表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/126

迷宮の底 1

 久しぶりにぐっすり眠れたおかげで爽快に目覚める事が出来た。

 ベッドから出て伸びをしてみてももう脇腹に違和感はしない。

 身だしなみを整え部屋から出ると離れに人の気配がしなかったのでそのまま店の方に向かう。

 店のダイニングに顔を出すと丁度朝食の準備が終わった所で、全員で食事をした。

 その後ティアとファナを連れて離れに戻り、今日に予定を考える。

 ファナを獣人の里まで送らなければならないが、まだ朝早い時間なので先にギルドで証書を換金する事にしよう。

 ファナに帰り支度をするように伝え、武器だけ身につけティアを連れてギルドに向かった。


 ギルドに入るとむせるような酒の匂いがし思わず顔をしかめてしまう。

 酒場の方に視線を向けると酔いつぶれた者や夜通し飲み明かしまだ飲んでいる者達で溢れかえっていた。

 それでも受付を開けていてくれるようで手空きの受付嬢に話かけた。

「完了証と討伐で手に入れた素材の換金を頼めますか。」

「承ります。まず証書をお出しください。」

 頷いてポーチから瘴気泉発見と討伐参加にミスリルベアー討伐の3枚の証書を取り出して受付嬢に渡す。

 証書にざっと目お通した受付嬢が顔を上げた。

「申し訳ありません。このミスリルベアーの討伐証は証明となる物の付随が必要になります。倒した時に手に入れられた素材をお持ちですか?」

「魔核石と毛皮を手に入れましたけど、両方提出しなければいけませんか?」

「いえ、どちらか一つで結構です。」

 なら魔核石と毛皮どちらを手元に残すかだな。

 今の所魔核石は魔道具に魔力を充填するくらいしか用が無いがこれは他の魔核石でもできる。

 一方毛皮は防具に加工できるかもしれないので毛皮の方を残した方が良さそうだ。

 そう考えミスリルベアーの魔核石をポーチから出し受付嬢に渡すと証書を受理して貰えた。

 続いて討伐で手に入れた色々なオークの素材をカウンターの上に出し俺とティアのカードも渡すと、応援の人と一緒に受け取った受付嬢は一礼して奥に引っ込んだ。


 壁に貼られた依頼票を確認しながら時間を潰していると対応してくれた受付嬢がお金の入った袋と俺達カードを持って帰ってきた。

 袋とカードを受け取って袋の中を確認すると、聖銀貨が2枚に金貨や銀貨に銅貨が数枚ずつ入っていた。

 これは証書の通りだがカードの方を確認するとランクがDに上がっていて、それはティアの方も同じでどういう事か受付嬢に問いかけた。

「二人ともランクがDに上がっているんですけど、これはどういう事ですか?」

「それは今回のお支払でお二人の累積金額が100万ヘルクを超えてランクDへの昇格条件を満たし、瘴気泉発見、ミスリルベアー討伐の功績で昇格試験の免除が決まりましたのでそのままランクDとさせて頂きました。ご不満がおありでしょうか?」

「いえ、そういう事なら有り難く受けさせて貰います。それと一つ教えて下さい。迷宮の解放はいつになりますか?」

「迷宮は本日から解放されています。いつでもご利用下さい。」

 そう教えてくれた受付嬢の前を辞し、酒臭いギルドを後にした。


 離れに戻るとファナの用意は終わっていた。

 魔境は減衰していたので魔物と戦う事は無いと思うが一応装備を身につけて獣人の里に行って来るとジャンナさんに声を掛けた。

 瘴気の濃度は下がっている筈なので転移で移動できないか試してみると、上手くいきそうなのでティアとファナに声を掛けて揃って獣人の里へ転移する。

 門の近くに転移したせいで門番達に警戒されてしまったが、声を掛けると俺達だと気付いてくれ里の中に通してくれた。


 里の様子を中から確認すると木の塀は直されていたが、まだ里のあちこちにオーク達に襲われた時の被害が残っていた。

 借家には寄らずそのままテーベイさんの家に向かい面会を頼むとすぐにテーベイさんの部屋に通してくれる。

 部屋に入るとテーベイさんは歓迎してくれ向かい合って座った。

「セイジ殿よく無事に戻られた。」

「有難う御座います、テーベイさん。討伐は取り敢えず上手くいったので、約束通りファナ嬢の身柄をお返しします。」

「分かった。無事連れ帰ってくれ感謝する。時間があったらで構わないが討伐の様子を教えて貰えないだろうか?」

「いいですよ。」

 テーベイさんの要請に答え討伐の様子をダレンの街を出発した所から話していく。

 時折テーベイさんがファナに視線を送り真偽を確認しているようだが、気付かぬ振りをしてダレンの街に戻って来た所まで話した。

「以上が討伐の概要になります。」

「なるほど、情報の提供感謝する。ではこちらからの話もさせて貰おう、まず里周辺の魔境化が収まったのでダレンからの物資の輸送は里の者を当たらせたい。構わないだろうか?」

「こちらにとっても有り難い話なので問題はありません。」

「快諾してくれて感謝する。実はもう一つ頼みごとがあってな。一人でもいいので里の者を身請けして貰えないだろうか?」

 余りに急なので一瞬理解できず意味が分かっても冗談かとテーベイさんの顔を見るが至って真剣なので冗談ではなさそうだ。

「どういう事ですか?」

「恥をさらすが、先の襲撃からの復興でこの里の台所事情は火の車だ。その上里周囲の魔境化は収まったが動物達が戻ってくるには時間が掛かるだろうから間違いなく食糧不足になる、幾らジャンナ殿が融資をしてくれてもな。里の維持する為どうか頼めないだろうか?」

「確認しますが、口減らしと身売りで得たお金で食料を確保する為なんですね?」

「その通りだ。」

「もう一つ教えて下さい、どうして正規の奴隷商じゃなく、俺にこの話を持ちかけて来るんですか?」

「下世話な話になるが奴隷商より里の為に尽力してくれたセイジ殿に身売りをした方が、確実に里の民からの反発が少ないからだ。」

「なるほど。」

 テーベイさんからの提案をどうするか。

 索敵と前衛をこなせる獣人は役に立つと思う。

 出来ればファナを身請けしたいが、さすがに何人かいるとはいえ自分の娘を手放してくれるだろうか。

 まあダメもとで目一杯の額を提示して聞くだけ聞いてみればいいだろう。

 考える為下げていた視線をテーベイさんに戻した。

「では、ファナ嬢を終身で身請けさせて頂けますか?代金は聖銀貨を2枚、現金でお支払いします。」

「父様、この話受けよう。」

 俺からの返答に固まったテーベイさんに替わり答えたファナに視線が集まった。

「父様。200万ヘルクあれば身売りする子を10人以上減らせる。私も父様の娘の一人、里の為に役に立ちたい。それにセージの元行くなら不満は無い。」

 そう言うファナをじっと見つめたテーベイさんは一度目を閉じ俺に向き直った。

「・・・セイジ殿、一晩考えさせてほしい。」

「分かりました。今日は借家に泊まり明日の朝里を立つのでそれまでに返事をください。」

 分かったとテーベイさんが返事をしてくれたので、ファナを残して部屋を辞しそのまま家を出た。


 暫くぶりに入った借家は少し埃っぽかったが生活魔術だけで綺麗になった。

 今日一日はここで休んで遠征の疲れをとる事にしよう。

 ティアにもそう告げ装備を脱いで少し早いが昼食を作って貰った。

 食後は毛布を敷いてティアに腕枕をして一緒に寝転がってまどろんでいると不意にテーベイさんがどう判断するかティアに聞きたくなった。

「ティア、テーベイさんはどう判断すると思う。俺は里の運営なんてさっぱりだから全く予想出来ないだ。」

「恐らくですが、テーベイ様はセイジ様の提案を受けると思います。」

「どうしてそう思うの?」

「それはもしセイジ様の提案を断って里で身売りする者が多く出た場合、断った事が里で広まればテーベイ様は最悪里長を追われます。提案を受け入れた場合、得た十分なお金で里を立て直せば里長の地位は盤石になるでしょうから断る理由は無いと思います。」

「もしかして俺が提示した額って高すぎた?」

「はい、わたしが見聞きした範囲では奴隷商が人を買い集める場合、一人頭5万から高くても15万へルク位が普通です。ファナが言っていたように十人以上の額になりますから。」

「あ〜なら、高すぎた分はこの里への援助だと思う事にするよ。」

「それがいいと思います。」

 それからは空が赤くなるまで寝たり起きたりを繰り返し、ティアに夕食を作って貰った。

 食事をした後は今夜がティアと二人だけの最後の夜になるよう願い、十分楽しませて貰って一緒に眠った。


お読み頂き有難う御座います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ