
流石に量が多いので何日かに分けて調べる事にして適当な所で切り上げ、ベッドで横になって休んでいたティアとファナへ順番に覆い被さり、昨夜とは違いちゃんと楽しんで眠りに落ちた。
お読み頂き有難う御座います。




