湧き出した魔境 6
目を覚ますと一緒の毛布で寝ていたティアの姿は無く、ティアの向こうで寝ていたファナの姿も無かった。
毛布から出て探してみると二人で朝食の用意をしていたようだ。
「二人とも、おはよう。」
「おはよう、セイジ。」
「お早う御座います、セイジ様。少しお待ちください。すぐに朝食を用意します。」
「分かった。なら俺は魔術で水を補充しておくから。」
自分のポーチから水筒を出し、ティアの水筒も受け取って魔術で水を生成して補充していると食事の準備を終わらせたようでファナが傍に来た。
「そのポーチ、何でも入れる事が出来て本当に便利、何処で手に入れたの?」
「俺とティアの亜空間ポーチはミラルテの街にいるデジレさんていう付与術師の人に造って貰ったんだけど、亜空間ポーチって使うのに空間法術の適正がいるんだ。ファナは魔術師や法術師のクラスを持ってる?」
「持って無い、残念だけどポーチは諦める。それと食事の用意が出来た。」
「じゃあ、朝食にしようか。」
水を満タンにした水筒をティアに返して三人で朝食を取った。
ティアとファナが朝食の片付けを済ませるのを待って全員装備を身に着けた所で二人に集まって貰った。
「出発前に魔境探索の方針を決めておこう。本当はすぐに瘴気泉を探したいんだけど、まだこの魔境の現状がよく分からないから取り敢えずこの里周辺の現状確認から始めようと思う。具体的には半日で行ける所まで進んでみて里に帰ってくる事を色んな方角に繰り返して里の周囲の事を把握しよう。その後特に魔物の密度が高かった方向に数日かけて遠征してみようと思う。前にギルドの資料で読んだんだけど瘴気泉は周囲を魔境化するだけじゃなくて大量の魔物も発生させるそうだから魔物の密度が高い所を探せば見つかり易いと思うんだ。勿論危険だと感じたら即座に撤退する。俺はこう考えているんだけど二人の意見を聞かせてほしい。」
「問題は無いと思います、セイジ様。」
「私もそれでいい。けどもしも移動途中に薬草の群生地なんかを見付けたらどうすればいい?」
「その時は俺達の分を少し採取して後はこの里の人達にその場所を教えて、根こそぎ採取するなり、持続して採取出来るように管理するなり好きにしてもらえればいいと思う。」
「分かった、索敵の手を抜かず頑張って探してみる。」
「よし、じゃあ行こうか。」
頷いてくれるティアとファナに頷き返し二人を連れて借家を出る。
そのまま里も出て積極的に魔物を狩りながらの魔境探索は順調に進んで行き、一日問題なく里に帰って来る事が出来てた。
次の日も昼食休憩まで問題なく魔物を狩れているが、一つ俺の中で違和感が大きくなってきていた。
オークの群れに当たり数を減らしていくと、必ず頭数が3匹を切った時点でオークが逃げようとする事だ。
勿論逃がす事無く仕留めているが獣人の里周辺で出会った全てのオークの群れが同じ行動を取っているので、俺の中で違和感が大きくなり続けている。
ティアとファナはどう感じているのか知りたくなり昼食の準備をしている二人に問いかけた。
「二人ともちょっといいか?オークの群れと当たったら最後の1~2匹が必ず逃げようとするよな、俺は違和感を感じるんだが、二人はどう感じている?」
「私もおかしいと感じます、セイジ様。本能的に人族を憎悪し襲わずにはいられない魔物が人族から逃げ出すなんて本来ありえませんから、現に他の魔物達は最後の1匹まで襲ってきますし。」
「私もおかしいと思う。オークが逃げ出すなんて始めてだし、いつも同じ方向に逃げようとしてるのもおかしく感じる。」
「ファナ、俺は気付かなかったんだけど、いつも同じ方向にオークが逃げようとしてるって本当か?」
「間違いない。」
「もしかしたらその事がオークが逃げ出す事と何か関係があるかもな、オークが逃げようとする先に何があるか調べるいい方法がないか考えてみるよ。」
「でしたらセイジ様、昼食の用意が出来たのでお召し上がりください。」
「有り難う、ティア、頂くよ。」
ティア達が手を加えてくれた最後の屋台の料理を食べながら、オークを追う方法を考える。
万物の透視眼と拡縮の遠視眼で追い続ければ見失わず且つ安全だろうが常に見張っている必要がありたぶん怪しまれてファナに魔眼の事がばれてしまう。
単純にオークを追う事もファナの索敵能力なら出来るだろうが不確定要素が多すぎてこれは最後の手段だろう。
何かいい手がないかと魔眼のリストを見直すと永続の捕捉眼という魔眼が目に留まった。
以前守護者殺しを追う時にも取得するか考えた魔眼で自身のレベルの数だけ永続的に目標を設定出来て、目標が視界内にいる場合見失っていても瞬時に視線を合わせる事が出来ると言う魔眼だ。
ただ目標の設定には対象の目視が必要で、目標の捕捉も相手を視覚的に判別出来ないと発動しないと説明にあったので、コリレスの街の広さに対し万物の透視眼が在るとはいえ3〜40mの捕捉半径で町中探し回るのは目立つし不毛だと考えたので以前は取得しなかった。
だが拡縮の遠視眼も並列発動すれば捕捉半径が20km以上に広がり、もしオークが捕捉半径を出ても逃げる方角が分かっているのだからその方向に追って行けば、簡単かつ安全に再補足が可能だろう。
目標の設定解除は随時可能なようなので万物の透視眼と拡縮の遠視眼に永続の捕捉眼の並列発動が上手く機能すればオークを追うだけではなく他にも色々有用そうなので試してみる価値は十分あると思う。
昼食を食べながら永続の捕捉眼をBPで取得し、魔眼を誤魔化す言い訳を考えた所で食事を終えた。
昼食の片付けをし里に向かって帰り始めるとすぐオークの群れと遭遇出来た。
まずはこれまでと同じようにオークの頭数をティアと競うように減らしていき、残り2匹になった所でオークが脇目も振らず逃げ出しはじめる。
間髪を入れずティアが土の精霊武技で片方を仕留めてくれたので、もう片方の二の腕に加減したファイアーアローを撃ち込んでティアの方に顔を向けた。
「ティア、俺がファイアーアローを撃ち込んだオークはこのまま逃がす。止めは刺さなくていい。」
ティアはもう次の矢を番えていたが俺の声に頷いてくれ、視線をオークに戻し永続の捕捉眼の目標に設定しそのまま行かせた。
剣を鞘に納め盾を剣帯に戻して倒したオークの素材を回収し二人の元に戻ると、二人とも訝しがるように俺を見上げてくるので考えておいた言い訳を伝えておこう。
「二人とも、何で今のオークを見逃したのか知りたいって表情だな。」
「その通り。」
「はい、お教え頂ければ、幸いです。」
「分かった。実はさっきのファイアーアローは殆どオークへの目くらましで、一緒に追尾捕捉用の魔術を撃ち込んだんだ。上手く行けばこれである程度離れていてもあのオークを探知できる。ファナが言うように逃げていく方向が一定ならその方向に追って行けば距離を取って安全に再発見出来るはずだから、オークが逃げていく原因を探るのに役に立つはずだ。予定を変える事になるし流石に準備不足だからすぐには追わないけど、もう何体かのオークに追尾用の魔術を撃ち込んで一度ダレンの街に戻って準備を整えたら魔術を撃ち込んだオークを数日掛かっても追うつもりだから、二人ともそのつもりでいてくれ。」
頷いてくれる二人に頷き返し里に向って歩き始める。
暫く歩いた所で目標に設定したオークを試しに組み合わせた魔眼で探してみると森の中を歩く腕に怪我をしたオークを瞬時に見つけ出す事が出来たので、魔眼は思った通りの機能を発揮してくれそうだ。
里に帰る途中他にも2匹のオークに永続の捕捉眼の目標を設定して里に帰った。
お読み頂き有難う御座います。




