情報を求めて 1
少し短めの今日三回目となる転移を行い、ミラルテの街の防壁を目視出来る街道脇の森の中に転移した。
50mほど歩いて街道に出ると、門の前にできていた街に入る為の順番待ちをしている列に並ぶ。
商隊の護衛として来た時より大分待たされたが、ギルドのカードのお蔭ですんなりと街の中に入ることは出来て、まずは今日の宿を取る事にした。
以前ミラルテの街にいた時使っていた宿屋に入り、見知った女将に三人で泊まりたいと告げると部屋をどうするか聞かれる。
この宿は前に使った2人部屋の他に1人部屋と4人部屋があるそうで、少し無駄になるが4人部屋へ泊まる事にした。
取り敢えず1泊分の宿代を払い、鍵を受け取って部屋の確認に向かう。
ベッドが4つある部屋を確認すると鍵をかけて宿を後にした。
少し早いが以前も使っていた屋台で昼食を済ませてミルネ教会に向かう。
ミルネ教会の外から魔眼で内部を探し、資料棟でアリア嬢が掃除をしているのを確認して、入口付近にいた人にアリア嬢への面会を依頼した。
資料棟で掃除をしている筈だから自由に会いに行っていいと、声を掛けた人が答えてくれたので礼を言ってミルネ教会の中に入る。
真っ直ぐ資料棟に入り掃除をしていたアリア嬢に声を掛けた。
「お久しぶりです、アリアさん。」
アリア嬢は掃除の手を止めて声を掛けた俺に向き直ってくれる。
「確か、セイジさんにティアさん。お久しぶりです。」
「覚えていてくれ有難う御座います。今日は教えてほし事があって訪ねて来たんですけどその前に紹介させてください。新しいパーティーメンバーのファナです。」
「よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。」
二人の挨拶が終わった所で早速迷宮の情報とドワーフの職人の居場所についての情報をアリア嬢に尋ねると分かりましたと答えてくれた後、掃除道具を片付けて資料棚の間に消えていった。
2〜3分待っていると丸めた紙を持って戻ってきたアリア嬢が、カウンターの方へ行きましょうと言うのでついて行く。
カウンターにつくとアリア嬢は手に持っていた紙をその上に広げて、俺達がその紙に描いてある物を目にすると俺の方へ向き直った。
「これが何か分かりますか?」
「西ヴァルノムの地図ですかね?」
「その通りです。あまり詳細ではありませんが西ヴァルノムの地図です。」
そこまで話してくれたアリア嬢だが、ニコニコ俺を見上げてくるだけで続きを話してくれないようなので、俺から話を振らないといけないようだ。
「ああ、この地図で迷宮の場所を説明してくれるんですね?」
「違います。王都への行き方を説明する為にこの地図は持ってきたんですよ。」
「王都、ですか?」
「はい、この教会にも近場の迷宮や魔境の情報ならありますが、各地の迷宮や魔境から集まる素材の集積地として発展した王都の迷宮ギルドには比べ物にならない情報があると思います。加えて王都近郊の鉱山には西ヴァルノム最大のドワーフの集落があると聞いています。多くの迷宮の情報を手に入れ、ドワーフの腕利きの職人を探すなら王都を目指すべきだと思いますよ。」
そう説明しながらアリア嬢は地図の中央付近にあるバルラーンという地名を指差し、次にバルラーンの南側にあるアミオンという地名を指差した。
という事はバルラーンが王都でアミオンがドワーフの集落がある鉱山だろう。
「なるほど、よく分かりました。地図を見るとミラルテから王都への行き方は幾つかあるみたいですけど、主要な道はどれになりますかね?」
「まずは、ここからルディア経由で王都へ向かう道ですね。きちんとした道が整備されていますし人の往来も盛んですから迷う事は無いと思います。」
説明を一旦区切ってミラルテを差したアリア嬢の指が、地図上の北側に滑りルディアと書かれた場所を示して、そこから西へ動いてバルラーンで止まった。
「後は、ここからクイルという港町に出て海路を使いシュクラという港町に移動し、そこから王都を目指す道ですね。距離的にはこちらの方がルディア経由より長いと思いますが、海路を使う関係上移動時間はそれほど違わないと思います。ただこの海路は海賊の話をよく聞くので安全面ではルディア経由より劣るかもしれませんね。この二つがここから王都に向かう主な道ですね。」
そう話してもう一度ミラルテを差したアリア嬢の指が、今度は南側に滑りクイルという地名を経由して海岸沿いをなぞり、シュクラという場所を経てバルラーンを差した。
アリア嬢は今の二つが主な道だと言ったが、地図上ではもう一つ道があるように見える。これについても教えて貰っておこう。
「アリアさん、地図上ではここから南下してシェイドという街に出て、そこから王都への道があるように見えるんですけどこの道はどうなんですか?」
「ああ、その道はシェイドから途中まではしっかりとした道があるんですが、そこからは湖沼地帯や魔境を抜けていく事になるので余程旅慣れた人でないと迷う事になる道ですね。」
「確かにその道は俺達には使えませんね。無難にルディア経由で王都へ向かう事にしますよ。」
笑顔で頷いてくれるアリア嬢を見て、前回調べ物を手伝って貰った時も最後は笑顔だった事を思い出した。
それが芋づる式に精霊の場を見つけた事を思い出させてくれる。
俺やティアの扱える精霊の種類を増やしてみたいので、似たような場所を他に知らないかついでに聞いてみよう。
「そういえばアリアさん、以前魔境の情報収集に手を貸してくれたのを覚えていますか?」
「はい、覚えていますよ。」
「実はあの情報の中にあった不思議な場所でティアが新たな精霊と契約出来たんですよ。他にも似たような場所をご存知なら教えて貰えませんか?」
俺からの問いかけに少しアリア嬢の表情が曇る。
「申し訳ありませんが思いたる場所は無いですね。ただ精霊を求めてという事ならエルフの里を訪ねてみてはいかがですか?」
「もしかしてエルフの里の場所をご存知なんですか?」
「はい、以前セイジさんに精霊の事を聞かれた後、気になって少し調べてみたんです。そうすると先程話したルディアの街から中央山脈へ分け入った場所に影エルフの集落があると分かりました。そちらを訪ねてみてはどうですか?」
「ルディアは王都に向かう途中で通りますから丁度良いですね。具体的な位置や接触する為の条件もご存知ですか?」
「ごめんなさい、そこまでは分からないんです。ただルディアのギルドが外との交渉の窓口になっているそうですからそこで調べてみてはどうですか?」
「なるほど、それが良さそうですね。精霊だけじゃなく迷宮やドワーフの職人についての情報提供、有難う御座います。」
「いえ、教義に従っただけですから。」
曇った表情を笑顔に変えて答えてくれたアリア嬢に、もう一つ知りたい事を聞いておこう。
「最後に幻獣についての資料があるなら読ませて貰えますか?」
「幻獣ですか。そうですね・・・いくつかあると思います、少し待っていて下さいね。」
待つ事は苦にならないが時間が掛かるならやりたい事があるので、そう言って背中を向けるアリア嬢に声を掛けて引き留めた。
「アリアさん、待ち時間はどれくらいになりますかね?」
「そうですね。10分から20分位かかりますね。」
「ならその待ち時間の間にギルドへ行ってルディア行の良い依頼が無いか確認して来ていいですか?」
「そうですね、ギルドは近いし良い考えです。資料が早く集め終わったらカウンターの上に出しておきますから、依頼を確認し終わったら戻って来て下さい。」
「分かりました。お願いします。」
笑顔で頷いてくれ資料棚の間に消えたアリア嬢を見送って俺達も資料棟を後にした。
お読み頂き有難う御座います。




