出会い 8
螺旋階段を上がり迷宮の外を目指す。
階段を上がりきり警備の討伐者にカードとプレートを見せる時ゼス教団の騎士達の事を話そうかとも思ったがこれ以上の関わり合いを避ける為にそのまま通った。
ギルドの受付で帰還結晶とミスリルゴーレムの素材以外を換金するとランクがGからFに上がったと告げられてお礼を言ってギルドを出た。
まだ夕方には時間があるのでさっさとミスリルゴーレムの素材を収めてしまう為にクージンさんの奴隷商に向かう。
大通りから脇道に入り昨日通った道順で店に入る。
今日はティアじゃない別の子が対応に出て来た。
クージンさんに会いたいと告げると名前を聞かれたので答えるとそのまま昨日の執務室まで通された。
「セイジ君か、もしかしてもう依頼を達成してくれたのか?」
「ええ、ですか少し問題があるかもしれないので相談に乗って欲しいんですが先に依頼の品をお渡しします。何処に出せばいいですか?」
「確かにここでは狭いか、付いて来てくれ。」
執務机から立ち上がり俺の横を通って部屋の外に出たクージンさんの後をついて行くと庭のような場所に出てここに出してくれと頼まれたので、一体分ずつ二山に分けてミスリル塊を一気に出し二つの魔核石をクージンさんに差し出した。
「これで全てです。受け取ってください。」
「これ程の量のミスリル塊に魔核石も二つ、二体もミスリルゴーレムを討伐したのか?」
「そうですけど、一体目の素材回収中にゼス教団の連中が絡んで来て一悶着ありましてこれからどう対応すればいいか助言をもれえませんか?」
「それがさっき言っていた相談したい問題か、わかった最初に通した部屋で詳しく聞こう。」
クージンさんに魔核石を渡して最初に部屋に戻りソファーに向かい合って座って、今日の午後からの事を順に話していく。
悲鳴を聞いて駆け付けたらミスリルゴーレムに遭遇しこれを倒した事、倒したゴーレムの素材を回収中にゼス教団の騎士達に囲まれ素材を渡すよう恐喝された事、騎士達に囲まれているときに二体目のミスリルゴーレムが現れ騎士達を撃ち倒した事、二体目のゴーレムを倒した後騎士達に最低限の治療をしてから素材を回収してその場を去った事を話した。
「事態の推移はこんな所です。この後ゼス教団側はどう動きますかね?」
「そうだな、裏で必死にセイジ君の事を探すだろうが表立っては何もしないだろう。」
「素材を横取りしたとか、騎士に危害を加えたとかで手配しないんですか?」
「もしそんなことを表立って手配すれば、ここに派遣されているゼス教団の騎士団が一人の討伐者よりも弱いと自ら公表するようなものだ。武力で迷宮の運営に口を出そうとしている現状で頼みの武力に疑問符が付くようなことを出来る筈がない。」
「なるほど、じゃあ俺は如何してればいいですか?」
「ゼス教団の連中に合わないようにアルバンとジャンナの仕事を手伝っていればいい。もし出会って因縁を付けられても無視すればいい。セイジ君に納めて貰った物で奴らの口実を明確に否定できるから奴らは早晩撤退する事になる。それまで逃げ切ればいいし事態が悪化したならまた相談に乗ろう。」
「助言、有難う御座います。」
「なに、構わん。後は報酬の事だな。二体目の分の報酬をどうするかな、何か希望はあるか?」
「二体目は別で報酬をくれるんですか?」
「ミスリルゴーレムの素材を持ち込んでくれれば適正値で引き受けると言ったのは私だ。商人が自身の言に背いて信用を損なうような事は出来んよ。それに仕事の早い討伐者との縁は大事にしたい。そうか、セイジ君は討伐者だったな。なら追加の報酬はあれが良いか。」
クージンさんはソファーから立つと執務机に向かい二冊の本を取り出してソファーの間のテーブルに置くと元の位置に座った。
「この二冊の本はアーツブックだ。一方は制約法術スキルの物、もう一方は法術アーツ隷属制約の物、二体目の報酬としてこれらのアーツブックから得られるスキルとアーツを贈るというのは如何だ。」
「そのスキルとアーツはどんなものなんですか?」
「制約法術の方は同意の元成立した契約を順守させる精神系の法術で商いや決闘によく使われる、隷属制約は奴隷契約に使われるアーツで二つとも奴隷商御用達の物だ。討伐者にとっても報酬を踏み倒されない為や倒した盗賊の処分に有用な筈だ。」
「商売の種を教えてしまっていいんですか?」
「だからこそミスリルゴーレムの素材に対する報酬に値すると思っているがな。」
「分かりました。二体目の報酬はアーツブックを読ませて貰う事にします。」
「そうか、ならアーツブックを読んでいてくれ、ティアに準備をさせてくる。」
俺が頷くとクージンさんはソファーから立って部屋を出て行ったので、早速制約法術のアースブックから読み始める。
一冊目を読み終わり二冊目の中程まで読み進めた所でクージンさんはティアを連れて戻ってきたが、読み終わるまで声を掛けずに待ってくれた。
読み終わったアーツブックをテーブルに置くとクージンさんは声を掛けてきた。
「問題なく習得できたか?」
「はい」
「なら覚えたスキルとアーツを試す意味も含めてティアをセイジ君自身の手で自分の奴隷にしてくれ。」
「分かりました。」
ソファーから立ち上がりティアの前まで進んでアーツのガイドに沿って進めていくが途中で抵抗を感じてそれ以上進まなくなった。
「抵抗にあって進まなくなったか?」
「そうです。失敗ですか?」
「正常にアーツを使えている証拠だ。隷属制約には発動条件があって対象が奴隷で持ち主がいる場合持ち主の同意がいる。いなければ無条件で発動する。一般人に掛ける場合は抵抗を打ち破れるだけのスキルレベルやプラーナ、マナが必要になるが相手の犯した犯罪を知っていたり借金の債権を持っているなど弱みを握っていると格段に抵抗が少なくなる。覚えておくといい。ティアの所有権を放棄する。」
クージンさんの宣言と共にアーツは一気に完成しティアが俺の所有になった手応えがした。
制約法術スキルを取得した
法術アーツ隷属制約を取得した
法術アーツ隷属制約は制約法術スキルに格納されます
「上手く行ったみたいです。」
「では報酬の引き渡しも終わりだな。いい取引が出来た。何かあったらまた頼む。ティアも大事にしてくれ。」
「分かりました。これで失礼します。」
「クージン様、お世話になりました。」
ティアの荷物をポーチに仕舞いクージンさんの奴隷商を後にする。
もうだいぶ暗くなっている空の下ティアを引き連れて脇道から大通りに出てアルバン魔法薬店を目指し、店に着くと脇から裏庭に出た所でティアが質問してきた。
「ご主人様、此処は何処でしょう?」
「俺の雇い主の家だ。これからティアの事を紹介する。」
裏のドアを開けて中に入るとアルバンさん達は夕食を並べたテーブルについていたので俺を待ってくれていたようだ。
「遅かったね、セイジ」
「すみません。運よくクージンさんの依頼の魔物を仕留めることが出来て素材を収めに行ってました。」
「昨日依頼があって今日片付けて来たのかい、仕事が早いね、じゃあ後ろの子が報酬の奴隷の子かい?」
「そうです、ティア挨拶して」
俺の後ろに居たティアを前に出した。
「ティアと申します、よろしくお願いします。」
「よろしくね、キャミー手伝っておくれ、もう一人分夕食を用意するよ。二人は席について待っていておくれ。」
追加の料理が出来ると全員で食事をしながら自己紹介をしあう。
食事が終わって ティアと離れに引き上げる時ジャンナさんに呼び止められた。
俺にだけ話が在るようだったのでティアに店の外で待って貰いジャンナさんに向き合った。
「呼び止めてすまないね。」
「いいえ、構いません。それでどんな話ですか?」
「あの子の扱いの事さ、セイジがあの子をどう扱うかに口を出す気はないがね、なるべく一貫した扱いをして欲しいのさ、元奴隷として言うと、ころころ態度を変えられるのが一番怖かったからね。あの子といい関係を築くためにも少しだけ配慮しておくれ。」
「なるほど、助言感謝します。」
「なにただの老婆心だよ、呼び止めてわるかったね、仲良くおしよ。」
ジャンナさんに頷いて店を出るとティアが扉の前で待っていたので付いてくるよう促して離れに向かう。
ティアの素養は片桐君や千葉さん並だしある程度秘密を明かすことになるだろうからもう手放すことは無いだろう。
その上これ程綺麗で手を出しても問題ない子を傍に侍らせて我慢し続けられるほど俺は聖人君子じゃない。
だから今夜からティアを俺の愛人にする。
そして一般の奴隷のような扱いは極力しない。
これを続けて行けばジャンナさんの助言にも沿う事になる筈だ。
離れに着くと先にティアを入れて続き、扉を閉めるとティアを横抱きに抱き上げた。
「あ、あの、ご主人様?」
「俺の事はセイジと呼んでくれ。ティアの処遇を伝えておく。俺の討伐者パーティーのメンバー兼俺の愛人として扱う。」
「わ、分かりました。セイジ様。」
「じゃあ、まずは一緒に風呂に入ろう。」
ティアを横抱きのまま風呂場に向かった。
お読み頂き有難う御座います。




