迷宮の底 4
目が覚めると一緒に寝た筈のティアとファナがベッドの中にいないので、気配探知で離れの中を探ってみるが見つけられない。
ならもう店の方で朝食の準備をしていると思うので俺もベッドから出て身だしなみを整えて離れを出て、店に顔を出すとすぐに全員で朝食になった。
朝食後離れに戻り全員装備を身に着けて玄関前に集まる。
何か忘れている気がしていたがファナの装備を見てオークカーズナイトから手に入れた大剣を渡し忘れていた事にやっと気がついた。
慌ててポーチから大剣の取り出しファナに向き合った。
「ファナ、今日からはこの大剣を使ってくれ。」
俺が差し出した大剣を受け取ったファナは、剣を確かめてから困惑げに俺を見上げてきた。
「こんないい剣、本当に使っていいの?主様。」
「ああ、構わない。それと今日からはティアの護衛役を外れて前衛で戦ってもらおうと思ってるから、その剣も上手く使ってくれ。」
「うん、がんばる。」
嬉しそうに表情になったファナが外した剣を受け取り、予備としてポーチの中に仕舞う。ついでにクラスを整える為渡した剣を身につけているファナに声を掛けた。
「ファナはどんなクラスが解放されてる?」
「えっと、獣戦士、幻獣操士、闘士、狩人、この四つ」
「そっか、じゃあ獣戦士を一番目に後はファナが言った順で四つともクラスに設定してみて。」
俺の指示に剣を装備し終えたファナは小首をかしげるがすぐに目を閉じて集中してくれ、目を開けると驚きの表情で俺を見上げてきた。
「四つとも設定できた、どういう事?主様」
「それは、俺のアビリティの効果だと思ってる。どうやら俺のアビリティは所有物を強化出来るみたいなんだ、その効果でティアも複数のクラスを設定してるからファナにもいけると思ったんだ。後ティアにも言ってあるけどこの事は決して他言無用だ。いいな。」
俺の指示にファナは神妙な表情で頷いてくれる。
ついでに今更だが獣戦士のクラスと、初見の幻獣操士のクラスについて聞いておこう。
「じゃあ、闘士と狩人のクラスについては知ってるから、獣戦士と幻獣操士のクラスについて教えてくれるか?」
「うん、獣戦士は気鎧と魔装衣を問題なく併用できる獣人特有で憧れのクラス、でも幻獣操士の事は何も知らない、ごめんなさい。」
「謝らなく良いよ。幻獣操士については今度ミルネ教会で調べてみよう。もしクラスその物の情報が無くても幻獣について調べれば大体の概要は分かるだろうしね。」
今までの会話で必要な事は大体分かったし鑑定で分かっているが魔眼を隠す為次の質問はしておいた方が良いだろう。
「後はどんなスキルをファナは身につけてる?」
「大剣と格闘、この二つだけBPで取得した。」
「分かった。他に覚えて欲しいスキルは特別なもの以外アーツブック経由で覚えて貰うから、BPは温存しておいて。」
「分かった。主様。」
「それからファナってギルドのカード持ってる?」
「持って無い。」
そう返事と同時にファナは首を横に振った。
「そっか、ならファナのカードも作ろう。」
これで確認は終わったので頷いてくれるファナとティアに行こうと声を掛けて離れを出た。
裏庭に出ると俺だけ店の方に顔を出し、ジャンナさんへ本格的に迷宮での狩りを再開する事を伝え薬草はどうするか聞いてみた。
すると獣人の里からの分で当分賄えるから自由に狩りをしていいと答えてくれので、了解と返事をして店を出てティアとファナを連れてギルドに向かった。
ギルドに入ると早速受付でファナへカードを発行して俺達のパーティーへの加入手続きをして貰う。
手続きの待ち時間中暇つぶしに依頼表を見ていると、昨日は気づかなかったが11層への階段の情報提供が結構な額の報酬で依頼として張り出されていた。
すぐに情報を提供しようかとも思ったが立ち入りを制限されてしまうかもしれないので11層より下に何があるか確認してからした。
そう考えが大体まとまった所で受付嬢がファナのカードを持って来てくれたので、受け取り礼を言ってその場を後にして迷宮に向かった。
迷宮に入ってからは真っ直ぐ螺旋階段で10層に下り、11層への階段を最短ルートで目指す。
昨日と同じようにメタルベアーの密度は高いが迂回はせず倒して進んで行く事にした。
ファナはまだレベルが6なので戦闘はさせず、遭遇したメタルベアーは俺とティアだけで狩り素材を回収して進んで行く。
隠し階段がある部屋の近くに来るまでに7匹のメタルベアーを狩りファナのレベルを確認すると13まで上がっていた。
このレベルなら十分戦闘に耐えられそうなので11層からは戦って貰う事に決め、隠し階段がある部屋に足を踏み入れた。
部屋の中に入りアイアンゴーレムが現れないのを確認してポーチから満充填した帰還結晶を取り出す。すると昨日と同じように壁が動いて通路が現れ、ティアとファナが驚きの声を上げた。
驚いている二人に昨日新しい帰還結晶を取りに来た時偶然気付いたと告げ、調べてみようと二人を促して隠し通路に入った。
11層への階段を下りる途中ここからはファナにも戦って貰う事の告げると気合を入れた表情で頷いてくれる。
11層につくと周囲を一応魔眼で確認し、索敵を頼むとファナに告げ一番近くの魔物の群れへの誘導を頼むとこっちと言って先を歩き始めてくれた。
曲り角の手前でファナが止まったので俺も足を止め角の先を魔眼で見てみると、ソルジャー3に弓装備のレンジャー1とウィザード1で構成されたゴブリンの群れがいた。
振り返ったファナが俺を見上げてきた。
「この先にゴブリンの群れがいる。出している音から前衛3に後衛2だと思う。」
「分かった。さっさと狩ってしまおう。まず俺とティアが術をここから打ち込むから、それと同時にファナは突っ込んでくれ。俺もすぐ後に続くから。後は俺が前衛役を引き付けるから、ティアとファナで後衛を始末して加勢してくれ。俺が引きつけている内に順番に片付けていこう。」
そう声をかけると二人とも頷いてくれるので、俺も頷き返して魔術の発動を始める。
ティアも精霊術の発動を始めてくれ、目配せをして同時に曲射で撃ち込むとファナは飛び出していった。
俺もすぐ後に続き角を曲がり群れを直に確認すと、ティアの矢がレンジャーの肩を射抜いたのでファナへウィザードを狙うように指示しソルジャーの1匹に切り掛かる。
魔術と精霊術のよる攪乱で構えの取れていないゴブリンソルジャーを武技アーツ一閃一撃で片付け、他の2匹のソルジャーを牽制し注意を引く。
俺に掛かってくる2匹のソルジャーと数撃打ち合い片方を切り倒してもう一方に向き合うと後ろに回り込んだファナが一撃で仕留めてくれた。
周囲を確認するとレンジャーは弓でウィザードは剣で倒されていたので一つ息をついて剣を鞘に仕舞い素材を回収した。
この後も三人で連携しキラーアントやハウンドウルフの上位種の群れを狩って行き、昼食休憩を挟みながら11層で夕方まで狩りを続けた。
11層での狩りを切り上げて10層に戻り、メタルベアーを今度は三人で倒しながら螺旋階段に向かう。
螺旋階段に着いて1層を目指して階段を上がる途中、ふと気がついた。
このまま11層で得た素材をギルドで換金すると上位種の素材から11層への出入りが確実にばれると。
だんだん近づいてくる1層にどうするか悩むが、取り敢えず今夜11層以下を魔眼で調べてから改めて決めればいいと気付けたので平静を装って迷宮を出る事が出来た。
ギルドの受付でメタルベアーの素材だけ換金し、ファナの借金分を返済した上で残りを受け取ってギルドを出た。
アルバン魔法薬店に戻り装備を脱いで全員で食事をして離れに戻る。
三人一緒に風呂に入り上がるとティアとファナに考えたい事があるから先に寝るよう告げて食堂の席に座った。
ティアとファナが二階に行ったところで考える仕草をして魔眼で迷宮を調べていく。
11層から下へ調べてくと15層が最下層のようで中心付近の部屋に巨大な水晶が安置されていた。
その水晶付近に面白そうな物が落ちているが今どうしても欲しいという物ではなさそうだし他に面白そうな物もないようだ。
11層から下に潜れなくなっても問題なさそうなので階段の情報をギルドに伝えて報酬を貰うとしよう。
調べが終わるのに夜半過ぎまで掛かってしまったのでもう寝る事にする。
二階の寝室に入ると寝たふりをして待っていてくれた二人に礼を言い、間に入って左右に抱き寄せて眠りに落ちた。
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