出会い 1
コリレスの街を出て2週間程もうダレンの街が魔眼を使わずともよく見える。
この2週間の間に特段の事は起きていない。
せいぜい10匹前後のゴブリンが襲撃を仕掛けて来たことが数回と商隊の荷を掠め取ろうと数人組の盗賊が野営地に忍び込んできた事が数回あったくらいだ。
どちらも俺を含む当直の護衛が軽く始末し、ゴブリンは魔核石と牙にし、盗賊は殺して埋めた者もいたが捉えた者は犯罪奴隷として道中立ち寄った街で処分した。
それと道中思いがけず役に立ったのは結界法術と結界の魔道具だ。
就寝時の人や荷の安全確保だけではなくて虫除けにも効果を発揮してくれたのだ。
おかげで不快な虫刺されから無縁でいられ森など虫が多い場所では俺とジャンナさんの周りに常に結界を展開していて結界法術スキルがかなり上昇した。
俺自身の事で言えばコリレス最後の夜に盗賊を殺したことで取得した三つのクラスをアビリティ限界突破を使い15BP消費して、クラス設定枠を三つ増やして設定した。
確認の為自身を鑑定してみると11まで増えている筈の基礎成長値が9で止まっていて限界に達している事が分かり、アビリティ限界突破を使い30BPを消費して、各基礎成長値の限界を5拡張した。
商隊は順調に進みダレンの門の前に出来ている入場待ちの列の最後尾に着いて止まった。
列はゆっくり門の中の消えて行き俺が護衛する商隊も問題なくダレンの街に入場を許可され門を通った先に在った広場で商隊は解散となった。
報酬を払うから付いておいでと言うジャンナさんの馬車に続いて俺も乗馬のままその広場を後にする。
広場から続く大通りに出るとコリレスの街と同じように通りの左右に武器屋や防具屋に雑貨屋といった様々な店が軒を連ねていてギルドの看板も目に入った。
その通りを暫く進んでジャンナさんの馬車は魔法薬店らしい店の脇に入って行って、ジャンナさんに続いて俺もそこに入ると魔法薬店の店舗裏の庭のような所に出て、そこには厩舎と離れが立っていた。
ジャンナさんはその厩舎に馬車を入れ馬具を外し始めたので俺も馬を繋がせて貰った。
俺とジャンナさん共に馬の世話を終えた所で厩舎を出てジャンナさんの後を付いて行き、裏手から店舗の中に入った。
「ママ」
「奥様」
店に入ると直ぐに5歳未満の男の子と12〜3歳位の女の子がジャンナさんを嬉しそうにそう呼んでかけてきて、ジャンナさんは二人を抱きしめて抱え上げた。
「今帰ったよ、アゼル、キャミー、二人とも良い子にしてたかい?」
「うん、キャミーのお手伝い頑張った。」
「家事に不備は出していません、奥様。」
「そうかい。」
ジャンナさんは二人を下ろし、俺に向って立たせた。
「紹介するよ、セイジ。この子はアゼル、あたしと旦那の息子さ。でこっちの娘がキャミー、アゼルがお腹に出来た時、小間使いとして買った奴隷なんだけどね、今じゃ娘みたいなもんさ、二人とも挨拶しな。」
「こんにちわ」
「お初にお目にかかります。」
「二人ともはじめまして、ジャンナさんも言ってたけど俺はセイジです。討伐者をやってて今はジャンナさんからの依頼でコリレスの街からこの街までジャンナさんの護衛をやってました。」
「奥様を無事送り届けて頂き有難う御座います。」
アゼル君はキラキラとした目で俺を見上げてきて、キャミーちゃんは深々とお辞儀をした。
「ジャンナ戻ったか。」
「はいよ、あんた」
表の店の方から男性が出てくるので今度は俺の方から挨拶しようとするが手で制された。
「さっきの紹介は聞こえてた。俺はアルバン。この魔法薬店の主人でこの家族の父親だ。ジャンナを守ってくれてありがとう。」
「さてこれで紹介は済んだね。キャミーはお茶を淹れて来ておくれ。アルバンはあたしとセイジへの報酬の用意だ。セイジはそこにでも座って待っていておくれ。」
キャミーちゃんは一礼して台所が在るんだろう方に向かい、アゼル君はキャミーちゃんの後を付いて行く。
ジャンナさんはアルバンさんと店の方に行ってしまったので言われたとおりテーブルセットが置いてある場所の椅子に座って待つ事にした。
キャミーちゃんはすぐに戻って来てお茶を出してくれ、よじ登るようにして椅子に座ったアゼル君がせがんでくるここまでの道中の話をしているとアルバンさんとジャンナさんも戻って来て席に着いた。
「約束していた報酬だよ。受け取っておくれ。」
「頂戴します。」
ジャンナさんがテーブルに置いた金貨と銀貨を俺の前に押し出してきて、おれは金貨と銀貨の数を数えて金袋に仕舞った。
「さてこれで護衛依頼の清算は終わった訳だけど、セイジ、このまま暫く家で働いてみる気はないかい?」
「俺に何をさせる気ですか?街中で護衛は必要そうじゃないし、俺は魔法薬なんて作れませんよ?」
「セイジに頼みたいのは、此処の迷宮で魔物を倒すついでに魔法薬の材料を集めて来て欲しいんだよ。」
「この魔法薬店専属で素材収集をしろって事ですか?」
「その通りだよ、魔法薬の素材はギルドからも供給されているけど不安定でね、割増料金を払ってあたしにまで配達の依頼が来るほど魔法薬の需要が上がって来ている以上、安定して素材を確保したいんだよ。勿論何時迄もって事じゃないよ。セイジが討伐者として一流になりたいって野望が在るのは知ってるからね。金を貯め戦闘奴隷を買って自前のパーティーを組めるようになるまででいいよ。その間は庭の離れを使っておくれ、元は対魔物戦闘用の奴隷小屋だった建物だから最低限の生活に必要な物は揃ってる。如何だろうね?」
万象の鑑定眼があるから素材の収集は問題ないだろうから、十分俺にも利益が在る話なんだがここの迷宮の様子がまだわからない以上安請け合いはしないでおこう。
「素材の採取はやった事が無いし、此処の迷宮の情報は殆ど持って無いんで、1週間ほど様子を見させて貰っていいですか?」
「分かったそれで良いよ。離れはキャミーが手入れをしている筈だから今日からでも使えるよ。そうだね、キャミー?」
「はい、奥様」
「有り難く使わせて貰います。そうだ馬の事は如何したらいいですか?」
「討伐者なら依頼で馬が入用な事が多いだろうから出来るなら維持しといた方が良いよ。世話ならこっちで見るけど、その分世話代は貰うからね。」
「有り難くそうさせて貰います。」
「細かな条件の詰めは試しが終わってからの方が良いだろうし、試しの1週間が終わればその間の仕事に見合う報酬を払うよ、じゃあ仮だけど契約成立だよ。」
ジャンナさんがそう言うとアルバンさんが手を差し出して来たので、その手をしっかり握って握手をした。
「セイジ君、よろしく頼む。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
握手を終えた後は早速キャミーちゃんに離れを案内して貰う事にした。
キャミーちゃんが鍵の用意に向かったので、時間を無駄にしないよう厩舎に繋いだ馬の背に置いて来た荷物を取って来る事にした。
馬から荷物を下ろし手に持って離れの入口に向かうと、鍵を開けてキャミーちゃんが待っていてくれた。
離れは三階建てくらいでキャミーちゃんに続いて中に入ると、一階は食堂と台所にトイレと風呂が在り、二階と三階はベッドだけの個室が幾つかあった。
二階の個室の一つを寝室に決め荷物を置くとキャミーちゃんが一階の利用法を説明をしてくれた。
食堂と台所は普通の物だが、トイレと風呂は魔道具だそうで、込められた生活魔術で入ってきた汚物を土に変えるトイレに、水の生成からお湯にするまで全ての工程が魔道具化された風呂だそうだ。
両方とも魔核石から力を補充するタイプで、トイレの魔道具を一日一回は起動させる事とお風呂を使ったら残り湯を庭に撒くので捨てない事を念押しされた。
その後はアルバンさん達と夕食を食べ、護衛の道中で手に入れたゴブリンの魔核石で久しぶりの風呂に入り、寝室に決めた部屋で眠った。
お読み頂き有難う御座います。