始まりの日 2
案内された食堂では、すでに三、四人のグループが幾つか食事をしたり食後の談笑をしていた。
案内の騎士が利用の仕方を教えてくれて、食事をする人数を厨房に伝えるだけのようだ。騎士が厨房に二人分注文するとパン二個といろいろな具の入ったスープの皿を乗せたトレイが二つ間をおかず出てきた。
俺と案内の騎士が一つずつトレイを持ったところで声を掛けられたので振り向くと、先に食堂に来ていた片桐君に呼ばれた様だ。
どうやら自分達が陣取っているテーブルに俺も呼びたい様なので騎士に断りを入れてそのテーブルに向かう事にした。
そのテ−ブルに行ってみると片桐君の他に千葉さんや、昨日の夜礼拝堂で騎士に守られていた女性も席についていた。
万象の鑑定眼による情報収集と気づかれずに使えるのか確かめるには丁度良かったので能力を発動した。
千葉 進 Lv 1
クラス 英雄Lv 1
筋力 11
耐力 7
知性 4
精神 4
敏捷 11
感性 6
アビリティ
英雄の器
覇者の肉体
統率者
スキル
なし
片桐 勇樹 Lv 1
クラス 勇者 Lv 1
筋力 11
耐力 5
知性 11
精神 5
敏捷 5
感性 6
アビリティ
勇者の器
勇者の魔力
絆の力
スキル
なし
セフィネア Lv26
クラス 法術師 Lv26
筋力 52
耐力 52
知性 130
精神 104
敏捷 104
感性 78
アビリティ
時空間認識
誘惑の従者
スキル
7個
さすがに千葉さんと片桐君は英雄と勇者だけあってLv1での能力値も高いしアビリティもすごい物が揃っているが、それ以上に危険だと感じるのはセフィネアという女性のアビリティ誘惑の従者だ。
このアビリティは所持者を自分の従者だと認めると思考誘導をされてしまうというものだ。操り人形にされるのなんて絶対に回避したい。
この女性とは極力接触を控えるようにして行こう。
能力の鑑定は上手く行き気付かれる事も無かった様だが、鑑定の為に動きが止まったのを訝しがる視線を向けられたのでさっさと席に着く事にしよう。
片桐君と千葉さんが対面で座り、セフィネアという女性が片桐君の隣に座って居たので、千葉さんの隣に座る事にした。
席に着くなり片桐君が話をしようとしたが断って先に食事をさせて貰う事にした。
片桐君たちはもう食事を終えていたようで俺が食べ終わるまで此処で待つ事にしたようだ。
持ってきたトレイの上のパンを千切ろうと手に取る。
手に持ったパンのフランスパン以上の硬さに内心驚いていると、俺の心の内を見透かしたように千葉さんがスープに浸して柔らかくして食えと助言してくれたので有り難く従う事にした。
質素だったが暫くぶりの固形の食事をそこそこ楽しんで食べ終わると痺れを切らしたように片桐君が話始めた。
「上條さん、まず僕の提案を聞いてください。」
片桐君はこう言うが俺の鑑定が正しいか確認の為の情報を先に出してもらおうと思う。
「待った、二人はもう済ませたかもしれないが、先にきちんとした自己紹介をさせてくれ。俺の名前は上條 征司17歳で高校二年になる、もっとも病気の症状が重くて真面に学校に行けて無かったんだがな。ちなみに病気の症状はこっちに召喚されてから綺麗さっぱり無くなっているから気にしなくていい。」
「そういえば千葉さんともきちんとした自己紹介してなかったですね。僕な名前は片桐 勇樹16歳高校一年です。通ってた学校はそこそこの進学校で剣道部に所属していました。」
俺と片桐君の視線に促されて千葉さんも口を開いてくれた。
「俺は千葉 進21だ。ここに呼び出される前は土木作業員をしていた。」
二人が話してくれた自己紹介は鑑定したとき名前の部分に意識を向けると得られるより詳しい情報と一致するので、鑑定の信憑性は高そうだ。
「それじゃあ、改めて提案します。千葉さん上條さん一緒にパーティーを組みましょう。僕の横に居るセフィネアさんもパーティーに入ることを約束してくれています。彼女は魔術や法術をを習得しているそうで魔術や法術の覚え方や戦い方を教えてくれるそうです。他にも護衛の騎士の人にパーティーに入って貰えば武器での戦い方を教えてくれる筈です。パーティーを組めばより強い魔物を倒すことが出来、より早く強くなれると思うんです。いい案だと思うんですが千葉さんは断るんです、上條さん一緒に説得してくれませんか?」
片桐君の提案に乗れば嫌でもセフィネアという女性と一緒に居る時間が増える。
彼女のアビリティを考えればこの提案は蹴る以外にないだろう。
「片桐君には悪いが俺もその提案は断らせてもらう。」
「え、如何してですか?」
「自己紹介の時も言ったが俺はここに召喚されるまで病気で寝たきりに近かった。どういう訳か病気は治っているけど、先ず指示された三か月はリハビリを中心にやっていきたいし、この世界の事を自分で見聞きしたいんだよ。」
「上條にも話しておく俺の方は一人旅に備えての訓練に集中したいからだ。この世界での一人旅は相当過酷だと言われた。それなのに準備期間は最短で三か月しかないんだ、他の事をやっている時間はない。それに教団の人間と必要以上に馴れ合う気はない。」
「じゃあこの提案を蹴ってお二人はどうやって戦い方を学ぶつもりですか、日本に居たならそんな心得ある訳無いですよね。」
「片桐君なら俺と同年代だから分かると思うけど、冒険者ギルドの様な組織がこの世界にも在るらしい。新人の訓練もしているそうだからに素性を隠してそこに登録し訓練を受けるつもりだ。この世界の事を見聞きするにも丁度いいと思ってる。もちろんヴァルデルさんには食堂に来る前に話を通してある。」
「俺の方は監視の騎士と取引をした。監視を撒いたりしない事を条件に最低限の戦い方は昨日の夜もう教わった。後は上達に応じて高度なものを教わる約束をしている。」
「仕方ないですね。お二人にここまできっぱり断られた以上ここは引き下がります。でも僕たちのパーティーに入りたくなったら何時でも声を掛けてください。歓迎します。」
そう答えて自分の方を向き謝っている片桐君にセフィネアさんが頷いているので、片桐君たちとパーティーを組むという事態は当面避けられたようだ。
話は終わりのようだからもう行くと千葉さんが席を立ったので俺や片桐君たちもトレイを持って席を立った。
トレイは食事を貰った場所にまた戻せばいい様なのでそうして千葉さんや片桐君たちと食堂を出ると案内の騎士達が待っていた。
朝食の後は服の着替えと装備の受け渡しをすると言う事なので皆で武器の保管庫の方に移動する事になった。
お読み頂き有難う御座います。