使いと精霊 6
先程盗賊を引き渡したテントから人が出て来て一番大きなテントに入り暫くするとそのテントに集まるよう騎士に招集がかけられた。
その中にはロンソンさんもいて全員がテントの中に入り暫くすると一斉に飛び出してきた。
ロンソンさんも出て来て自分の従者の方に向かい手招きして俺達も呼んでいるので立ち上がってそちらに向かった。
「先程セイジから引き渡された盗賊はやはり目標の盗賊団の一味だったようで奴等からの情報でアジトの場所が判明した。時間を掛ければその分だけ盗賊達を取り逃がす事に繋がりかねないので、今からこの陣を引き払いアジトを強襲する事になった。何時でも移動できるように準備し待機してくれ。」
了解と返事をしてロンソンさんからティアを連れて離れる。
余計な事を言って片付けを手伝えと言われたくなかったからそのまま離れたが討伐者や従者だけではなく何人かの騎士まで陣の撤収作業をしているのにロンソン班がただ待機だけなのは少し奇妙に映った。
さっきの失態以外に何かあるのかと試しにロンソンさんを鑑定してみて
ロンソン シェイド Lv14
騎士 Lv14
筋力 70
体力 62
知性 14
精神 28
敏捷 28
感性 42
アビリティ
堅体
スキル
5個
得心がいった。
より深い情報を確認するとロンソンさんはこの辺りを治めるシェイド辺境伯の6男のようだ。
恐らくだが箔を付ける為にこの討伐隊に参加しているが危ない事や雑用をやらせる訳にはいかず、今のような扱いになっているのだろう。
それでも手柄を立てたくて俺と対峙した時は暴走してしまったんだろう。
有力者に繋がるコネは欲しいので手柄を上げる手伝いを上手くやりたいが最悪、悪印象を持たれて別れる事にならないよう気を付けよう。
それほど待つ事無く陣の撤収は済み隊列を組んで出発する。
街道を進み森に分け入って暫く進むと隊列は一旦停止し伝令が騎士達に命令を伝えて回ると班別の行動に移った。
ロンソンさんも俺達を自分の傍に集めて任務の説明をしてくれ、門の無い砦の防壁を監視出来る場所に展開しそこから逃げ出す盗賊がいないか監視しもし盗賊が逃げてきたら出来れば捕獲し最低でも討ち取る事が任務のようだ。
分かり易い任務だったので誰からも質問はでずそのまま移動する事になる。
ロンソンさんを先頭に森の中、道なき道を進んで行きやがて砦の防壁が見えてくる。
防壁は上部が傷んでがたがたになっているが一番低くなっている所でも5m程ありそうだ。
立ち木も結構あり見通しがあまり良くないので、ばらけて見張りにつくかと思ったが従士の一人が優秀な斥候だそうで監視は彼が担当し他の者は集まって隠れて待機する事になった。
暫く待機していると鬨の声が上がり魔眼で確認してみると二ヵ所ある門から討伐隊が攻撃を開始したようだ。
討伐隊は簡単に門を破って内部に突入して行き、宴会の後といった感じで無防備な盗賊達を簡単に取り押さえていくのですぐに決着がつきそうだ。
視線を戻してロンソンさんを見ると拳を強く握り込んでいるのでかなり悔しのだろう。
このまま討伐が終わっても俺に損は無いが何かロンソンさんの手柄に繋がる物が無いか魔眼で周囲を確認して行くと、少し見にくいが目視できる場所に石造りの小屋を見付けた。
劣化の具合が砦とよく似ている小屋で盗賊が見張り小屋にでも使っているかと中まで確認してみるが誰もいないし何もなかった。
空振りだと思ったが抜け道の出口の可能性もあるかと念の為地下まで視野を広げるととんでもない物を見付けた。
これを見つける事はかなりの手柄になるだろうが、騎士のロンソンさんが地下への隠し扉を自力で見つける事は難しいだろう。
斥候の従士を動かす訳にもいかないだろうから俺が特殊な力を使わず見付けた事にしてロンソンさんの手柄にするのが良さそうだ。
「ロンソン様、向こうに石作りの小屋のようなものが見えます。盗賊達とは無関係かも知れませんが砦からの抜け道の出口という可能性もゼロではないと思うんで、指揮の為に此処から動けないロンソン様に代わって俺とティアで調べてこようと思うんですがどうでしょう?」
「小屋?何処にある?」
「あそこです。」
俺が指さす方にロンソンさんも顔を向け目を凝らしてくれる。
「確かにあるな。なら調べないといけないが本当に二人だけで大丈夫か?」
「問題ないと思います。許可してくれますか?」
「許可しよう、十分注意して調べて来てくれ。」
「分かりました。行ってきます。」
ティアの方を向いて頷き合い小屋に向かって歩き出す。
魔眼で盗賊はいない事が確認出来ているが不審がられないように慎重に進んで行った。
小屋に近づくとさらに歩くペースを落とし中を覗きこんで誰もいない事をティアに告げ、小屋の中に入って地下への隠し扉がある場所を歩く。
「ティア、今足音が変じゃなかった?」
「すみません、よく分かりませんでした。」
「そっか、俺にはそことそこで少し違って聞こえたんでちょっと床を調べてみるから見張りを頼む。」
「お任せください、セイジ様。」
隠し扉の開け方は魔眼ですぐに分かったがゆっくり時間を掛けて地下への扉を開き、驚くティアを連れてゆっくり階段を下りて行き扉を開いて中に入った所で立ち止まった。
「ティア、この感じ迷宮の物だよね。」
「はい、そう感じます。」
「もしかして、えらいもの見つけたかもな。一旦出よう。ロンソンさんを連れて来るからティアは見張りを続けてて。」
頷き返してくるティアを連れて足早に階段を上がり小屋にティアを残して急いでロンソンさんの元に向かう。
迷宮を見付けたかもしれないと言う俺の報告に半信半疑といった表情だったが確認のために付いて来てくれた。
開いた隠し扉から階段を下りていき扉を開いて中に入るとロンソンさんの表情が変わった。
「確かにこの感じは迷宮のものだな。この目で見てもまだ半信半疑だが。」
「これからどうしますか?ロンソン様。」
「アトミラン殿に報告して判断を仰ぐ。セイジ、君の手柄として報告しよう。」
「いえ、ロンソン様の手柄として報告してください。」
「お前の手柄を横取りしろというのか?私に部下の手柄を掠め取るつもりはない。」
「俺の為に頼んでるんですよ。平民で討伐者ランクも低い俺が大きな手柄をあげたら嫉妬や妬みを買いすぎて返って仇になりますが騎士方ならそういう事は無いでしょう。それでもロンソン様の良心に咎めるならロンソン様が個人で俺に報酬を払って手柄を買い取ってください。上司が相応の褒美を与えて部下の手柄を受け取るのはおかしなことじゃないでしょ?」
「本当にそれでいいのか?」
「ええ、お願いします。」
「分かった、セイジの手柄受け取らせて貰う。だが私にはこれ程の手柄に見合う褒美として何を渡したらいいか分からない。なにか希望はあるか?」
「ではミルネ教会でアーツブックを読めるように手配して頂けませんか?」
「それなら手配できるがそんな事で良いのか?」
「さっきも言いましたけど俺はまだランクが低くてアーツブックを読ませて貰えないんです。スキルやアーツを覚える事は強くなるには必須だと思っていますから、金貨を5枚、10枚貰うよりずっと有難いです。」
「分かった。一般分類だけではなく重要分類のアーツブックも読めるよう手配しよう。」
「有難う御座います。じゃあ俺は如何すればいいですか?」
「私は従士を一人連れてアトミラン殿に報告してくるので、セイジ達は監視の任務に戻ってくれ。」
ロンソンさんに頷いて一緒に地上へ戻りティアも連れて待機場所に向かった。
待機場所に戻るとロンソンさんは監視役じゃないもう一人の従者を連れてアトミランさんの元に向かう。
盗賊との決着がどうなったか魔眼で砦内を見てみるともう戦闘は終わって捕虜にした盗賊達を一部屋に押し込めているところだった。
砦の中の決着も付いたようなのでロンソンさんの姿を暫く魔眼で追うと砦の外にいたアトミランさん元に着き報告が始まる。
報告が始まると直ぐに騎士が一人従者を数人連れてこちらに向かってきて戦闘の終了と迷宮の入口への案内を命令してきたので大人しく従う。
監視をしていた従者も一緒に全員で入り口がある小屋に向かい階段を下りて迷宮を確認すると後から連れてこられた従者の一人が伝令に走った。
俺達はこれからどうしたらいいか小屋に残った騎士に尋ねると砦の内外に陣を張り今日は此処で野営をする事になるだろうからそちらへ向かえと言われたので大人しく従う事にした。
他の討伐者が集まっている場所の端にテントを張りティアと交互に見張りをしながら休んだ。
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