出会い 2
「セイジさん、朝ですから起きてください。」
肩を揺すられ僅かに目を開けると昨日知り合った女の子がいた。
「キャミーちゃん?」
「はい、朝食の準備が終わっていますのでお店の方まで出て来て下さい。」
「起こしてくれて有難う」
キャミーちゃんはお辞儀をして出て行き、俺も体を起こしてベッドに腰掛けた。
二階にある寝室から一階に下り顔を洗って身嗜みを整えて店の方に向かうと、俺以外の全員がテーブルについていた。
キャミーちゃんに勧められた席に俺が座るとアルバンさんが口を開いた。
「出来るだけ皆で食事をするのが家の流儀でな、こちらの都合に合わせて貰ってすまない。」
「構いませんよ、郷に入れば郷に従えです。」
「有難う、では食事にしよう。」
アルバンさんの言葉に合わせて、俺以外食事を始めたので俺も食事に手を付ける。
パンにスープとサラダの朝食を皆黙々と食べる。
食事が終わりジャンナさんとキャミーちゃんがテーブルの上を片付けた所で、アルバンさんがポーチのような物と手紙をテ−ブルの上に置いた。
「そのポーチを持って開けと念じてみてくれないか?」
頷いてポーチを持ち開けと念じてみると、ポーチの口が勝手に開いた。
中を覗いてみると底の見えない闇が広がっていて、試しに手を出してみると闇触れた部分は見えなくなったが消えた訳ではなく、このポーチの使い方を感じ取ることが出来た
「どうやら適正は在るようだな。」
「これはジャンナさんが使っていた大量の物が仕舞えるポーチですよね。使うのに適正が在ったんですね。」
「知らない様だから教えておこう、そのポーチの正確な名前は亜空間ポーチと言ってな、込められた空間法術の作用で大量の物品を負荷無く持ち運べる魔道具だが、使用には空間法術の適正が必要なんだ。因みにそれはジャンナが持っていた自己補充式の物じゃなく、俺の持ち物で魔核石補充式の物だから迷宮から出る時、口を縛っている紐についてる球に魔核石を押し当てて力を補充しておいてくれ。」
「これを貸してくれるんですか?」
「そうだ、セイジは採取の経験が無いと言っていただろう。だから今日は迷宮で目に付いた草を全部持って帰って来てくれ。持って帰ってきた実物を使って使える物と使えない物の判別方法を教える。収穫物の大量を期待してそれを貸し出す。」
「分かりました。」
「手紙の方はセイジが俺の店に雇われている事を証明する物だ。此処の迷宮は素材を外に持ち出す場合はギルドからの税金が掛かるんだがこの街に帰属している者は免除されるんだ。免除は雇われた者にも適用されるから迷宮に入る前にその手紙をギルドに提出してくれ。こちらからは以上だ。」
「じゃあ迷宮に行ってきます。夕方には帰るつもりです。」
「分かった、気を付けて怪我の無いようにな。」
頷いて亜空間ポーチと手紙を持って席を立ち店を後にした。
離れに戻り二階の寝室に置いていた装備を身に着け亜空間ポーチを腰に手紙をポーチの中に入れて離れを出る。
店の脇を抜け大通りに出るとまだ人通は疎らだった。
大通りを歩いて昨日見たギルドの看板を掲げた建物を目指すと、目的の建物の周りにはコリレスの街と同じように飲食物の屋台が出ていた。
屋台でホットドッグの様な物を買いポーチに仕舞ってギルドの建物に入ると、正面には奥に続く通路と通路に沿うように受付があり、右手には依頼の掲示板が左手には酒場と奥に続く通路があった。真っ直ぐ進み受付の女性に声を掛ける。
「今対応して貰えますか?」
「はい、大丈夫です。」
「俺はアルバンさんの魔法薬店に新しく専属で素材収集の為雇われた者です。迷宮からの素材の持ち出しに掛かる税の免税手続きをお願いします。この手紙がアルバンさんからの雇用を証明する物になります。」
亜空間ポーチから手紙を取り出し受付に女性に渡す。
「確かにお預かりしました。手紙の内容を確認の上迷宮からの退出時に免税者であることを確認する為に提示して頂くプレートをお渡ししますから暫くお待ちください。」
待ち時間があるなら待っている間に迷宮の地図の用意を終わらせておこう。
お辞儀をして下がろうとする受付嬢を呼び止める。
「迷宮の地図は何処で売っていますか?」
「地図はここで取り扱っています。十層までありまして一層につき1000ヘルクになります。」
「じゃあ十層まで全部買います。」
「有難う御座います。プレートと併せて準備してまいります。」
「待ち時間の間、此処の迷宮の情報やアーツブックを確認したいんでそういう本が何処に在るか教えて貰えますか?」
「資料は当受付から持ち出し厳禁で貸し出しておりますが、当ギルドにアーツブックはありません。」
「アーツブックは無いんですか?」
「はい、申し訳ありません。一番近くにあるアーツブック保管場所は西ヴァルノムのミラルテの街に在るミルネ教団の教会になります。どうしても必要なら此方を訪ねてください。ただし閲覧にはランク制限があるのでお気を付け下さい。」
「分かりました。迷宮の資料だけで良いですから貸してください。」
「こちらになります。持ち出し厳禁になりますのでお気お付け下さい。では暫くお待ちください。」
受付の女性から資料を受け取って、受付に近い酒場の席に座り資料を読み始める。
どうやら此処の迷宮はコリレスの迷宮と違い一層毎に違った魔物が出る様で、魔法薬の素材が良く取れると書いてある一〜三層には一層にゴブリン、二層にキラーアント、三層にスリープシープとホーンゴートという魔物が出るようだ。
キラーアントは犬位の大きさの蟻でよく群れを作って襲いかかって来るようで、スリープシープは眠りの吐息を吐く羊の魔物で、ホーンゴートは鋭い角による突撃が危険な山羊の魔物と書いてある。
四層以降十層までの魔物についても書いてあり、守護者についての情報もあった。
守護者の情報の中に一つ目を引く物が在り、十層のメタルベアーという金属の皮膚をした熊の魔物が出る層の守護者が帰還結晶を落とすという情報だ。
この資料によると帰還結晶は迷宮から転移脱出が出来る魔道具のようだ。
高レベルの金属製ゴーレムが守護者のようだからすぐには無理かもしれないがこの迷宮を去る時までには手に入れておきたい魔道具だ。
一通り資料に目を通した所で受付に呼ばれたのでまず資料を返した。
俺から資料を受け取った受付嬢はカードのようなプレートと紙束を差し出して来る。
「こちらのプレートが免税の証明になります。迷宮から出る時カードと一緒にご提示ください。それからこちらが迷宮の地図になりますお納めください。」
金貨一枚を払ってプレートと地図を受け取り、プレートをカードと一緒の袋に地図を亜空間ポーチに仕舞う。
「最後に迷宮の入口と訓練場は何処になりますか?」
「迷宮の入口はこのまま通路を奥に向かった所に在ります、訓練場は酒場の奥の通路を出ればそこにあります。」
「有難う御座います。」
お辞儀を返して来る受付嬢を横目に迷宮に向かって歩き出す。
通路を歩き一端ギルドの外に出ると壁に囲われた広場のような場所に出て目の前に迷宮への下り階段を覆う建物があった。
建物入口の両側に居る警備の討伐者にカードを見せて迷宮への下り階段を下りた。
お読み頂き有難う御座います。




