魔術と法術 1
武器屋に拾った剣を売って7000ヘルクを手に入れたことで手持ちのお金の総額は17000ヘルク余りになった。
魔術や法術の指導をして貰う為カードに5000ヘルク預金しても生活に支障はないだろうし、盗難の危険も考え合わせると10000ヘルク預金しておこう。
そう考えたところで、今金袋を盗まれるとカードも一緒に盗まれる事に気づき貴重品を入れる袋を買いに大通りで見つけた雑貨屋に入った。
ちょうどいい袋を探すうち思い出した事が在り貴重品袋と背負い袋を2000ヘルクで買い求めて店を出た。
そこからは真っ直ぐギルドに向かい、中に入ってまず荷物の整理をした。
金袋はお金だけを入れる事にし、貴重品袋にはカードとポーションを、地図は背負い袋に移した。
アレイネさんが受付に出ていてくれたのでカードに10000ヘルクの預金を頼む。
この件でも驚かれたが昨日の剣を売却したことを話すとある程度は納得して処理をしてくれた。
まだ少し微妙な表情のアレイネさんにお礼を言って、次は資料保管室に向かった。
借りていた袋を返すためだ。
部屋に居たスタグスさんは返す必要はないと言ってくれたが、きちんとした背負い袋を手に入れたことを見せると借りていた袋を受け取ってくれた。
スタグスさんに袋を貸してくれた事を感謝して資料保管室を出る。
一階に下り訓練場に出てゲオルさんを探すと、ゲオルさんはローブを着て銀の腕章をした女性と壁際に立っていて、近づくと向こうから声を掛けてくれた。
「やっぱり来たなセイジ。昨日の剣を処分して俺が出した次の訓練への条件をクリアしたんだな?」
「はい、カード確認しますか?」
「いや、面倒なことはいい。じゃあ約束通り紹介するぜ。こいつはベレニスこのギルドに所属している討伐者で迷宮に潜る時にはパーティを組んでる魔術師だ。」
「セイジです、よろしくお願いします。」
挨拶した俺をベレニスさんは上から下に観察してくるので俺の方も鑑定をしてみた。
ベレニス Lv30
クラス 魔術師 Lv30
筋力60
耐力60
知性150
精神90
敏捷60
感性90
アビリティ
循環回復
スキル
9個
どうやらベレニスさんはゲオルさんと同等のレベルの討伐者のようだ。
俺の評価が済んだようでベレニスさんはゲオルさんを見上げる。
「ゲオル、この子が今あなたが気にかけている子?」
「おお、そうだ。」
「あたしにはただの駆け出しの戦士の子にしか見えないんだけど。」
「まあそう見えるかもな、けどこいつは新人訓練を受け始めて1週間足らずで、一層の守護者を守護者殺しをやる連中にソロで嵌められた状況で倒してる。」
「うそ、それ本当の事?」
「おお、状況を聞いただけで実際に倒した所を見たわけじゃねえが、ゴブリンファイターが落とす剣を持ってた。さすがに十一層以下に下りてるってことはねえだろうし、居ねえと思って守護者殺しの事は教えて無かったしな。」
「本当の事みたいね。」
ベレニスさんは俺を驚きの表情で一瞥し、またゲオルさんを見上げる。
「戦士としてこの子が有望なのは分かったわ。でも魔術や法術についての適正はまた別の事よ?」
「その通りだがよ、他言無用にしてほしいんだがセイジはな戦士の他に闘士、魔術師、法術師のクラスも解放されてるらしいんだよ。」
「ゲオル、今度こそ冗談言ってるの?」
「まあそう思うのも無理ねえんだが、セイジ間違いねえんだよな?」
頷く俺を見てベレニスさんはまた驚いてゲオルさんを見上げる。
「もしかしてこの子にも魔法戦士を目指してほしいの?」
「おう、こいつの魔術や法術を使ってみたいって希望とも一致するしな。今日一緒に話をするつもりだったんだよ。」
「そう、ならついでにあたしがその話もしてあげる。後の事は任されるわ、ゲオルはもう行ってもいいわよ。」
そう言われゲオルさんは俺に励ましを言って去っていき、ベレニスさんは俺に正対してくれた。
「改めて自己紹介するわ、あたしはベレニス此処コリレスギルド所属の魔術師よ。普段は迷宮でゴブリンを狩っているんだけど、魔術や初歩の法術なんかも教えているわ。さっきは挨拶を無視したりじろじろ観察したり御免なさいね。改めてよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「じゃあ早速話を始めるけど、魔術や法術の話は後にして今ゲオルとの話に出てた魔法戦士の話を先にするけどいい?」
俺は頷いた。
「魔法戦士は前衛の戦闘クラスと魔術、法術系のクラスを双方一定以上鍛えると解放されるクラスよ。特色は重ねて発動すると干渉してお互い減衰するプラーナ系とマナ系の技や術を減衰なしに重ねて使える所よ。例を挙げると武技アーツに魔術や法術アーツを上乗せして放つ魔法武技アーツの威力は他のクラスが放つ同じものより頭一つ抜け出しているわ。そしてギルドではこのクラスに適正があるなら、なるべくこのクラスになることを勧めているわ。」
「何か理由があるんですか?」
「ええ、魔法武技でないとまともにダメージを与えられない魔物がいるのよ。特殊な障壁を持っているのとか魔法金属の装甲があるのとか。だから魔法戦士は一人でも多く欲しいの、どうお願い出来ない?」
所有するクラスが増えるのは俺にとって損は無い。
だから断る理由は無いんだが魔法戦士の様な上位の職がまだ在るのかもしれない。そこは訪ねてみよう。
「参考までに聞きたいんですが、魔法戦士みたいな上位の職って他にもあるんですか?」
「セイジ君の場合、戦士と闘士を鍛えて武術使い、魔術師と法術師を鍛えて魔法使いになれると思うけど、こちらとしては魔法戦士になることをお願いしたいわね。」
「本当に参考として聞きたかっただけなんで構いませんよ。魔法戦士を目指すのは良いんですけど具体的にどの位双方のクラスを鍛えればいいんですか?」
「ソロで十五層を突破できる位なんだけど、それ以上の細かい所はこの支部に人物鑑定のスキルを持つ人が居ないから明示するのは無理ね。」
「その人物鑑定のスキルについて詳しく聞いてもいいですか?」
「ええいいわよ、人物鑑定のスキルは対象の人物のレベル、能力値、所持スキル、持っているならアビリティの性能なんかまで調べることが出来て、その上所属や略歴まで調べる事が出来るの。」
「すごいスキルですね。」
「そうなんだけど、先天的にしか発現しないみたいで対応するアーツブックも見つかったという話を聞いたことが無いわ。その上国に一人くらいの発現率しかないらしくて見つかってもすぐに権力者に囲われてしまうって聞いてるわ。」
鑑定能力持ちが少ないのはアビリティを隠した俺には朗報だ。
明確な所在が分かればより避け易くなる。ばれているちょうどいい理由もあるし所在も訪ねてみよう。
「なるほど、ちなみにベレニスさんはそういう人が何処にいるか知っていますか?出来れば俺の成長が早いって言われる正確な理由が知りたいんです。」
「確かに素人が1週間足らずで一層の守護者を倒すまで成長したならその理由が知りたいのは当然ね。でも御免なさい。私が分かるのは各国の王家や大貴族いるような都、各教団やギルドの本部になら一人は居る筈ってことぐらいね。基本的に会えないし、鑑定してもらえる事になっても大金が要るはずよ。だからすぐには無理だと思うわよ。」
「そうなんですね、とりあえず調べる方法があるって事だけ覚えておきます。大金なんて用意出来ないし、この国の都や教団、ギルドの本部が何処にあるかも知りませんから。」
俺のその言葉を聞いてベレニスさんは表情を険しくし顔を近づけ小声で話しかけてきた。
「セイジ君、君はこの街を含めてこの国が今どういう状況か知らないの?」
「はい、この街に出てきてからは訓練と魔物討伐ばかりでしたし、俺が生まれた村は外との接触が殆どありませんでしたから。」
「そう、ならスタグスさんにでも教えて貰いなさい。ただし他人がいない時にね。それと覚えておきなさい拠点にする街の政治状況を知っておくのも討伐者としては必須の事よ。」
俺が頷くとベレニスさんも顔を離し表情を戻してくれた。
「取り敢えずこの話はここまでにして、魔術や法術の講義に移るわね。まずはこれを受け取って。」
ベレニスさんからブレスレットのような物を手渡された。
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