魔物と悪意 6
まだ昼前の時間だが迷宮を上へと昇って行く。
迷宮を出た後の予定はまず魔法薬店に行き毒の予防薬や解毒薬を買って昼食にする。
そのあとギルドで解毒の法術を探してあるようなら今日中に身に着けてしまってから部屋に帰って休む。
これらの用事を済ませる中で俺が気付いている事を悟れないように尾行してくるだろう男を鑑定する事もしておこう。
迷宮から出て地上への階段を上がり切り、緊張しながら監視をされているだろう迷宮からギルドまでの道を歩き始める。
気付いているのを悟られていないか、視線だけ動かし魔眼を使って男の姿を確認すると変わらぬ姿勢でこちらを監視していた。
魔法薬店に向かうためギルドの前を通り過ぎ男が潜んでいる場所に近づく。
歩きながら気配探知スキルだけで男が隠れている場所を探ってみと、輪郭まではっきり男の気配を捉える事が出来た。
今男が持てるすべてのスキルを使い隠れているかは分からないが、この程度なら楽に不意打ちを防げそうなので少しほっとした。
監視をしていた男に尾行されながら魔法薬店の前まで歩いて気付いてしまった。
魔法薬店に入る所を見られると毒の予防薬や解毒薬を手に入れる為だと思われ、襲撃に気づいていると悟られてしまうのではないかと。
だが監視を撒いても悟られるだろうし薬を手に入れる事は必須の事なので、守護者との戦いで怪我をして薬を買いに来たとでも思ってくれることを願ってそのまま魔法薬店に入った。
魔法薬店の店主に迷宮のゴブリンが使ってくる毒の予防薬と解毒薬があるか尋ねると、解毒薬だけを3000ヘルクだと言って出してくれた。
予防薬の事を改めて聞くとそんな物は無いらしいが、毒自体の即効性が低く五分以内に解毒薬を飲めば体に異常なく解毒してしまえると教えてくれた。
3000ヘルクを店主に払いお礼を言って魔法薬店を出る。
監視してくる男が魔法薬店に入るか視線を向けないよう気配に注意していたがどうやら俺を尾行してくるようだ。
俺が次の目的の為にギルドまで歩いて行くと、監視してくる男は最初の監視位置に身を潜めた。
ギルドに入り実際に目で男の位置を確認しようと壁越しに万物の透視眼で男の方を見ると、ギルドの出入り口を注視しているようだ。
今なら監視してくる男を窓から覗き見てもばれそうに無いので、出入り口から一番離れた窓から拡縮の遠視眼と万象の鑑定眼を使い監視してくる男を鑑定した。
タルド Lv8
クラス 斥候
筋力 16
耐力 24
知性 8
精神 8
敏捷 32
感性 24
アビリティ
無し
スキル
3個
タルドの能力値は一番高い俊敏でさえ俺の三分の一くらいで、持っているスキルも短剣、投擲、気配探知でいずれもスキルレベルは1だ。
この能力なら不意打ちと毒にきちんと注意しておけば戦いになっても十分勝てる。
守護者殺し達への対策は襲って来るタルドを返り討ちにして捕まえギルドに突き出し、後はギルドに一網打尽にして貰う案を取っても大した危険は無いだろう。
怪しまれない内に窓から離れ、買っておいた昼食を酒場で食べてから資料保管室に向かった。
目当てのアーツブックは法術関係のアーツブックを纏めてある一角ですぐに見つかり、まず治癒法術スキルのアーツブックから読み始めた。
一時間以上掛かってアーツブックを読み終えて、確認の為に魔眼の組み合わせを変えてタルドを探すと最初の監視位置に身を潜めたままだった。
治癒法術のラーニングアーツをスキルに上書きした後は、法術アーツ解毒と外傷快復を覚えた所で夕方になったので一旦教会に戻った。
教会で食事をして風呂に入ってからまたギルドに戻る。
法術アーツ疲労快復と身体強化法術スキルのアーツブックを読み終えた所で教会にある自分の部屋に戻った。
ギルドと教会の間の行き来の時にタルドからの視線を感じたが無視して歩いた。
また俺の部屋を割り出そうとするかもしれないとタルドからの死角に入った後はタルドの様子に注意していたが教会の敷地に入って来る事は無かった。
俺の部屋の位置は知られてはいないようなので身体強化法術のラーニングアーツをスキルに上書きしてこの日は眠った。
治癒法術アーツを取得しました
治癒法術アーツは治癒法術スキルに上書きされます
法術アーツ解毒を取得しました
法術アーツ外傷快復を取得しました
法術アーツ疲労快復を取得しました
法術アーツ解毒、法術アーツ外傷快復、法術アーツ疲労回復は治癒法術スキルに格納されます
身体強化法術アーツを取得しました
身体強化法術アーツは治癒法術スキルに上書きされます
生命法術スキルを取得しました
治癒法術スキル、身体強化法術スキルは生命法術スキルに格納されます
朝、目が覚めるとまずタルドの位置を確認することにした。
部屋の中から魔眼を使って昨日隠れてギルドを監視していた場所を探すが見つからず、守護者殺し達の部屋にもタルドの姿は無かった。
ならばもう迷宮で待ち構えていると考えるのが妥当だろう。
それからは何時もの様に食事をしてギルドで朝の訓練を済ませて、貴重品袋に解毒薬が入っているのを確認し迷宮に向かった。
迷宮への階段を下りる所から盾を装備し、気配探知スキルを最大にして出入り口の門を潜った。
探していた気配は意外と速く探知に掛かり、二層への階段に向かう最短ルートを隠れて監視できる位置に見付けた。
魔眼で姿も確認し襲って来るかと近くを通る時は緊張したが、タルドは俺を見送り後ろから尾行してくるだけだった。
二階層に下り三階層を過ぎて四層まで来てもタルドは後ろから尾行してくるだけで、四層で守護者殺しにあった場所を過ぎ五層への階段に着いても何も仕掛けて来なかった。
階段を下り五層に来てもタルドは距離を置いて監視をしてくるだけなので、さすがに気味が悪くなって来る。
罠が仕掛けてあるかもしれないと今になって気付いたので、地図を確認する振りをしながら拡縮の遠視眼と万物の透視眼を使い五層を見渡してみた。
地図に表記のない一角を見つけて驚いたが他には何も見つけられず、六層への最短ルートを先行の討伐者たちが歩いているだけだった。
先行の討伐者たちに異変は無い様に見えるので最短ルートに罠は無さそうだ。 俺も地図を仕舞い六層への最短ルートを歩き始めた。
地図に表記のない一角が気になったので六層への最短ルートとは違う角を曲がった所でタルドの気配が此方に近づいてくる。
仕掛けてくると気を引き締め六層への最短ルートから見えなく手前まで俺が歩いて来た時、タルドが何か振りかぶる気配がし危機感知スキルも反応したので振り返った。
振りかぶったナイフを投げる前に俺に気づかれたタルドは一瞬驚きの表情をしたがそのままナイフを投げてくる。
飛んでくるナイフはそこそこの速度だったが俺は十分余裕をもって盾で弾いた。
タルドは二本目、三本目と続けてナイフを投げて来るが俺が盾を使い余裕を持って防ぐと舌打ちをして六層の方に逃げていった。
逃がす訳には行かないので気配探知も使って追いかけて行く。
能力値の差もあり俺とタルドの距離はすぐに詰まって来るがタルドがまたナイフを投げてくる。
毒が使われている可能性もあり足を止め余裕を持って盾で弾いたので距離を離されてしまうが、タルドの気配は気配探知スキルで追えていたので追跡を再開した。
毒ナイフの投擲を警戒しながら追跡を続けているとタルドの気配が急に動かなくなる。
魔眼で姿を確認すると六層への最短ルート上にある部屋に出口を閉めて立っていた。
お読み頂き有難う御座います。