岐路 5
近づいてくる密偵達に幻獣騎士団の騎士達は警戒を強めるが密偵たちが取り出した手紙を確認すると警戒を緩めグレアムの所まで案内した。
グレアムの前まで案内された密偵たちはもう一度手紙をグレアムに示した。
よく見ると示した手紙は密偵たちのアジトに在った命令書のようだ。
「お初にお目にかかります。バルバー様。」
「その手紙の署名確かに我が国の軍務大臣の物、ではお前たちが潜入していた者達だな。早速目標の情報を貰おう。」
「はい、事前に手紙でも報告致しましたが目標は3人です。全員男でその内の2人は成人して直ぐ位、後の1人は20前後の年齢で3人とも黒目黒髪をしております。」
「手紙の通りだな、なら我が手の者が身柄の確保に向かう故、目標の現在位置を話せ。」
「はい、まず年若い方の一人は教会の中に居ましたが捉えていた気配が突然消えたので如何やら転移で逃れた様です。もう一人年若い方は迷宮内に居ります。最後の20前後の男は夕方ごろ教会を出たので配下の者に尾行監視をさせております。」
「迷宮に入っている者の尾行や監視は如何なっている?」
「現在尾行や監視は出来ておりません。」
「どういう事だ、まさか我らに迷宮内に突入し捜索しろと言う事ではあるまいな。」
「そうではありません。我々もガレリアスの流れを汲む者、幻獣騎士団の活動時間の短さは承知しております。言い訳になりますが目標たちは何時も昼間に迷宮に入って夕方には出てきていたので今夜に限って夜に迷宮へ入るとは思っていませんでした。その上今迷宮に入っている者は高い探知能力を持っている可能性がありまして迷宮内では尾行監視に気付かれてしまう可能性が高いと判断致しました。」
「ならばどうやって身柄を確保するつもりだ?」
「今迷宮に入っている者は教会と一定の距離を取っていました。此処の教団を排除した今なら条件次第でこちらに引き込めると考えています。迷宮の出入り口は調べた範囲では此処だけでしたので、此処を監視し出て来た所で交渉を持ちかけようと思います。」
「団長、あれをご覧ください。」
騎士の一人が示した先、迷宮への階段前で球状の歪みが発生していた。
「転移出現の前兆だな、ギルドの連中が連絡を受けて迷宮の下層から戻って来るか。密偵達、誰か一人我が騎士達を街に出ている目標の元に案内せよ、後の者は身を潜めて監視を続行し先ほどの言葉が嘘では無い事を証明して見せよ。」
「はい、バルバー様。」
グレアムはすぐさま数名の騎士を指名し千葉さんの元へ向かわせると、密偵達も大通りの物陰に散って行った。
指名を受けた王国の騎士数名が密偵の先導で大通りから脇道に姿を消した所で迷宮前の歪みの中に20人程の人影が姿を現した。
転移を終えたギルドの討伐者達は目の前にいた騎士達に武器を抜いて襲いかかりそうになるがゲオルさんが声を張り上げる。
「よせ!こいつらに手を出すな!こいつらは盗賊じゃなくて王国連合に所属する何処かの国の騎士共だ。手を出せば協定違反になるぞ!」
ゲオルさんはそのままギルドの討伐者達の先頭に立って問いかけた。
「王国連合の騎士様がこんな所で何してるんですか?」
グレアムではなく配下の騎士が答える。
「夜襲とはいえ敵対者を襲撃するのがそんなに可笑しい事か?」
「なるほどな、この盗賊騒ぎあんた達の差し金か。」
「言い掛かりは辞めて貰おうか。襲撃が重なった事は偶然だ。」
「俺達や教団が気付けなかった襲撃を盗賊たちが勘付いて便乗したって言うつもりか」
「ギルドの諸君、君たちに我々と問答している暇があるのかね?」
騎士達とギルドの討伐者達が睨み合い緊張した時間が僅かの間流れるが、ゲオルさんが先に折れた。
「みんな悔しいがこいつ等の事は無視するぞ。下で決めた通りパーティ単位で町に展開し各個に盗賊共を撃退していく。行くぞ!」
応と声を揃えてギルドの討伐者達は答えて走り始め、横を通る時騎士達を憎悪の視線で睨むが何もせず、5〜6人ずつに別れて街中に消えて行った。
討伐者達が目の前からいなくなるとグレアムも命令を発する。
「全騎騎乗したのち街中に出ている者達も回収して宿営地まで後退する。掛かれ」
敬礼で騎士達は応じ撤収作業を開始した。
地上に合わせていた視点を手元に戻し俺も行動を開始する。
最後の確認の為転移エレベーターが内部にある巨石の周りを調べるが人影は無い。
これで俺の今後の身の振り方は決まった。
此処から逃げ出し教団とは縁を切って一討伐者としてこの世界で自由に生きて行こう。
その為にもまずは計画通りに行動しよう。
視線を手元の戻し結界の魔道具を停止させ背負い袋に仕舞い、被探知を付与された装備品を迷宮に撒く為態と大回りをして五層への階段に向かった。
五層への階段に着くまでに被探知の付与された装備を撒き終えて五層に下り転移エレベーターを目指す。
転移エレベーターへの最短ルートにゴブリンが居たが構わず進み、丸腰だったが気鎧拳の一撃でゴブリンを仕留めて通り抜けた。
転移エレベーター在る隠し部屋の前まで着くと、サバイバルナイフを手に持って仕掛けを動かし壁を開いて中に入る。
守護者が現れるかとも思ったがそんな事は無く、隠し部屋を通り転移エレベーターを起動して地上に転移した。
地上への転移が終了すると暗視スキルを使って巨石内部の部屋に誰もいない事を確認し、ついで保管しておいた武具を確認する。
仕掛けて置いた糸くずがそのまま残っているから武具は動かされてはいないはずなので、この部屋には俺が立ち去ってから誰も訪れてはいないようだ。
武具の状態にも問題が無かったので身に着ける事にした。
鎧を身に着け盾を剣帯に下げ剣を佩びた所で気配探知スキルが頭上を大きな気配が通過した事を捉えた。
慌てて魔眼を使い視野を巨石の外に広げると巨石の上2〜30メートルを飛行する魔獣に騎乗した騎士達が通過している所だった。
向こうから此方を見る事は出来ないと分かっていても一騎、一騎の気配の大きさに気圧され、息を殺すように見上げているとある人の姿を捉えることが出来た。
ワイバーンに騎乗している騎士の後ろに相乗りするように乗っている千葉さんの姿だ。
千葉さんの表情に脅えを一切感じ取る事は出来なかったので自分の意思か取引をして納得した上で王国の騎士達について行ったのだろう。
頭上を通過する王国の騎士達は俺に気付く事無くあっという間に過ぎ去って行った。
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