使いと精霊 5
「双方5歩ずつ下がれ。」
制止の声に続くその命令に俺は大人しく従ったが、切り掛かって来た騎士は渋々といった感じで距離を取る。
ティアに暫く様子を見ると伝え、声のした方を見ると最初からここにいた従士や他の従士や騎士を従えた壮年の騎士が此方に歩いてくる。
壮年の騎士は俺に切り掛かって来た騎士の前に出た。
「私はアトミラン、現在展開中の盗賊討伐部隊を任されている者だ。君達が今追っている盗賊と無関係だと言うのなら名前とここ数日間の行動を話して貰おうか。」
「分かりました。俺の名前はセイジ、後ろにいるエルフはティアと言い俺の奴隷で二人とも討伐者をしています。他の三人はさっきも言いましたがここに来るまでに襲われそうなった所を返り討ちにして奴隷化した盗賊です。俺達は三日前に商隊の護衛としてミラルテの街に着きました。」
ミラルテの街について商隊が解散してからの事を順に話してく中で、アトミランさんは質問をしてくる事は無いが注意深く俺達を観察しているようでそれは話が終わるまで続いた。
「確認させて貰う。君達は邪霊の灰を求め一昨日の朝にミラルテの街を出て一日を使いカーズドエレメントが出現する洞窟まで進んだ。昨日は一日洞窟でカーズドエレメントを狩り、今日は街に戻る途中盗賊を返り討ちにして奴隷化し引き連れてここまで戻ってきた。間違いは無いか?」
「大体それであっています。」
「なら君達の話の裏付けに手に入れた邪霊の灰を見せて貰おう。君の話が本当なら1日狩りをして手に入れた邪霊の灰を持っている筈だからな。」
「なるほど、ちょっと待ってください。」
亜空間ポーチから邪霊の灰を詰めた壺を取り出し中を見せる。
「確かに邪霊の灰のようだな、それにこれだけの量だ、一日狩りをしていたと言うのも頷ける。奪われた荷に邪霊の灰があったとは聞いていない以上どうやら君達の話に嘘はないようだ。我が隊の騎士の過ちを謝罪する。」
「誤解が解けたのならそれで構いませんが、何故いきなり切り掛かられたのかは教えて頂けますか?」
「私からもそれを問う、答えよ、騎士ロンソン」
アトミランさんは後ろにいた俺に斬りつけてきた騎士の方を向いたのでこの騎士がロンソンさんなんだろう。
亜空間ポーチに邪霊の灰が詰まった壺を仕舞い終えるとロンソンさんは口を開いた。
「昨日の朝から街で討伐者の強制呼集が掛けられていたので周辺の討伐者は全て街の防衛か隊に組み込まれていると思い込んでおりました。その上明らかに盗賊の身なりをした者が含まれていた為討伐者だと言う言葉も命乞いの嘘としか聞こえませんでした。」
「数日かけて遠征する討伐者がいる事を完全に失念していたのだな。」
「その通りです。」
「作戦行動中故処分は保留とする。この失態の処分は作戦終了後改めて言い渡す。以上だ。」
ロンソンさんは深々と頭を下げそれを見届けたアトミランさんは此方に向き直る。
「疑問は解けただろうか?」
「はい、有難う御座います。」
「では君達にも我が隊に参加して貰う。これはギルドとの協定に基づく強制的な物で、取り敢えずは騎士ロンソンの指揮下に入って貰う。何か異論はあるか?」
「異論はありませんがこの盗賊達はどうしますか?」
「どういう意味だ?その盗賊達は君の奴隷にしたのだろう?君の好きにすればいい。」
「説明が足りなかったですね。ここに来るまでの間に少しこいつ等を尋問したんですが近くの廃砦を根城にしている盗賊団の構成員だったらしく討伐隊を見て逃げ出したようで二日前に街道で商隊を襲撃した事も少し聞きました。こいつ等が所属していた盗賊団とアトミラン様達が追っている標的が同じかどうかは分かりませんが有益な情報が引き出せるかもしれないので身柄を引き受けるかどうか伺いたかったんです。相場の対価を支払ってくれるなら身柄の引き渡しに文句はありません。」
「手持ちの資金を減らせないのですぐに対価を支払う事は出来ないが、私の名前で対価分報酬の上乗せを約束しよう。それでそこの者達を引き渡して貰えるか?」
「異存はありません。」
「なら騎士ロンソンの指揮下に入る前に本陣にいる制約法術が使える法術師の元にそいつ等と共に行ってくれ。奴隷の所有権の変更が済み次第騎士ロンソンと合流して貰う。」
「分かりました、誰か案内が出来る人を付けて貰えますか?」
「そこの従士に案内をさせるのでついて行くがいい。」
アトミランさんに指名を受けた従士が手を振って合図を送って来たので盗賊達についてくるように命じて後に続く。
暫く獣道を進んで街道に出るとテントが幾つも張ってあり陣地のようになっていた。
幾つかあるテントの一つに案内されるとそこは捕虜の尋問用のテントだそうで中から出て来た法術師に顔色が青くなっている盗賊達を所有権を放棄して引き渡した。
法術師が盗賊達を引き連れてテントの中に戻ったので命令に従いロンソンさんを探すと付いて来て近くにいてくれたようなので此方から声を掛けた。
「盗賊の引き渡しを終えました。これから指揮下に入りますので指示をお願いします。」
ロンソンさんは俺の声にすぐには反応せず暫く俯いた後、俺達にきちんと向き治って深々と頭を下げた。
「先程はすまなかった。私の不明で迷惑を掛けた。どうか許してほしい。」
自らに非があるなら目下の者に頭を下げることが出来るという事は実直な性格をしているのだろう。
こういう人とはいい人間関係を作った方が得な事が多いだろう。
「謝罪を受け入れます。先程の事は水に流しますので間違いのない指揮をお願いします。」
「謝罪を受け入れてくれて感謝する。では私の班の任務を説明する。任務の内容は陣地及び陣地周辺の安全確保と非常時に備えて予備戦力として待機している事だ。だが先程の失態で見回りの任からも外されたので基本的には陣での待機になる。質問はあるか?」
「少し疲れているのでその辺りの木陰で休んでもいいですか?」
「構わないが招集が掛かればすぐに動けるようにしていてくれ。」
「分かりました。じゃ少し休ませて貰います。」
ロンソンさんに休む場所を告げ街道脇の木陰にティアと座って水筒の水を回し飲みする。
まだ夕方には早いが今日はこのまま此処で野営をする事になるかとも思ったがそうはならないようだ。
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