魔物と悪意 5
倒したゴブリン達の死体が形を失い空気に解けるように消えていく。
杖を持ったゴブリンは指輪と魔核石を2体のゴブリンファイターは牙と魔核石を残した。そして死体が消えると同時にこれまでで一番大きく力が湧いてくる感じがした。
レベルが上がったのだろうが今は鑑定出来まいのでまずはゴブリン達が落とした物を回収した。
魔核石や牙はいつものと同じようだが指輪の価値などよく分からない上、万象の鑑定眼を今は使えないので取敢えず貴重品袋に仕舞った。
装備が痛んでないか確かめながらこれからの事を確認する。
万物の透視眼で見ると扉のすぐ外に俺を閉じ込めた奴らは集まって中の様子を窺っている。
万一外に居る奴らが襲ってきたら囲みを強引にでも破って逃げよう。
後はギルドに駆け込んでカードに出るだろう襲われた証を証拠に奴らの始末はギルドに任せて仕舞おう。
想定通り奴らが逃げるなら万物の透視眼も使って気づかれないよう後を追う予定だったが、レベルが上がったようなのでので使える追跡手段が増えているかもしれない。
俺のアビリティ万色の魔眼はレベルが10上がるごとに並列発動数が増えると鑑定出来ていたので確認してみると確かに並列発動数が増えていた。
そして魔眼のリストの中にレベル×1キロmの目視可能範囲を任意に拡大縮小してみる事が出来る拡縮の遠視眼という名の魔眼が在り、万物の透視眼と併せればレベル×1キロmの範囲の好きな所を好きな大きさで見る事が出来るのではと考えていたので試してみる事にした。
実際にBPを消費して拡縮の遠視眼を身に付け、万物の透視眼と併せてみるとここからギルドの訓練場に居るゲオルさんが見える。
だが近くの物が見えなくなり視点を戻すのにも一瞬間が出来たので、この組み合わせを使う時はその点を十分注意しないといけないだろう。
装備の確認を終え剣と盾を構える。
もう一度二種類の魔眼が同時に使えている事を確かめて出口に向かって歩き始めた。
いきなり襲って来ることを警戒して慎重に近づいて行ったが、扉に近づくと一目散に全員逃げ出して行った。
連動するように反対の扉に張り付いていた連中も逃げ始め、その姿を並列使用している魔眼で追えるのを確認して剣と盾を剣帯に戻し大きく一回息を吐いた。
迷宮の廊下を走って逃げる奴らの姿を見て、今の自分が他人からどう見られるか気になって来る。
恐らく虚空に視線を漂わせて突っ立っている怪しい男という事になるのではないだろうか。
さすがにそれは不味いので逃げる奴らを見失わず転ばないようにも気を付けて移動し、扉から少し離れた壁に背を預けて座り込んだ。
これなら近くを討伐者が通っても休んでいるだけだと思ってくれるだろう。
人目につく可能性がある場所でこの魔眼の組み合わせを使う時は、誤魔化せる姿勢を取ることを覚えておこう。
走って逃げていた奴等の一組が三層への階段で足を止めた。
どうやらそこが逃げる事になった場合の集合場所の様で、もう一組とそこで合流し階段を上がって行く。
そこからは足早だが決して走ることなく歩いて迷宮の外へと向かって行く。
迷宮を出ても一定のペースで歩き続け、大通りから少し路地に入ったところにある宿屋のような建物の一室に入っていく。
三層への階段で集合してから奴らは終始誰も口を開くことは無かったが、入った部屋の扉を閉めた途端一人が大声で怒鳴っている様だ。
言っている事を少しでも理解できないかと口の動きに集中すると、
読唇スキルを取得した
情報収集術スキルを取得した
速読スキル、読唇スキルは情報収集術スキルに格納されます
取得出来たスキルが奴らの話を理解させてくれる。
「・・・ざけんなよ!二回目だぞ!しかも二回とも同じガキを獲物に選んでの失敗だ。お前の獲物を選ぶ判断基準はどうなってるんだよ!」
「俺にばかり責任があるように言うが、最終的には全員で獲物は決めたんじゃねえか!」
「うるせえ!元々おめえが自信があるって獲物の選別役を買って出たんだろうが、その上身元がばれる危険が増えるからって分け前の上乗せまで要求したろうが。おいこいつにあれを渡せ。」
喋っていた奴に視線を向けられた男が、一層で顔を見た獲物の選別役と言われた男に小瓶を投げ渡す。
「その中にはここの迷宮のレンジャー系のゴブリンが落とす毒が入ってる。そいつも使ってあのガキを始末して来い。それで守護者殺しと俺たちを繋ぐ決定的な証拠は無くなり、後はどうとでも言い逃れ出来る。カードに記録が残る距離位おめえも知ってるよな、その範囲外から投げ物にその毒も使って殺して来い。ただし面が割れてるお前ひとりでだ。」
「俺を切る積もりか?」
「獲物の選別をしくじったおめえへの罰だ。三日待ってやる、期日までにちゃんとガキを始末してガキのカードを持ってきたらしくじりは無かった事にしてやる。」
一層で顔を見た男は仲間を見回すが誰もかばう奴はいないようだ。
「分かった、ガキは始末してくる。だが始末した後この部屋に誰もいなかったら分かってるんだろうな?」
「ふん。そんなことを言ってる暇があったら、さっさとやることをやってこい。」
喋っている奴に顎で促され、悔しそうな表情を浮かべた一層で顔を見た男は乱暴に扉を開け閉めし部屋を出て行った。
部屋を出た一層で顔を見た男の姿を追っていくと、迷宮の出入り口からギルドの建物までを見渡せる位置に身を潜めると動かなくなった。
どうやら俺は毒の付いたナイフやダートもしかしたら弓なんかで狙われることが確定したようだ。
しかもカードの話が出てきていたので場所は迷宮の中なんだろう。
色々考えなければいけない事があるが後回しにすると忘れそうなので守護者が落とした指輪を鑑定する。
万物の透視眼を万象の鑑定眼に切り替えて鑑定すると
ミスリルの指輪 Lv0
付与 魔法発動
付与 多重発動
どうやらこの指輪は希少な金属で出来ていて、魔術と法術を両方発動出来るうえに複数の術を同時に発動することも出来るようだ。
価値も10万ヘルク以上と見えるがこれは売らずに自分で使おう。
ベレニスさんは発動体を複数同時に使っても効果はきちんと重複すると言っていたので問題は無いだろう。
左手の小手を外して人差し指に指輪をはめると丁度良いサイズだった。
小手を戻しながらこれからの事を考えると現時点で俺には二つの選択肢がある。
一つは今守護者から手に入れた指輪を守護者殺しがあった証拠にして、一層で守護者殺しに会う前に顔を見た事を理由に一層で合った男をギルドに捕まえて貰い、芋づる式に一味を一網打尽にして貰う案。
もう一方は襲って来るだろう男を俺が返り討ちにして捕まえてギルドに突き出し、前と同じく一網打尽にして貰う案の二つだ。
前者は俺の危険は少ないが証拠が少し弱い、後者は俺にかなりの危険があるかもしれないが決定的な証拠が手に入る。
どちらも一長一短な上に判断材料が乏しくてすぐには決められそうにない。
襲って来るのが誰で何処に居るのかまで分かっているのだから、相手の能力を鑑定してどちらの案を取るか決めよう。
それに毒を使ってくるようだから毒への対策を準備しておこう。
もしギルドに全て任せる事になっても迷宮に毒を使ってくる奴がいるようなので毒への対策は無駄にならないだろう。
すぐ思いつく毒対策は予防薬に解毒薬それにあるか確認していないが解毒の法術といった所だろう。
これらの準備をしながら気づかれないように俺を監視してくるだろう男を鑑定したい。
アーツブックを何冊か読むことにもなるだろうから今日はこれで迷宮を出る事にした。
お読み頂き有難う御座います。