始まりの日 3
案内された武器の保管庫は、迷宮に続いていくと思われる大きな下り階段のある建物の近くに騎士の詰所と並んで立っていた。
保管庫の入り口には何人か立っていて、近づいていくと責任者だろう人が口を開いた。
「お前さん達に渡す着替えと鎧を詰所の中に用意してあるからそこで着てくれ。鎧の身に着け方は護衛の騎士にでも聞けばいいだろ。だがその前にお前さんたちの希望する武器を言ってくれ。鎧を着ている内に渡す準備を終わらせておく。」
「俺は両手持ちの大剣を頼む、他の細かい要望は今の所ない。」
「僕はそれぞれ片手持ちの長剣と盾をお願いします。盾の持ち手は真ん中あたりにして下さい。」
「俺は左手の外側に固定式のあまり大きくない盾と、片手でも両手でも使える長剣を頼む。盾は普段外しておきたいんで、簡単に着脱でき背中か腰の後ろに吊り下げられる様にして欲しい。」
「分かった問題なく用意出来るが最後の奴は少し時間が掛かるからな、じゃあこっちも用意するからそっちも着替えと鎧の受け渡しに行ってくれ。」
そう言ってほとんどの人が保管庫の中に引き上げていったが一人だけ俺たちを先導するように詰所に歩いて行った。
俺たちも詰所の中に入ってみると、どうやらこの人はどの鎧が誰のか教えに来てくれたようで、それを伝えるとさっさと詰所を出て行った。
指定された鎧の傍に行くと替えの服も置いてあったのでさっさと着替える事にした。
着替えた服の肌触りは綿のようで肌触りが悪く擦れてひどい目に合うと言う事は無さそうなのでほっとした。
そういえば脱いだ服をどうすればいいかと思い傍に居た案内の騎士に訪ねてみると、他に数組の服と一緒に寝泊まりした部屋へ下働きの者に運ばせておいてくれるそうで、よろしく頼んでおいた。
次に鎧だ。
本当はここでこの鎧を鑑定しておきたい所だが鑑定の情報を確認するとき動きが止まるのをまだ上手く隠せていないようなので怪しまれない為にも後にしよう。
鎧の見た目は硬そうな革製で手甲とすね当て、胸当てに分かれている。
どこにどれを着けるかは分かるが着け方はよく分かれないので大人しく聞く事にした。
案内の騎士に教えて貰いながらすね当て、胸当てと身に着けていると、もう着替えて鎧も身につけた千葉さんが詰所を出て行った。
鎧の着方も昨日の夜聞いていたんだろう。
俺と片桐君は同じくらいに鎧を身に着け終わり二人並ぶように詰所を出ると、武器の保管庫の前で待つ千葉さんに丁度鞘に入った大剣と剣帯が手渡される所だった。
千葉さんは剣帯を腰に巻き左腰に大剣を佩びると、俺や片桐君を振り返らず迷宮の入口へと歩いていきそのまま下り階段に姿を消した。
千葉さんを見送るとすぐに片桐君が呼ばれる。
片桐君を呼んだ武器の保管庫の人は上半身ほどの直径の盾と長剣、剣帯を持って建物から出てきた。
片桐君はその人の傍まで行って剣帯、長剣と身に着けながら受け取り最後に盾を受け取って左手に持つと俺の方にやってきた。
「僕もこれから迷宮に行きます。繰り返しになりますけど僕のパーティーに入りたくなったら何時でも声を掛けてください。歓迎します。」
「分かった、覚えておくよ。」
俺の答えに片桐君は笑顔で頷くとセフィネアさんと護衛の騎士が居る所に歩きだした。
そこに横から声を掛けられた。
「お前の装備は剣帯に盾を吊り下げられるように調整するのにもう少し掛かる。待っていろ。」
「時間が在るなら、その間保管庫の中の武器を見て回っていいですか。」
「構わんが作業場には近づくな、それから中で何があっても自己責任だからな。」
分かりましたと俺が返答をすると声を掛けてきた人はフンと唸って戻っていった。
片桐君の方を一瞥すると騎士に盾の背負い方を教えて貰いながらセフィネアさんも連れて迷宮へと歩いていた。
俺はそこまで片桐君を見て視線を戻し武器の保管庫に歩いて行った。
保管庫の中は入って直ぐの一角に作業場が在り、あとは多くの棚が在りそこや壁に所狭しと武器が置かれ立て掛けられていた。
棚の陰に入れば作業場から死角になるので不審に思われない為に後回しにしていた鑑定をやれそうだ。
作業場から死角に入ってまずは金の入った袋を手に持った。
口を解いて中を確認すると小振りの銀貨が5枚と銅貨が6枚入っていた。
価値が分かるかと鑑定を使ってみると、銀貨は千ヘルクで一万円、銅貨は百ヘルクで千円ほどの価値になるようだ。
1ヘルクが10円ほどのようで、ヘルクという単位の名はこの世界の商業の神の名に由来するようだ。
他の硬貨が在るかはこの鑑定の情報からは分からなかった。
鑑定の情報を元にするとヴァルデルさんから5万6千円ほど借金している事になる。
この借りが在ってもいい事はまず無いだろうからさっさと返済できるように頑張ろう。
袋の口を閉じ落ちない所に戻して次は鎧を鑑定した。
硬革の鎧 Lv−2
付与 被探知
詳しい情報を確認するとこの世界の装備品は使用者が放出するマナやプラーナを取り込み成長する様でそれがレベルとして表されていた。
付与は対象物の成長を対価に後付けでいろいろな能力を持たせる事みたいだ。
この鎧のレベルがマイナスなのは成長していない物に無理やり付与をした所為で性能が劣化したのをこう表示しているのだろう。
肝心の被探知という付与の効果はこの付与を掛けた者に居場所を知られてしまうというものだ。
やはり何の監視もなく自由に行動できるとはいかない様だ。
抗議をすれば鑑定能力の事がばれるという藪蛇になりかねないので、GPS機能付きの端末でも持たされていると思って割り切ろう。
後回しにしていた鑑定を終わらせてもまだ声は掛かりそうに無い。
目の前の棚に使うか迷った槍が立て掛けて在ったので感触を確かめてみたくなり手に取って構えを取った。
長槍スキルを取得した
召喚された夜にも聞いたこの声が聞こえる理由は俺のアビリティ超越者の器の効果の一つ、スキル取得確率アップが理由だろう。
そうなると鎧を着ているのだから鎧に関する何らかのスキルを取得できてもいいのではと思い至りいろいろ試していると
鎧防御スキルを取得した
胸当てを軽く叩いたときにこの声が聞こえた。
この事からスキルを取得できる可能性がある行動を取った時にアビリティの効果も発揮されるのだろう。
この保管庫の中にはいろいろな種類の武器が在る、スキルはあって困ることはないだろうから片端から試して行こう。
逸る気持ちを抑えるように慎重に長槍を元に戻し、次に近くにあった短め槍を持ち構えた。
短槍スキルを取得した
槍術スキルを取得した
長槍スキル、短槍スキルは槍術スキルに格納されます
槍術スキルの取得は予想外で自身を鑑定して確かめてみる。
槍術スキルは統合スキルという物に分類されるようで、統合スキルとは関連するスキルを纏めて格納し、格納するスキルをどれか一つでも鍛えればそれが全体に及び、単独の状態より効果も高くなる上位スキルになると鑑定から調べられた。
最初の期待より多くのスキルを取得出来そうだが何時声が掛かるか分からない。
慌てず粛々とスキル集めをして行こう。
戦斧、戦鎚、弓の統合スキルを取得していき最後に盾の物を取得したところで俺を呼ぶ声がした。
まだ探せばいろいろな武器が在りそうだが、不審に思われる前に呼ぶ声に従った方がいいだろう。
声がした作業場の方に行くと俺の装備を持った人が待っていた。
問題ないか確認するよう急かされたので、まず剣帯から受け取り腰に巻く。
次に剣を鞘ごと受け取り剣帯の左腰の所に佩びて刀身を抜きまた戻した。
最後に盾を受け取り左手に固定してみる。
きちんと固定出来るようなので今度は盾を剣帯の腰の辺りに吊ってみた。
盾の着脱を数回試して問題が無い事を確認した。
確認して問題ないようだと伝えるとBPを使ってのスキルの所得の仕方を誰かに聞いたか問われた。
ヴァルデルさんに聞いたと答えるとそれならさっさと次の事に移れと保管庫を追い出されてしまう。
持って来てくれた人の視線が離れたので剣と盾を鑑定してみると両方ともレベルがマイナスで被探知が付与されていた。
鎧にも被探知はついて居るので念を入れているとは思うが不快に思わず割り切ろう。
貰った装備に関するスキル取得も終わらせてしまうため鞘から剣を抜いた。
片手で一回剣を振り、
片手剣スキルを取得した
両手でもう一回剣を振り、
両手剣スキルを取得した
剣術スキルを取得した
片手剣スキル、両手剣スキルは剣術スキルに格納されます
最後に剣の柄で盾を数回叩いた。
小盾スキルを取得した
小盾スキルは盾術スキルに格納されます
目的のスキルを手に入れて剣を鞘に納めたところで案内の騎士が声を掛けてきた。
自分は迷宮ギルドにはついては行かないが、この場所に居る時は傍について居なければいけないらしい。
詰所の辺りに居るので帰ってきたら声を掛けてほしいと言う事だったので快諾しておいた。
此方からの指示や伝達事項はもうないと言う事なので迷宮ギルドの場所を聞いてみる。
迷宮に続く階段の対面に在る門を出て、その前に続く大通りを行けば直ぐに在る扉のマークの看板を掲げた大きな建物がギルドらしい。
この位置からでは見えないが、大通りを見通せる位置なら教会の中からでも看板が見えるので迷う事は無いと言われた。
案内の騎士にお礼と別れを告げて教会の外へと歩き出した。
お読み頂き有難う御座います。