岐路 7
ジャンナさんに依頼された護衛の契約の詳細を詰める前に俺の荷物と馬を回収する為宿を出る。
荒らされ人気のない通りを駆け抜け門を潜り茂みに隠した荷物を回収すると、すぐに引き返して門の脇に在る詰所に繋がれていた馬の手綱を引いて宿に向かった。
盗賊にも街の人にも会う事無く宿まで戻り、宿の脇に在る厩舎に馬を繋いで宿の中に入るとジャンナさんが一人待って居た。
「ジャンナさん、他の人達はどうしたんですか?」
「先に地下の隠し部屋に戻って貰ったよ。あんたとの契約の詳細はあたしが宿を代表して詰める事になったんで、こうして待ってたのさ」
「そうですか、ならすぐに決めて仕舞いましょう。」
「分かったよ、報酬は5000ヘルクで如何だい?」
「それでいいですけど、その代り護衛の終了は次の朝日が出た時点にして貰います。」
「仕方がないね、その条件を飲むよ、隠し部屋に案内するから付いといで。」
地下で他の人と一緒だと魔眼が使い辛いかもしれないのでこれは断ろう。
「いえ、俺は入り口の物陰に隠れておきます。盗賊が来た場合倒せる様ならそのまま片付けますし、倒すのが無理そうなら最悪余所に引っ張って行きますから。」
「護衛を頼んでおいてこう言うのは烏滸がましいかもしれないけどね、命を無駄にするんじゃないよ。」
「分かってます。最後に一つ確認です。さっきは隠れていたのにどうして見つかったんですか?」
「ああそれはね、恐怖と緊張で引き付けを起こした奴がいてね、見付からないだろうと思って水を取りに宿の娘を隠し部屋から出した所で盗賊と鉢合わせしちまったんだよ」
「それは運が悪かったですね。じゃあ俺はもう隠れますから、ジャンナさんも隠し部屋に移動してください。」
「くどい様だけど、気を付けるんだよ。」
頷いた俺を見てジャンナさんが移動を始めたので、俺も宿の入口の物陰で魔眼を使っての周囲の監視と街の状況把握を始める。
まず周囲を確認して自分の間違いに気付いた。
この宿と門を行き来した時通った通りに人気が無いと感じたが多くの家で屋根裏や地下に自前の隠し部屋を作ってそこに隠れていた様だ。
この街の人の強かさに感心しながら周囲の索敵を続け盗賊の姿が無い事を確認した。
差し迫った危険が周囲には無いようなのでギルドの討伐者達と盗賊達の戦況を確認しよう。
闇雲に調べても効率が悪そうなので火事の煙を目印にその周囲を調べると、対処の人員が到着しておらず暴れまわっている盗賊達もいるが、ギルドの討伐者達と盗賊達が戦闘になっている場所は概ね討伐者達が優勢になっている。
周囲の安全を確認しながら街中の戦闘の推移を視ているとギルドの戦略が分かってくる。
盗賊達が雪崩れ込んできた門を中心に包囲陣を形成し門に向かって盗賊達を押し込んでいく作戦を採ったようだ。
この作戦に合わせて門を奪還し閉鎖して盗賊達を一網打尽にするのかと思ったが包囲陣から突出する討伐者がいないようなので、ギルドは盗賊の殲滅よりも街中から確実に盗賊を排除する事に重点を置いた様だ。
ゆっくりとだが包囲陣が完成しその輪が狭められていくと逃げ出す盗賊達も現れ始め、包囲が狭まる速さが上がった。
討伐者達に追われる盗賊達が宿の近くを通った時は宿に逃げ込んで身を隠そうとするかと緊張したがそんな事は無く盗賊達は門を目指して逃げて行った。
追われた盗賊達は門から逃げ出せた者達もいたが大半が打ち取られ、ギルドの討伐者達が門を確保し閉門した所で朝日が昇って来た。
門を確保したギルドの討伐者達はすぐさま次の行動に移り、伝令に走る者、残党狩りに動く者、門の警備に残る者などに別れて行く。
残党狩りを始めた討伐者達が盗賊への投降を命じている声が聞こえてから隠し部屋にギルドが勝った事を伝え行くと、皆安堵したり喜んだりして隠し部屋から出て来た。
俺ももうこの街から出発したかったので依頼の清算をジャンナさんに頼むと少しでいいから待っておくれと頼まれ、ジャンナさんは出掛けて行った。
魔眼でジャンナさんの姿を追ってみると何軒かの宿で人と話し合って30分ほどで帰ってきた。
「待たせて悪かったね、セイジ」
「いえ、清算を済ませてしまいましょう。」
「焦らせて悪いとは思うけどね、先にあたしの話を聞いてくれないかい?」
「話ですか?」
「依頼料を値切ろうって訳じゃないよ。如何だいセイジ、このままあたしの護衛をやってくれないかい?」
「宿で護衛を続けてくれって事ですか?」
「そうじゃないよ。今意思統一をして来たんだけどね、あたし達の商隊は今日中に出来れば昼までにこの街を発って本拠に向かうつもりだから、道中の護衛を頼みたいんだよ。こっちの希望で急に頼むんだ、食費や消耗品の代金はこっちで持つよ。」
「そんなに急に出発出来るんですか?」
「不幸中の幸いな事にね、あたし達の商隊はもう取引は終わってるし何人か護衛に怪我人が出た位で荷物も荷馬車も無事だったみたいでね。それでも念のため護衛を増やして皆さっさと本拠に戻りたいんだよ、これからこの街は治安が悪くなるだろうからね。」
「ジャンナさん達の本拠ってどこですか?それに報酬は?」
「あたし等の本拠はダレンだよ、報酬はさっきの条件に加えて日当を銀貨2枚出すよ。」
ダレンは南の地峡帯の中程に在る街で迷宮もあると資料に書いてあったので逃亡先の候補と考えていたから渡りに船という依頼だが、もう少し質問しよう。
「南の地峡帯に在る街ですね。その条件なら他のも引き受ける人はいそうですけど如何して俺に声を掛けてくれるんです?」
「セイジの腕前は昨日見せて貰ったしギルドからもフリーのようだしね、何よりあたしの勘がセイジとの縁を此処で切るなってあたしに告げるんだよ」
何か特別な能力が在るのかとジャンナさんを鑑定してみると
ジャンナ Lv22
魔術師 Lv22
筋力 44
耐力 44
知性 88
精神 66
敏捷 44
感性 88
アビリティ
天性の直感
スキル
5個
確かに根拠が在るようだ。
「分かりました。護衛の依頼さっきの条件で引き受けます。」
「契約成立だね。なら準備を済ませて集合場所に急ぐよ。」
ジャンナさんは宿代を清算して厩舎に向かうというので俺は先に荷物を持って厩舎に向かう事にした。
盗賊から奪った馬の元に行き、鞍の後ろに荷物を固定して試しに乗ってみると、
乗馬スキルを取得した
取得出来たスキルを慣らしていると、ジャンナさんの馬車の用意も終わったようだ。
宿の脇にある厩舎を出て乗馬のままジャンナさんの馬車に付いて行くと、一番近くのつい先程ギルドによって取り返された門の前に止まったのでここが集合場所のようだ。
ギルドの討伐者以外誰もおらず俺とジャンナさんが一番乗りだったようだが暫くすると、一台また一台と馬車や護衛が集まってきてジャンナさんを含めて責任者達が今後の相談を始めると、こちらに対応する為門の詰所から出て来た討伐者達の中にゲオルさんの姿があった。
ゲオルさんも俺に気付いて声を掛けてくれる。
「セイジ、お前何でこんなとこに居るんだ?」
「昨日の夜何か可笑しいと思って迷宮を出たら教会があんな事になってたんで、人気のない所で様子を見ようと思ったら向こうに居る商人さんと出会いましてそのまま本拠までの護衛を引き受ける事になったんです。」
「きちんとした依頼での事なら問題ねえよ、依頼頑張れよ。」
「はい、ゲオルさんに俺から一つ頼みがあるんですけど俺に在ったのは3日前が最後で此処で在った事は忘れてください。俺教団に徴兵されたくないんで盗賊騒ぎで行方不明ってことにしておきたいんです。」
「お前教会で覚醒石に触ったんだったな。分かった、お前の頼みを聞いてもいいが俺の頼みも聞いてもらうぞ、セイジ、まずランクDを目指せ。ランクDになりゃあ何処の国でも徴兵を強要出来なくなる。それで一流の討伐者になってみせろ」
「はい、分かりました。」
話し合いが終わった様で門が開き始め、出発の号令が聞こえてきて商隊が動き始める。
「ゲオルさん、お世話になりました。」
「セイジも達者でな。」
ゲオルさんに頷いて馬を操りジャンナさんの馬車に馬を寄せて商隊と歩調を合わせて馬を歩かせる。
開かれた門を潜りコリレスの街を出て暫く進んで一度コリレスの街を振り返り自身を鑑定する。
上條 征司 Lv17
クラス 戦士 Lv17 闘士 Lv17 魔術師 Lv17 法術師 L17
筋力 153
耐力 136
知性 153
精神 136
敏捷 153
感性 153
アビリティ
超越者の器
万色の魔眼
限界突破
スキル
20個
この力を元手にまだまだ強くなって自由にこの世界を見て回れるようになろう。
もうコリレスの街を振り返らず、まだ不慣れな乗馬に集中した。
お読み頂き有難う御座います。




