出会い 3
階段を下りきり扉を開いて迷宮に入り暫く進むと、目の前に下へと続く吹き抜けの螺旋階段が姿を表した。
ポーチから地図を出して確認してみるとこの螺旋階段は一層から十層までを貫いているようだ。
多少驚いたが下層への行き来が楽なのは有り難い事なので気を取り直して一層の様子を確認していく。
拡縮の遠視眼と万物の透視眼を使い一層を見渡すとコリレスの迷宮よりかなり広いが複雑ではなく、ゴブリンが2〜4匹の集団を作って徘徊している。
アルバンさんが言っていたように壁の所々に草が生えていて、少しでも多く採取出来るルートを探していると、最外縁で壁一面に草が生えている所を見つけた。
目に付く草を全部と言われたのだからあそこを根こそぎにする為一層を歩き始める。
歩き始めて直ぐ壁に生えている草を見付けたので抜いてみると、
採取スキルを取得した
取得出来たスキルが使えるか、近くにあった別の草を抜いてみると綺麗に早く出来たので効果はありそうだ。
壁に生えている草を抜きながらなるべく魔物に当たらないルートを歩いて行くが、避けると余りに大回りになる個所に陣取っているゴブリン達が4匹いるのでこれは排除しよう。
気配を殺してゴブリン達が陣取っている場所に近づき、4本のファイアーアローを放つ。
4本とも別のゴブリンに命中し2匹倒れて動かなくなるがもう2匹は此方に向かってくる。
俺も剣を抜いてゴブリン達の前に出るが明らかに動きが鈍っていたのですれ違いざまに一刀ずつで仕留めて四つの魔核石と牙を回収してその場を後にした。
その後は魔物と戦わず草が壁一面に生えている所につき草を鑑定しそうになるが、下手に価値を知ると選り分けそうなのでそのまま1時間以上かけて全ての草を抜きポーチに仕舞い終わると採取スキルのレベルが上がったようだ。
他にも一層に同じような所がないかと魔眼で最外縁部を調べてみるが見当たらないので螺旋階段の所まで戻る事にした。
壁の草を抜きながら歩き、途中3匹と4匹のゴブリンのグループを潰して螺旋階段の所に戻ってカードの時計を見ると昼時のようなので昼食にした。
迷宮の壁にもたれて座り魔術で満たした水筒の水を飲みホットドッグをかじる、それを交互にしながら午後の予定を考える。
まだ通っていない一層の通路を歩いて草を集めるのもいいが、二層にも壁一面に草が生えている所はないかと調べてみると最外縁部に一か所あった。
二層の魔物キラーアントは初見の魔物なので階段付近で戦ってみて問題が無いようだったら最外縁部を目指す事にしよう。
ホットドッグの最後の欠片を口に放り込み水で飲みこんで立ち上がった。
螺旋階段を下り二層に着いて付近のキラーアントを探すと、7匹と9匹の群れが近くに居た。
初見なので7匹の群れの方に向かい曲り角の死角からファイアーアローで先制し放ち続けると、胸や腹にファイアーアローを撃ち込んだ個体はまだ生きているが頭に打ち込んだ個体は一撃で動かなくなった。
ファイアーアローで群れがばらけたので曲り角からキラーアントの前に出て頭と胸の繋ぎ目を狙って剣を振るうと一撃で切断出来倒せたので、残りの個体も一匹ずつ同じように倒して行った。
索敵を確実に行い包囲されなければキラーアントも問題なく倒せそうなので二層の最外縁部にある壁一面に草が生えている一角を目指す。
倒したキラーアントが残した魔核石と顎を回収し、一層と同じようになるべく魔物のいないルートを歩いているとキラーアントの群れが急に向きを変え遭遇戦になるが、魔術で先制し群れを分断して剣で各個撃破した。
遭遇戦の後は魔物に会う事無く最外縁部の壁に一面草が生えている場所につき、採取スキルのレベルが上がったお蔭だろう1時間弱で全て取り終えた。
採取が終わった後は螺旋階段の所に戻る事にして歩き始める。
戻る途中一度キラーアントの群れに会うが狩り、螺旋階段の所に戻ってカードを確認すると夕方になっていたので今日はこれで切り上げる事にした。
螺旋階段を上がり一層を抜けて地上へ階段を上がった所でカードと免税のプレートを提示して迷宮を出た。
そのままギルドに入り受付でゴブリンの牙とキラーアントの顎にポーチの維持と風呂を沸かす分を残して両方の魔核石を換金して貰い礼を言ってギルドを出た。
夕焼けの空の下大通りを歩いてアルバン魔法薬店まで戻って来て、店の脇を通り裏庭に出て裏から店に入るとジャンナさんがアゼル君をあやしていた。
「ただいま戻りました。」
「無事帰って来たみたいだね、セイジ。」
ジャンナさんはアゼル君にキャミーちゃんの所に行くよう言って俺の方に来る。
「その顔つきだと中々の成果があるみたいだね、付いておいで。」
頷く俺を先導してジャンナさんは店の方に歩き始め、入った部屋ではアルバンさんが作業をしていた。
「アルバン、セイジが帰って来たよ。収集物を一緒に検分しておくれ。」
「分かった。」
アルバンさんとジャンナさんは二人で作業テーブルの一角を片付け、そこに収穫してきた物を出すよう言われたので亜空間ポーチから草を出し始める。
半分ほど出した所でテーブルから溢れそうになり、ジャンナさんが待ったを掛けた。
「ちょっとお待ち、あとどれ位ポーチの中に残っているんだい?」
「そうですね、後半分弱って所だと思います。」
「まだそんなに残ってるのかい。これ程の量いったい如何したんだい?」
「迷宮に入ってすぐ、草のある場所を見付けるコツに気付いたんですよ。それで一層と二層にあった壁一面に草が生えている所を根こそぎにして来たんです。コツの内容も言わなきゃだめですか?」
「他人の商売の種を詮索しやしないから安心おし。」
「ジャンナ、お前のポーチに一旦仕舞って後で俺と選別しよう。」
「はいよ、アルバン。」
ジャンナさんがポーチを持って来て、俺が借りているポーチから中身を移し替えた所でキャミーちゃんが夕食が出来たと呼びに来た。
一旦離れに向かい装備を脱いでアルバンさん一家と夕食を取った後は離れに戻って風呂に入りそのまま寝た。
今日もキャミーちゃんに起こされ目を覚ます。
顔を洗い身支度を整えて店の方に顔を出すとキャミーちゃんが配膳をしている所だった。俺も昨日座った席に着きキャミーちゃんの配膳が終わると、皆一斉に食事を始める。
食事が終わった所でアルバンさんが口を開いた。
「セイジ、昨日は実物を使って草の判別法を教えると言ったが、判別は気にせず昨日の様に目に付く草を全部狩って来てくれ。ここの迷宮では草はすぐにまた生えて来るし、昨日取って来た物を選別してみたら、うちの店では使わない物にも有益な処分法があった。セイジが不慣れな判別をしながら採取をするより、俺とジャンナが後で纏めて選別した方が効率が良い筈だから昨日のようによろしく頼む。」
「分かりました。それじゃあ行ってきます。」
店の裏手から出て離れに戻り装備を身に着けて店の脇を抜けてギルドを目指す。
ギルドに入ると受付を素通りしてそのまま迷宮に下りた。
一層を行き螺旋階段の所まで来て大量に草が生えている場所を魔眼で最外縁部を中心に探してみると、一層と二層で昨日とは別の場所に三層でも見つける事が出来た。
暫くこの迷宮に潜る事になるのだから初見の魔物とはなるべく早い機会に戦っておいた方が良いのでまず三層の場所を目指す事にしよう。
螺旋階段を三層まで下り、階段に近く数が少ない魔物の群れを探してみるとス リープシープが1匹とホーンゴートが2匹の群れを見付けた。
試しにこいつ等と戦ってみる事にしよう。
隠密行動で近づくが魔物たちはまだ曲がり角の向こうにいて視界に入る前だが気付かれたようでホーンゴートは突撃姿勢を取りスリープシープが吐息を吐き始める。
先制は出来なかったが距離がまだ開いているので魔術で攻撃してみるが、どの属性のアローもボールも大した効果を上げる事は出来なかった。
埒が明かないので吐息を吸い込まないように息を止め剣と盾を構えて角から飛び出し魔物たちの前に走り出ると強烈な眠気に襲われ、
睡眠耐性スキルを取得した
睡眠スキルは状態異常耐性スキルに格納されます
所得したスキルの効果で眠気は緩和されるが足運びが乱れその場に立ち止まってしまう。
その隙にホーンゴートが2匹とも足並みを揃えて突撃してくるが、何とか剣と盾で逸らし先にスリープシープを仕留める為前に駆け出す。
スリープシープは吐息を止めて逃げようとするが何とか間に合い、首を後ろに捻った瞬間を捉えて頭を落とした。
制動を掛けて立ち止まり後ろを振り向くと、もう一度2匹のホーンゴートが足並みを揃えて突撃してくるので今度は1匹を盾で受け止め、もう1匹を剣で受け流し、受け止めた1匹の動きが止まった瞬間剣で頭を落とした。
1匹になり逃げるかと思ったホーンゴートが再度突撃してくるので前の1匹と同じように盾で受け止め頭を落とした。
どうやらホーンゴートとスリープシープは魔術に強く、スリープシープの吐息は無色無臭で接触でも睡眠を誘発するようなので、この層で今の俺が戦う場合は魔術で常に風を衣のように纏い剣を使わなければいけないようだ。
消耗が激しくなりそうなので必要がなければ無理にこの層で狩りや採取をする必要は無いだろう。
3匹が落とした魔核石とスリープシープの毛にホーンゴートの肉を回収して螺旋階段の所まで戻った。
その後昼までは二層でキラーアントの群れを排除しながら最外縁部まで行き壁一面の草を採取して戻り、昼からは一層でゴブリンの群れを狩りながら昼までと同じ様に採取をして螺旋階段の所まで戻ってきた。
カードで時間を確認すると夕方まではまだ時間があったが今日はこれで切り上げる事にした。
門を出て階段を上がりプレートを確認して貰いギルドに入る。
受付で昨日と同じように草と魔道具への補充に使う魔核石以外を換金して貰い礼を言って離れると、酒場の方へ僅かに危機感知スキルが反応し視線だけ向けると奴らがいた。
お読み頂き有難う御座います。




