召喚された夜 2
二つの月が重なる様にして浮かぶ空を見ながら護衛兼見張り役の騎士について歩いていると一つの扉の前で立ち止まった。
用があるときは声を掛けてくれと言われ、明りの付いた蝋燭を渡され入った部屋は、すりガラスの窓とベッドが一つずつ、後は小さな物入れが在るだけの一人部屋だった。
まだ眠くはなかったので、物入れの上に明りを置き、ベッドに腰掛けて今の状況の整理とこれからの事を考える事にした。
まず元の世界へ帰る事を目指すか、此処で生きていくかを考えよう。
教団の人達は召喚したと言っていたがネット小説的に言うと異世界への召喚転移ではなく死亡転生に近いものだと思う。
何故なら此処で目覚める前に居たはずの入院先の病室で最後に記憶しているあれ程苦しかった病気の症状がきれいさっぱり無くなっているからだ。
新しい体に入れ替わったみたいに。
だから千葉さんには悪いが元の世界には帰れないだろうと思う。
それに俺の場合はもし帰れてもまた病気に苦しめられる事になるし、家族にも迷惑を掛け続けるだろうから、この世界で元気に生きていく方がずっとましだと思う。
次は教団にどこまで協力するかだ。
話通りなら力をつけて魔物退治や人相手に戦争をやれという事だろう。
訓練や魔物の戦う事は構わないと思うが戦争は勘弁してほしい。
できれば魔物相手専門のような部署に行ければいいが情報が少なすぎるか、教団内だけでなく外の組織や個人からも情報が得られたらいいんだが。
そういえばネット小説の異世界物では初心者の訓練を行う冒険者ギルドのような互助組織が良く出てくる。
もしそのような組織がこの世界にも在るなら是非接触したい。
病気でここ数年まともに運動出来なかったので基礎的な訓練から始めたい、目立つことを避けるためにも日常的に初心者を訓練している所を紹介してほしいという事にすれば、嘘を付かずに接触する理由になる。
成功率は未知数だがダメもとでやってみて損はないだろう。
明日朝一番にヴァルデルさんに話をしてみよう。
最後に自分の状態を確認しておきたい。
ネット小説の異世界物によく在るステイタス表示みたいな物が在るかと思ったが、いろいろ念じたりそれを言葉にしたりしても何も起こらない。
やり方が間違っているのか、そもそもそんな物は無いのか判断のしようが無いのでこれも聞いてみる事にしよう。
BPの方はどうなのだろうと、使用すると念じると頭の中に声が響き情報が溢れてきた。
BPの使用対象は以下になりなす。
各能力値の上昇補正
各種スキルの取得およびレベルアップ
アビリティ万色の魔眼内に各種魔眼を発現
アビリティ限界突破による各種限界の拡張
スキルと魔眼についての情報量の多さに面食らったが順番に理解して行こう。
最初の各能力値とは、筋力、耐力、知性、精神、敏捷、感性の六つのようだ。
筋力と耐力は恐らく言葉の意味そのもの、知性と精神は召喚が在るのだから恐らく魔法があってそれに関係している筈で、敏捷はいろんな速さ、感性は五感鋭さでもしかしたら六感も含んでいるかもしれない。
これらの能力値を1上昇させるのに2BP消費するみたいだ。
スキルは簡単で取得可能一覧が浮かんできてスキルごとに対応したBP消費すること取得できるというものだ。
じっくり一覧を精査していくと武器スキルや魔術スキル、身体五感強化系スキルは揃っているが斥候系スキルが驚くほど少ない。
解放されたクラスに斥候系が無かった事と合わせると、所有クラスに対応したスキルが取得可能になるのだろう。
スキルのレベルアップは今の時点ではわからない。
万色の魔眼は一覧の中から任意の物を5BP消費で新しく一つを使えるようになるようで限界突破はクラス設定枠一つと各基礎成長値の上限を5共に5BP消費で拡張することが出来るようだ。
基礎成長値がどういう物かはっきりしないがクラス設定枠の拡張はかなり有用そうだと思う。
かなりの事がBPで可能でどれに使うべきか、それとも今は温存しておくべきか悩んでいると、取得可能魔眼の一覧に万象の鑑定眼5BPというものを見つけた。
今はどんな形であれ少しでも情報がほしい。
他にも読心や透視のような魔眼もあったがこれが一番多くの情報を集められそうなので、まずこの魔眼を取得してみようと思う。
万象の鑑定眼にBPを使うと念じると、何かが抜けていく感じがすると別の何かが体に満ちてきた。
もう万象の鑑定眼が使えか試しに自分を鑑定してみる。
上條 征司 Lv1
クラス 戦士Lv1
筋力 8
耐力 7
知性 7
精神 6
敏捷 7
感覚 8
アビリティ
超越者の器
万色の魔眼
限界突破
スキル
なし
手に重なる様に文字や数字の情報が見えるので成功したようだ。
他にもライフ、プラーナ、マナという物が棒状のパラメータで表されている。
これらは常に変動しているようで固定の数字化が出来ないようだ。
個別の項目ごとにさらに詳しい情報が引き出せるようで、先の疑問にも答えが出た。
知性は魔術などの威力や成功率に精神は魔術などからの防御力や抵抗率に関係し、基礎成長値とは1Lvごとの能力上昇値だったようだ。
三つあるアビリティも詳しい内容を確認するとかなり強力な物の様だ。
生き残って行く為の好材料だが使い潰される原因にもなりかねない。
出来るだけ秘匿していくようにして行こう。
今の時点での方針や自身の状態確認はこんなものか。
これ以上は明日ヴァルデルさんと話し合いをしてみてその結果次第だろう。
ならば体力を温存する為にもさっさと寝てしまおう。
蝋燭を吹き消してベッドで横になると睡魔はすぐにやってきた。
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