魔物と悪意 7
出口を閉め部屋の中にただ立っているタルドの姿に疑問が湧いたので魔眼で部屋の中を調べるが罠のような物は見えず代わりに入り口に付けられたロープがタルドの手元まで伸びていた。
扉を閉める仕掛けをしているという事はまた守護者殺しを狙っているのだろう。
だがタルドを逃がす訳には行かないので部屋に入る瞬間に毒ナイフの投擲を合わせてくる事を注意して部屋の中に飛び込んだ。
飛び込んだ俺にナイフが飛んでくる事は無かったが、タルドはすぐにロープを引いて扉を閉め、扉が閉まると同時に部屋の奥に剣と盾に鎧を着こんで完全武装したゴブリンが現れた。
俺はすぐにゴブリンとタルドを共に視界に収めて構えを取るが、タルドは俺に薄笑いをした表情を向けてくるだけだった。
「まぐれで不意打ちを防げたことを実力と勘違いして追いかけて来てくれて、ありがとよ、ガキ、御蔭で簡単にここに引き込めた。そいつは十層より浅い階層じゃあ最強の守護者だ。その上魔物は弱い奴から狙う習性があってな、お前に掛かって行くだろうがちゃんとお前が死ぬ前に俺のナイフで止めをさ・・・」
「避けろ!」
「はあ?何言って、がはっ・は・なっ何でこっちに・・・・」
俺より自分が強いと信じて疑っていなかったのだろうゴブリンに注意を払わず饒舌に喋っていたタルドが、完全武装のゴブリンに腹を刺され床に倒れて動かなくなる。
次はお前だと言わんばかりに此方を向く完全武装のゴブリンの能力を遠視眼から鑑定眼に魔眼を入れ替えて調べる。
ゴブリンナイト Lv11
筋力 55
耐力 61
知性 11
精神 11
敏捷 22
感性 33
アビリティ
堅体
スキル
3個
ゴブリンナイトはゴブリンファイターを一回り強化したような能力値を持つ同系統の魔物の様だ。
そうなるとゴブリンファイターとの戦いの様に互角の戦いになり時間が長引く可能性が高い。
タルドを出来れば生かして証人にしたいので急ぐ必要があるがアビリティ限界突破は人前では使いたくないので他のスキルやアーツを総動員する事にしよう。
突っ込んでくるゴブリンナイトに牽制として魔術アーツファイアーアローを放つ。
鎧の継ぎ目を狙ったが着弾点に盾を構えられたので別の継ぎ目を狙おうと、やった事は無かったがファイアーアローの操作を試みる。
ファイアーアローは俺の操作通り軌道を変えるがゴブリンナイトも盾を巧みに操りファイアーアローを受け切った。
防がれてしまったが今のファイアーアローの手応えから俺は新しい戦い方を閃く。
新しい閃きを試したいという高揚感が湧いてくるが、抑えてまずはゴブリンナイトを迎え撃つ。
盾をかざした突撃をこちらも盾を使って受け止め、継いで流れる様に放たれてくる剣をこちらも剣で弾く。
二撃目、三撃目と打ち合った所でお互いに距離を取ったので、発動待機していたファイアーアローを放つ。
ゴブリンナイトはファイアーアローをかわすがこれは半分わざとだ。
そのまま距離を詰め仕掛けてくるゴブリンナイトの攻撃を受け流しながら外したファイアーアローを制御する。
まずは距離を詰めて戦う俺とゴブリンナイトの周りを周回させてみると、ファイアーアローを加速させることも出来た。
ファイアーアローが十分増速した所でゴブリンナイトが鍔迫り合いを挑んできたので、身体強化法術を使って受けて立ち、動きを抑え込んだゴブリンナイトの背中に増速したファイアーアローを撃ち込んだ。
鎧の継ぎ目は狙えなかったがファイアーアローはゴブリンナイトを貫通し先端が腹から少し飛び出ていた。
重いダメージにゴブリンナイトは俺から距離を置いたがまだ殺気を漲らせている。
俺は止めを刺すため三連続で魔術アーツファイアボールをゴブリンナイトに放った。
一発目、二発目を避け三発目を盾で受け止めたゴブリンナイトが突っ込んで来ようとするが、避けた一発目と二発目が左右逆回転に周回し増速を始めるのを見て動きが止まった。
俺はその隙を逃さずこちらから足を斬りつけゴブリンナイトの動きを奪って一旦下がり増速したファイアボールを撃ち込んだ。
ファイアボールは二発とも命中し爆炎が晴れた後には俺が使うには大きすぎる上半身が隠れる程の盾と魔核石だけが残り、俺は力が湧いてくる感覚を覚えた。
ゴブリンナイトが落とした物をそのままにしてタルドの生死を確認に向かう。
無いとは思うが不意打ちされないよう背中側から回り込んで首の脈を確認する。
首で脈を感じられず念のため手首の脈を測ろうとした時、迷宮の床から黒い霧が発生しタルドの死体を包み込もうとする。
俺は慌ててタルドの死体から離れ、2〜3m距離を取った時にはタルドの死体は黒い霧に飲み込まれていた。
五分ほどして黒い霧は晴れたが服や装備品を残してタルドの死体は何処にも無かった。
何が起こったか分からないが事前に決めた案の通りギルドに話せることを話し、話を裏付ける証拠を渡して後は任せて仕舞おう。
余り触りたくなかったがタルドの遺留品の中から赤く変色したカードを探し出し、ゴブリンナイトが落とした盾と魔核石も持ち後はそのままにしてこの場を後にした。
五層から迷宮を出るまで各層の階段を結ぶ最短ルートを歩いたので魔物に出会わず迷宮を出ることが出来た。
迷宮を出た後も真っ直ぐギルドに向かったが多少でも面識のある人に話をしたかったので見知った人がいなかった受付は通りすぎ訓練場まで向かった。
運よく訓練場にはゲオルさんが居てくれ近づいて話しかけた。
「ゲオルさんちょっといいですか?」
「おお、セイジか、どうした?」
「これの事でちょっと話を聞いて欲しいんです。」
俺が貴重品袋から赤いカードを取り出して見せると、ゲオルさんの柔らかな表情が一気に戦士の表情に変わる。
「どうしてお前がそんなもん持ってる?手に入れた事情を全部話せ。」
頷いた俺は尾行に気付いていた事は話さず、ナイフを投げられてからの事を順に話していった。
ナイフを上手く弾き犯人を追いかけた事、犯人に守護者が発生する部屋まで釣り出され守護者と三つ巴になった事、犯人は守護者に殺されその守護者を俺が倒した事、犯人の遺体が黒い霧に飲まれて消えた事まで話して俺から質問した。
「遺体を消したあの黒い霧って何なんですか?」
「あれは封印迷宮に特有の現象でな、封印されている魔物が遺体を食ってるって言われてるが正確な所は分かってねえんだ。じゃ次は俺から質問するぜ」
「はい、どうぞ」
「このカードを持ってた奴がお前を狙う理由になんか心当たりはあるか?」
「俺に思い当たるのは最初に守護者殺しに会った時に閉じ込められた部屋の前ですれ違った男と今日襲ってきた男が同じ人物だって事位ですね。」
「それ間違いねえか?」
「はい、最初の時はすぐ近くをすれ違いましたし、今日は守護者と三つ巴になった時真正面から向き合いましたから。」
「なら決まりだな、このカードの持ち主が守護者殺しだって証明する生き証人のお前を自分の手で始末しようとしたって所だろうな。セイジ、このカードは貰っていくぞ、いいな?」
「いいですけど、何に使うか聞いてもいいですか?」
「ああ、守護者殺しってのはな徒党を組んでやるんだが、場所を変え易い様に一味でパーティ登録をしてる事が多いんだ。だからこのカードからパーティーメンバーを突き止め守護者殺し共を纏めて捕まえるんだよ。じゃあ俺はもう行くぜ。」
足早に去っていくゲオルさんを見送ってから俺も訓練場を出た。
持ち歩くのが邪魔になってきたのでサイズ的に使わない守護者が落とした盾は換金することにし、ギルドを出て以前剣を買い取って貰った武器屋に向かう。
盾を金貨1枚で買い取って貰いお礼を言って武器屋を出た。
不意に守護者殺し達が如何しているか気になり根城にしていた部屋を魔眼で見てみると丁度ゲオルさんたちが突入する所だった。
全員捕まったようなので守護者殺し達の事はもう気にする必要は無いだろう。
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