岐路 6
巨石の内部に在る部屋に居たお蔭で気付かれる事は無かったとはいえ頭上を飛行する魔獣に騎乗した騎士達が通過して行った事には驚かされたし、その中に千葉さんの姿を見付けてさらに驚いた。
驚かされはしたが空を行く騎士達を見て思い出した事もある。
移動を高速化するのに乗り物を使うという事だ。
流石にコリレスの街で飛行型の騎乗できる魔獣なんて物は手に入らないだろうが馬位なら何とかなる筈だ。
馬に騎乗していた盗賊達もいたので奴らから奪い取るのが一番良いだろう。
馬に乗った事は勿論無いがアビリティ超越者の器の効果ですぐに騎乗系のスキルは手に入るだろうから乗る事自体は問題ないだろう。
馬の世話もした事が無いので乗り潰す事になってしまうかもしれないが、かなり移動時間を短縮出来る筈だ。
コリレスの街の中心部まで入って馬を探すと装備を変えているとはいえ王国の密偵達に気付かれて仕舞うだろうから街の外縁部を探してみると、運が良い事にこの部屋から一番近い盗賊たちが街に雪崩れ込んだ門に、馬を引き連れた見張り役の盗賊達が居るようだ。
馬具もしっかり付いているようなのでこいつらの馬を奪ってそのまま街を出る事にしよう。
転移エレベーターが設置してある内部の部屋から巨石の外に出る為に壁を押し開ける。
魔眼で周囲には誰も居ない事を確認しているが何とか通れる位しか壁を開けずその隙間を滑る様に外に出て、大きな荷物を持っているが少しでも目立たない様に歩いていると
隠密行動スキルを取得した
隠密行動スキルは体術スキルに格納されます
取得出来たスキルも使ってコリレスの街に向かう。
魔眼に暗視スキルも使って周囲を警戒しながら木々の間を縫うようにして歩いて門の近くまで行く。
門に一番近い物陰に荷物を置いて魔眼と暗視スキルを使って門の周辺を確認するとどうやら見張り役の交代があった様だ。
先ほど見た時の見張り役達はイライラした雰囲気を隠そうともしていなかったがそれでも門の開口部に立って中と外を監視していたが、今の見張り達は役目を放って門の近くに在る教団の騎士の詰所の物陰で女性を強姦している様だった。
盗賊たちの行為に不快感を覚えるが7人もの人間と一度に相対する自身は無いので見張りの居ない門に近づきながら馬だけでも手に入れる隙を見出す為魔眼を盗賊達に向け読唇術を使う。
「ちっ、さっきまでいい声で哭いてたのにこれじゃあ人形じゃねえか。萎えるぜ。」
「兄貴のお楽しみが終わったんなら俺たちにも回してくださいよ。」
「まあ待て、こんな風に心が折れた女には最後のお楽しみがあるんだよ。」
兄貴と呼ばれた盗賊は服を着直すと徐に剣を抜き何でもない様に女性の胸に剣を突き立てた。
胸を刺された女性は人形の様な諦めた表情がさらに深い絶望に染まりそのまま事切れた。
「やっぱりいいな、心が折れて絶望した表情が死を強制されてさらに深い絶望に染まるのは、堪んねえな。」
「あ〜あ、勿体ねえ。殺るんだったら先に俺達にも遊ばせてくださいよ。」
「けちくさい事言ってんじゃねえよ。この辺りは安宿が軒を連ねている一帯だ。娘の下働き位ならごまんと居るだろうよ。今度は俺達一人につき女一人ずつ攫って来るぞ。」
「兄貴、見張りはいいんですか?」
「いいんだよ、この襲撃は祭りみたいなもんだ。楽しんだもん勝ちなんだよ。」
魔眼が捉えるそう言ってバカ笑いをする盗賊たちの姿が、聞き耳スキルが拾う不快な笑い声が、殺された女性の絶望を浮かべた顔が、俺の中の何かをぶち切った。
今の時点で作り出せる最高のウインドアローを7本作り出し目一杯上空に打ち上げて、盗賊達の死角を通って門の内側に入る。
最高到達点に達し落下を始めるウインドアローに螺旋回転と加速を加えながら盗賊達の頭上に誘導し、盗賊達からの死角の中を詰所に向かって走る。
頭上から最大加速のウインドアローを落とし六人の盗賊の頭を貫いて仕留めて、兄貴と呼ばれた盗賊にはわずかに首を振られて頭への直撃は避けられたが、右の鎖骨辺りにウインドアローは埋没させた。
「限界突破」
アビリティ限界突破に気鎧と魔装衣に身体強化法術も重ねて使ってから、剣を抜いて死角から飛び出し痛みで絶叫する兄貴と呼ばれた盗賊を風刃一閃で胴薙ぎにした。
兄貴と呼ばれた盗賊の絶叫は喉から溢れる血ですぐに止み、前のめりに倒れ込んで死んだ事を確認してアビリティを止めた。
7人目を仕留めた所で滾っていた物が急速に冷めて行き、胃の奥底から不快感が込み上げてくるが何とか押し止める。
レベルが上がった時に感じる力が湧いてくる感覚がして
条件を満たしたので新たなクラスが解放されます
[魔法戦士][武術使い][魔法使い]以上です
新しいクラスも手に入れたが気分が高揚してくる事は無かった
念の為強姦されていた女性を確認するとやはり死亡していて、その女性の僅かに涙を湛えた目が俺を責めているように感じた。
俺が自己犠牲の精神で今夜の襲撃の事を教団の騎士達に話していればこの女性は殺されずに済んだのかも知れない。
だがそうしていたら教団に俺の能力を知られ束縛されて自由に生きて聞く事が出来なくなり、この女性を含むコリレスの街の人全てを恨む事になっただろう。
今の俺はまだ色々な力が足りない以上何時もベストの選択を選ぶ事は出来ないだろう。
それでも後悔しないように少しでもベターな選択肢を探して選んでいく事を忘れないようにしよう。
強姦され殺された女性の開いていた目を閉じて
「仇は取りましたからそれで勘弁してください。」
そう呟いて大きく息を吐いた。
ため息を吐いた事で下を向いて服や鎧に派手に返り血が付いている事に気付いたので慌てて生活魔術で綺麗にしていると、聞き耳スキルが微かな女性の悲鳴を拾った。
声の大きさから目視出来る範囲外だろうと当りを着けて魔眼で周囲を調べてみると、この門の前に伸びる通りを少し進んでそこの脇道に暫く入った所に在る宿屋に盗賊が押し入っているようだ。
押し入ってきた剣と盾に革製の鎧で武装している3人の盗賊に対して何の装備も身に着けていない宿屋の人達が木の棒などで必死に抗戦している。
見つけた以上助けなければ後悔する事になりそうなので剣を手に持ったまま全力で走りだす。
盗賊達に荒らされ人気の無くなった通りを駆け抜け速度を緩めることなく脇道へ曲がった所で盾を左手に持ち、襲われている宿屋に駆け込む。
盗賊達から大した気配を感じなかったのでそのまま後ろから仕掛けた。
まず一人目の頭を盾で強打し気絶させ残りの2人が俺に気付いて仕掛けてくる攻撃を剣で弾いた。
剣を弾かれ体勢が崩れた奴に左の拳を腹に打ち込んで二人目を気絶させると、三人目が逃げ出したのでファイアーアローで足止めしようとすると宿の人の中からファイアーアローが放たれ三人目の足を撃ちぬいて転ばしたので首筋に剣の柄を打ち込んで気絶させた。
三人の盗賊を無力化して宿にあった縄で縛り上げ猿轡をかませた所で宿屋の人が問いかけてきた。
「あんたいったい何もんだ。」
「え?ああ、俺はここのギルドに登録している討伐者です。」
俺が答えると同時に剣帯に下げている袋からカードを取り出して見せると宿屋の中に安堵が広がった。
「じゃあ、ギルドの救援部隊が来てくれたんだな?」
「いえ、そうじゃないです。ついさっき街に帰ってきたら門の所で盗賊に襲われまして、返り討ちにした所で悲鳴が聞こえたので駆けつけてみたって所です。」
俺の答えに宿屋の人達は明らかに落胆するが、奥から一人の女性が俺の前に出てくる。
「さっき帰って来たって事は、あんたは今受けている依頼を完了してるって思っていいかい?」
「はい、今引き受けている依頼はありませんけど。」
「そうかい、なら報酬をきちんと払うからここの護衛をやってくれないかい?」
見つかったり偽装がばれれば教団にも王国にも追われる身の上である以上すぐに移動をした方がいいのかもしれないが、俺自身がこの世界での旅も騎乗しての移動も未経験なのだから明るくなるまで待って移動を始めた方が良いかもしれない。
「・・・朝までならいいですよ。でもその前に門の外に置いてきた荷物と襲ってきた盗賊が使っていた馬を回収して来ていいですか?」
「ああ、いいとも。取り敢えず契約成立だね。あたしの名前はジャンナだよ。」
「俺はセイジです。」
ジャンナさんが出してきて手を取って握手をした。
お読み頂き有難う御座います。