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湧き出した魔境 10

 ベッドの中で目が覚めると珍しくティアがまだ俺の左腕を枕に眠っていた。

 ティアの柔らかさを楽しもうと抱き寄せたら起こしてしまったようで、慌てて飛び起きようとするティアをそのまま抱きしめて一緒にベッドから出た。

 少し赤くなってすまなそうにしているティアを促して身だしなみを整えると、ファナはもう離れにいなかったので二人で店の方に向かった。


 店のダイニングに入るとアルバンさんとアゼル君は席についていてジャンナさんとキャミーちゃんにファナは朝食の準備をしていた。

 遅くなりましたと謝りティアも手伝いに加わったので準備はすぐに済み皆で朝食を食べた。

 朝食後もう一度気を付けるようにと声を掛けてくれたジャンナさんに頷き返し、三人共離れで装備を身に着けて店を出る。

 ポーチの中の保存食や魔法薬には殆ど手を付けていないので、屋台で色々携帯食を買い漁ってからギルドへ向かった。


 ギルドの中に入ると昨夜とは雰囲気が一変していて、銀の腕章をつけた10人位の討伐者が張りつめた雰囲気で酒場の椅子に座り、昨日話をした受付嬢が銀の腕章を付けた討伐者の一人と真剣に話し合っていた。

 話かける前に俺に気付いたようで受付嬢が話していた討伐者を連れて俺の方に来た。

「お早う御座います。早速ですがおいでになられたという事は出発の準備がもう終わっていると思っていいですか?」

「はい、いつでも出発できます。」

「迅速に対応して頂き有難う御座います。では紹介します。こちらは今回セイジさん達に案内をして貰うパーティーのリーダーでゴッチさんといいます。」

「初めまして、今回ギルド側のパーティーのリーダーを務めさせてもらうゴッチだ。参加するメンバーのほとんどが情報収集を主任務にしているので名乗りもしないと思うが気を悪くしないでくれ。」

「こちらこそ初めまして、俺はセイジ、後ろのエルフがティアで、獣人がファナです。よろしくお願いします。」

「早速な上、繰り返しになって済まないが話を確認させてくれ。この街から南方にある獣人の里から出発して、ファナ嬢の嗅覚を頼りに特殊な匂いを付けた上で見逃したオークの後を追った。2日かけてオークが逃げ延びた先に辿り着くと瘴気泉にそこへ陣取るオークの大群を見付けて自分達では対処できないと転移法術でこの街に帰還しギルドに報告した。これで間違いないだろうか?」

「間違いありません。」

「もう一つ確認させてくれ。ファナ嬢は瘴気泉とオークの大群がいた場所に案内出来るという話だがこれも間違いないか?」

 視線を向けられたファナが頷いたのでゴッチさんの視線が俺に戻ってくる。

「確認したい事はもう無いから、大まかな予定を決めよう。大体は君達の行動をなぞって今日は獣人の里まで進んで休む事にして、明日からはファナ嬢の先導で目的の場所を目指そう。魔物との戦闘は極力避けて進み、目的の場所が近づいてきたら絶対に気付かれたくないので君達には待機して貰い我々で瘴気泉とオークの群れを確認する。こう考えているんだが何か意見があるだろうか?」

「一つだけあります。もし危機的な状態に陥ったら俺はティアとファナを連れて転移法術で逃げますけど構いませんね?」

「それはそうだろう、手に負えない程の魔物と鉢合わせたら俺達も散り散りに逃げるだろうから、君達が逃げるのを責めはしない。まだ何か聞きたい事があるか?」

「いえ、ありません。」

「なら予定は決まりだな、パーティーメンバーを集めて予定を話すから5分くれ、話が終わったらすぐに出発しよう。」

 そう言って酒場の方に向かうゴッチさんはきっちり5分でパーティーのメンバーを連れて戻って来て、そのままギルドを出発した。


 誰も無駄口を開く事無く黙々と歩き、ダレンの街を出て獣人の里を目指す。

 ゴッチさんとの取り決め通り迂回する事になっても魔物の群れを避けて進み、昼食も携帯食を歩きながら食べる事で済ませ昼を大分過ぎてから獣人の里に着いた。

 里の門衛に多少警戒されたがゴッチさん達がダレンのギルドに所属する討伐者だという事を伝えると中に入れて貰えた。

 俺達が借りている借家では全員は泊まれないのでどうするか相談すると、少し広い空き地に野宿でもすればいいとゴッチさん達は言うがきちんと屋根のある場所で休んだ方が疲れが取れると思う。

 帰還と見た物の報告を兼ねて空き家を一晩貸して貰えるようテーベイさんに頼みに行く事にした。

 俺とゴッチさんが代表してテーベイさんと話をする事になり、ゴッチさんを警戒してかもう一人獣人の男性が付いてテーベイさんの部屋に通された。

「セイジ殿、よく無事に帰って来てくれた。」

「心配して下さり有難う御座います。ファナとティアも無事返って来る事が出来ました。それと紹介させて下さい。こちらは今この里を訪れているギルドの討伐者パーティーのリーダーでゴッチさんといいます。」

 ゴッチさんが自己紹介した後、今はギルドからの依頼の途中で1晩だけゴッチさん達を空き家に泊まらせてくれないかと頼むとテーベイさんは快諾してくれる。

 ゴッチさんは泊まる空き家を決めに行き、俺が詳細な話をテーベイさんにする事になった。

 先日この里を立った後、瘴気泉とそこに陣取るオークの大群を見付けてダレンの街に転移法術で帰還し、今はギルドの討伐者と一緒に瘴気泉とオークの群れを再確認しに行くギルドからの依頼の途中だと話すと、流石にテーベイさんの顔つきも厳しいものに変わっていた。

「瘴気泉とそこに陣取るオークの大群か、セイジ殿間違い無いんだな。」

「間違いありません。この目で確かに確認しましたし、ファナやティアもそれは同じです。」

「そうか・・・貴重な情報の提供感謝する。里の警備を一層強化しよう。」

 後はオーク達が陣取る瘴気泉がこの里から見てどの方向にあるか大体の所を伝えて、テーベイさんの前を辞した。

 テーベイさんの家を出るとティアとファナが待っていてくれ、ゴッチさん達の事を訪ねると、もう今日泊まる空き家の方に移動したと答えてくれたので俺達も借家の方に引き上げる事にした。

 装備を脱いでゆっくり休みティアとファナが用意してくれた夕食を三人で食べて、ティアを抱き枕に早めに休んだ。


 ティアに起こして貰い三人で朝食を取って装備を身に着け借家を出ると、ゴッチさん達がもう門の前に集まっていたのでそのまま出発する事になった。

 門衛に俺達が出発した事をテーベイさんに伝えくれるよう頼み、ファナの先導で里から出発する。

 前日と同じように一切魔物と戦闘する事無く、昼食も歩きながら携帯食で済ませ一日移動した。

 完全に日が沈んでから野営となり以前の俺達と同じように火は使わずゴッチさんのパーティーが主に周囲を警戒してくれる事になったが、俺達の方の最低一人は起きている事にした。

 以前俺達が野営した時はよく近くまで魔物の群れが来たが、今回は夜半近くになっても一定の範囲から内側に魔物が近寄ってこないので何か絡繰りでもあるのかとゴッチさん達の持ち物を鑑定してみる。

 するとゴッチさん達が使ってる結界の魔道具は魔物避けの効果も持つ結界を発生させるものだと分かり、今度ミラルテの街を尋ねる時、対応するアーツを覚える事を決め時間が来たので見張りをティアに替わって貰い休んだ。


 夜が明けるとすぐ出発する事になり急いで野営の片付けをし、朝食も歩きながら携帯食で済ませる事になった。

 暫く歩いた所で転ばないように魔眼を使うと、前に見た可視化出来る程の瘴気が湧き出す場所に前より数が増したように見えるオークの大群が陣取っているのを確認でき、ほっとした上で焦燥感にも駆られる複雑な気分になる。

 昼食も歩きながら携帯食で済ませ、いよいよ魔物の密度が跳ね上がる所まで来るとゴッチさんから全体停止の要請が来た。

 歩きを止めゴッチさんの元に向かうとここからはゴッチさんのパーティーの6人だけが先に進むというので了承した。

 魔眼で周囲を警戒しながら隠れてただ待つ焦れる時間が暫くすぎると、先に進んだ6人のうち3人だけが帰ってくる。

 何かあったのかと思ったが帰ってきた3人の話を聞いていると他の3人はオークの群れを監視する為に残ったようだ。

 帰ってきた3人の報告を聞き終えるとゴッチさんが俺の方に来た。

「瘴気泉とオークの群れを確かに確認した。なのでこれを君達に渡しておく。」

ゴッチさんは一枚のメダルを懐からだし俺に手渡してくれる。

「このメダルは何ですか?」

「そのメダルをギルドに提出すれば魔境の減衰後、瘴気泉発見の特別報酬を払うという証書が出る手筈になっている。それと君達への依頼はここまでになるので撤退してくれていいぞ。」

「因みにゴッチさん達はどうするんですか?」

「俺達はこの周囲をもう少し調べて、こことダレンを結ぶルートの開拓に当たる事になっている。」

「俺達の手伝いは必要ないんですね?」

「ああ、君達が加わると連携が乱れて返って効率が落ちるだろうからな。」

「そういう事なら、俺達は転移法術で帰還します。御武運を。」

「ああ、ご苦労さん。」

 ゴッチさん達から少し距離を取って転移法術を発動させ、ティアとファナを連れダレンの街に転移した。


 アルバン魔法薬店の裏庭に転移を成功させるとジャンナさんとキャミーちゃんが迎えに出ていてくれ無事帰還出来た事を喜んでくれた。

 ティアとファナを店に残してギルドに向かい受付嬢に貰ったメダルを渡すとゴッチさんが言っていた通りの証書を出してくれる。

 実際何時報酬を受け取れるかに係わるので、これからのギルドの対応を訪ねてみるともう討伐者の編成を始め周辺のギルドに援軍を要請しておりゴッチさんから来るはずの報告を踏まえて十分な数の討伐者が集まり次第遠征に出る事になると教えてくれ、俺達の参加も要請された。

 帰還したばかりな事を理由に取り合えず遠征への参加を保留してギルドを後にする。

 ギルドを出るともう夕方になっていたので離れで装備を脱いでから店に顔を出すと丁度夕食の準備が進んでいた。

 少し待つと夕食の準備は終わり全員で夕食を食べ、食後は離れで数日ぶりの風呂に順番で入り、ティアの感触を十分楽しんで眠った。


お読み頂き有難う御座います。

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