岐路 2
目が覚めたので装備を身に着け食事を済ませて今日はギルドに向かわずヴァルデルさんの執務室に向かう。
執務室の前に居る騎士に面会を要請すると直ぐに部屋に中に通された。
ヴァルデルさんはソファーに座って居て俺にも座るよう勧めてきたのでヴァルデルさんの対面に腰を下ろした。
「こうやって会うのは大体1か月ぶり位か、上條君。それでどんな要件だろう?」
「借りていたお金を返しに来ました。」
前もって銀貨6枚だけ分けて入れておいた袋をヴァルデルさんの前に置いた。
「お金も少し貯まって来たんで受け取って下さい。」
「少し貯金が出来たという事は魔物狩りも順調と思っていいかな?」
「まだ5〜6層をうろうろしている程度ですが。」
「何一月程でそこまで行けるようになったなら十分だよ。」
「そうですか。ではこれで失礼します。」
そう言って立ち上がろうとした俺をヴァルデルさんは手で押しと止めた。
「そう言わずにもう少し近況を聞かせてくれないか?」
「これからさらに迷宮の深層に潜るために迷宮内での野営について聞きに行こうと思っているんです。近況の報告は又にして頂けませんか。」
「そういう事なら引き留める訳にはいかないか。十分注意して魔物狩りを進めて行ってくれ。」
今度は席を立っても引き留められる事は無く俺はヴァルデルさんの執務室を出た。
そのままギルドに向かい、いつもなら訓練場で朝の訓練をする所だが、聞かなければいけない事が在るのでゲオルさんかベレニスさんを探すとゲオルさんの方を見付けられたので近づいて声を掛けた。
「お早う御座います。ゲオルさん」
「おう、セイジか。久しぶりだな。どうかしたか?」
「はい、ちょっと聞きたい事があってギルドで編成した迷宮の深層への遠征隊って何時出発するんですか?」
「2日後だがお前依頼の掲示板見て無いのか?」
「掲示板・・・ですか?」
「はあ、お前が言った遠征隊の随員募集が掲示板に出てたんだよ。そこに出発の日取りを含めて大まかな条件が書いて在ったぞ。お前も名乗りを上げるかと期待してたんだけどな。」
「すみません。遠征隊の事は他で聞きました。掲示板は何時も横を素通りしてるだけで見てませんでした。」
「どんな依頼がギルドに入って来てるか把握しておくのも討伐者には必要な事だぞ、覚えとけ、聞きたい事はそれだけか?」
「まだあります。野営の心得と必需品を教えてください。」
「野営って他の街に移るつもりか?」
「そうじゃありません。今よりもっと深い階層で強い魔物を狩りたいんです。日帰りだと魔物を狩る為の十分な時間を取ると8層くらいまでしか行けないんです。」
「なるほどな、野営の事は教えてやるがお前の場合は金を貯める事を優先して奴隷を一人か二人買ってから深層を目指した方がいいぞ。」
「奴隷ですか?」
「言わなくても分かると思うが野営は複数人でやった方が負担は少ない。だから迷宮の深層にはパーティーを組んで向かうのが普通だが、お前は成長スピードの速さを妬まれて普通の奴とは固定のパーティを組めないだろう。そういう訳でお前の場合はお前を妬めないし裏切れない奴隷とパーティを組んで深層を目指す方がいい。」
「奴隷がいくら位するか知りませんがすぐには無理じゃないですか?」
「まあそうだがな、将来の為の助言って奴だ。この街でも奴隷は売ってるから、お前が希望する奴隷がいくら位するかは調べておけよ。そういえば遠征の日程と野営って何か関係が在るのか?」
「ゲオルさん達が迷宮の下層へ遠征に行くのに合わせて迷宮内で野営を試してみようと思ってます。」
「なるほどな、俺たちが魔物を掃除して通った後なら危険度も下がるって訳だ。そういう事なら野営の心得のついでにいい女を紹介してやる。」
「如何いう事ですか?」
「危険だったりデカかったりする仕事の前と後にいい女を抱くのが俺のジンクスなんだよ。それに肖らせてやる。じゃあ野営の心得からだ。」
その後ゲオルさんは野営の心得と必需品の他に行きつけの娼館の場所と贔屓にしている娼婦の人の名前を教えてくれ、お礼を言って別れるときには俺の顔に泥を塗るなよと念を押された。
確かに王国の襲撃という大事が控えているのでゲオルさんのジンクスに肖らせて貰いに襲撃前日の夜は娼館で過ごさせて貰おう。
ゲオルさんと別れた後はそのままギルドを出て教えて貰った野営の必需品や、もしコリレスを脱出できる状況になった時必要になりそうな物を買う為に街に出た。
まず野営地を守る結界を展開する魔道具を買いに魔道具屋に入り、自分のマナとプラーナを充填して使用するタイプの物を30000ヘルク程で買った。
因みに魔核石で充填するタイプの物は自身で充填するタイプの物と比べて3倍以上の値段が付いていた。
次は雑貨屋に入り多少だが魔物避けの効果の付いた折り畳み式のテントに寝袋に野外での料理道具にサバイバルナイフと大きな背負い袋を、服屋では古着の上下に下着を合わせて数着分、食料品店では携帯保存食を2週間分、全て合わせると10000ヘルク程買った。
買った物を全て新しく手に入れた背負い袋に詰めて自分の部屋に戻ってもまだ昼前だったので使ったお金の分を少しでも補填する為に迷宮でゴブリンを狩る事にした。
屋台の物で昼食を済ませ、数を狩る事を重視し一層と二層で夕方までに20匹のゴブリンを狩って獲た素材をギルドで換金した。
教会に戻り食事をして風呂に入った後はもう一度コリレス周辺の地理を確認する為ギルドの資料保管室を訪れる。
コリレスは東ヴァルノム南西部にあり、中央山脈を南部で横断する地峡帯の出口付近に位置する。
周辺には地峡帯に在る物も合わせて三つの迷宮が在り、これ等がコリレスから逃げ出した場合に逃げ込む候補地だ。
密偵が隠し持っていた作戦計画書には騎士団がどの方向からコリレスに攻め込み撤退するかは書いて無かったので三つ全ての候補地に至る道順を覚えておこう。
地理情報を記憶した後は部屋に帰って眠り、翌日も朝から夕方まで数を狩る事を重視して迷宮を駆け回って魔物を狩り40匹程仕留めたがレベルは上がらなかった。
魔物を狩って手に入れた素材をギルドで換金し、教会に戻って食事をして風呂に入った後剣帯に剣だけ佩びて俺担当の騎士に娼館に行ってくると告げると、羨ましそうな顔で分かったと言って見送ってくれた。
大通りから二つほど奥に入った娼館が立ち並ぶ通りは日が落ちて空が暗さを増すにつれて賑わいを増していくようだった。
俺のように武器だけ佩びた男たちが通りを行き交い娼館の前に立つ女達は甘い声で男達を引き留めようとする。
俺にも女の人が幾人か声を掛けてきたが断りを告げてゲオルさんの教えて貰った娼館に入った。
入って直ぐの所に帳場の様な場所がありそこでキセル煙草を燻らせていた女将の様な人が声を掛けてきた。
「成人になり経てって感じのお客様だね。どうしてうちを選んでくれたのか分からないけどうちの娘達はお客様の好みから少し外れてるかもしれないよ?」
「こんばんは、俺はセイジっていいます。迷宮ギルドのゲオルさんにこのお店のレリーさんを紹介されました。」
「なるほどゲオ坊が言ってた子かい。あたしはここの女将をやってるラウェンだよ。レリーは今夜まだ空いてるからすぐに呼んで来させるよ。」
ラウェンさんが帳場の脇に座って居た少女に視線を向けると、その少女は奥へと歩いて行った。
「すぐに来るから待って居ておくれよ。」
「じゃあ先に払いを済ませておきます。お幾らですか?」
「払いはいいよ。ゲオ坊から俺の顔で遊ばせてやってくれって、言われてるからね。」
「それでも俺に払わせてください。紹介をして貰った上に奢って貰うのは恐縮ですし、遊びの代金は自分で出さないと心底楽しめない性質なんですよ。」
「なるほどね。そういう事なら受け取ろうかね、銀貨で5枚だよ。」
俺が頷いてラウェンさんの前に銀貨を5枚積んだ所で、奥から先ほどの少女に先導されて20代半ばの綺麗なそれ以上に色香のある女性が灯りを持って出て来た。
「お客様、この子がレリーだよ。レリー、このお客様がゲオ坊の言ってた方だよ。この部屋で精一杯のおもてなしをしな、いいね」
「はい。お母さん。」
ラウェンさんから鍵を受け取ったレリーさんが視線で俺を促して歩き始めるが、レリーさんの色香に中てられた俺はすぐに反応できず慌てて追いかけるが自分で自覚できる程動きがぎこちなかった。
階段を一回上がり暫く廊下を進んだ所に在る扉をレニーさんが開けてどうぞと促してくれたので先に部屋に入る。
部屋の中はベッドにスタンドタイプのハンガーとテーブルに水差しとコップが在るだけだ。
後から部屋に入り扉を閉め鍵を掛けテーブルに灯りを置いたレリーさんが腰の物を預かると言うので剣帯ごと剣を渡してベッドに腰を掛けた。
レリーさんの廊下を歩く姿や剣を受け取ってハンガーに掛ける仕草が一々色っぽくその度に緊張を増して行くので、それを紛らわす為口を開いた。
「これを聞くと折角の雰囲気が台無しになるかもしれませんが、俺の方で避妊の為に何かすることはありますか?」
「大丈夫ですよ。私はお母さんと奴隷契約を結んでいてきちんと避妊を設定されていますから。」
「奴隷契約ってそんな事も強制出来るんですね。知りませんでした。」
「他にも避妊用の魔法薬なんて物もありますよ。こういう事を聞くと失礼かもしれませんが、これまでのご様子を見させて頂くとここの様な場所に遊びに来られるのは初めてですか?」
「はい、その通りです。」
「じゃあ最初は私が楽しませて差し上げます。慣れてきたら存分に私を楽しんでください。」
そう言ってレニーさんは灯りを吹き消し、自分の服を脱いで俺の服に手を掛けてきた。
その夜俺は性技スキルと魅了耐性スキルを取得し、それぞれが共にレベル3まで上昇した。
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