魔物と悪意 3
討伐者のような奴らに強力なゴブリンとの戦闘を強制させられたが、何とか倒せてレベルが2も上がり、剣も手に入ったのだから結果としては悪くは無かった。
だが俺の様なチートのない新人が嵌められたら魔物に殺され、嵌めた奴らに文字通り全てを奪われる。
そして嵌めた奴らは戦いで弱った魔物を楽に倒してそこからも獲物を得る。
そういう仕掛けだったんじゃないかと思う。
悪質な行為だと思うが罪になるかは分からない、手に入れた剣を証拠にギルドにこの事を質問してみよう。
拾った剣はどんな物なのか知っておいた方がいいと思い比較対象に俺の剣といっしょに鑑定した。
鉄の剣 Lv1
鉄の剣 Lv4
付与 被探知
二本とも基本はほとんど同じものでレベルが高い分俺の剣の方が性能は良かった。
俺のアビリティ超越者の器の効果の一つ、自身及び所有物のレベルアップを加速はちゃんと発揮されていたようだ。
俺の剣はまだ買い替えを考えるほど傷んではいないので、拾った剣が手元に残ったら換金しよう。
拾った剣を剣帯の邪魔にならない所に差し、地図を確認して二層への階段に向かい歩き始める。
犯人にも逃げられ昼にもまだ時間がありプラーナやマナも残っているのだから二層でゴブリンを狩ってからギルドには行こうと決めたからだ。
二層に下り昼食時に魔眼を透視眼に切り替え効率を上げながら夕方までに10匹のゴブリンを狩れたがレベルは上がらなかった。
昼食時までに調べたゴブリンのレベルは5が最高で夕方までの間それ以上だと思える個体には遭遇しなかった。
あの強力なゴブリンとの戦闘で二層はもう効率のいい狩場ではなくなったようだ。
素材の換金や報告のついでに三層の地図も買う事にしよう。
二層から一層に上がり、閉じ込められた部屋の辺りでは特に警戒しながら迷宮を出た。
真っ直ぐ向かったギルドの中は相変わらず混んでいて、他に少し空いている所もあったがアレイネさんが担当の受付に並んで俺の順番まで待った。
「こんばんわセイジ君、昨日と同じで買取りでいい?」
「はい、他にもこの剣を手に入れた時の事でちょっと聞きたいことがあるんです」
カウンターの上に素材と剣帯に差していた剣を置いた。
「見たところここの迷宮でよく手に入る剣だと思うけど、何かあったの?」
「討伐者のような奴らに出口と入り口を閉められて、これを落としたゴブリンがいた部屋に閉じ込められたんですよ。」
アレイネさんの表情は一気に険しくなり詳しく話を聞きたいからギルドの中で暫く待っていてほしいと買取り金額の3500ヘルクをこちらに渡しながら頼んでくる。
剣を剣帯に戻しお金を受け取り、分かったと返事をして俺は受付をいったん離れた。
ただ待っているのも時間の無駄だと思い三層の地図を買いに資料保管室に向かう。
スタグスさんに心配されたが地図を買い一階に戻ってくると、酒場の一角に席を確保していたアレイネさんに呼ばれ、隣にはゲオルさんもいた。
「アレイネに呼ばれてな、俺も話を聞かせて貰うぞ。単刀直入に聞くぞ、セイジお前どこで閉じ込められた?」
「一層から二層に下りる最短コースにある部屋を横切る所ですね。」
「あそこか。なら確定だな。」
ゲオルさんのつぶやきにアレイネさんも頷いて同意する。
「どういう事なのか俺にも教えてくれますか?」
「迷宮では偶にその階層の平均より飛び抜けて強い個体が発生することがある。下層に下りる階段の周りに階段を守る様に発生することが多いから守護者ってよく呼ばれてる。実際にやり合ってその剣を手に入れてるんだからここまではいいよな?」
俺は頷いてゲオルさんに先を促した。
「で、この守護者は決まった位置に発生することが多くてな、その上瘴気探知が高い奴なら発生の予兆が分かるし発生場所が部屋なら扉を閉めると発生を早める事が出来るんだ。性質の悪いやつらはこの事を利用して、明らかに守護者より弱い討伐者を閉じ込めたり騙したりして守護者にぶつけて殺し、戦いで弱った守護者も倒して獲物を総取りする守護者殺しをやるんだ。この方法の嫌らしい所はカードに他の討伐者を害した記録が残らねぇんだ。だから取り締まりが難しい。」
「俺が遭ったのもその守護者殺しですかね?」
「アレイネに聞いた状況とお前に聞いた発生場所からして間違いねぇだろうな。アレイネ、新人達に注意を促しとけ、俺も訓練場で気になる奴には声を掛けとくし何時でも捕縛に動ける準備をしとく、それとセイジこれからは十分注意しろよ。」
頷く俺とアレイネさん見てゲオルさんは席を立った。
丁度いい機会なのでアドバイスのお礼を言おう。
もう背中を向けていたゲオルさんに声を掛けた。
「ゲオルさん、アドバイス有難う御座いました。おかげで無駄な怪我をせずに済みました。」
ゲオルさんは背中向きのまま手だけを振って答えてくれ、厨房の方に歩いて行った。
ゲオルさんを見送って俺はアレイネさんに向き直った。
「アレイネさん手に入れた剣どうすればいいですか?」
「証拠として提出する必要はありませんから、セイジさんの好きな様に処分してください。」
「分かりました。」
そう返事をして席を立ちアレイネさんに別れを言ってギルドを後にした。
教会に戻ってくるといつもより遅い時間だったので先に風呂に入ることにした。
ぎりぎりの時間だったが風呂にも入れて食事をして部屋に戻ってきた。
明日は迷宮に入らず剣を換金しよう。
そしてカードの貯金を目標額まで増やしゲオルさんに魔術や法術を指導できる人を紹介して貰おう。
今日の用事は終わり明日の予定も決めたので座っていたベッドにそのまま横になった。
朝日で目を覚まし食事をしてギルドで朝の訓練を済ませる。
今日、最初の目的は昨日手に入れた剣を換金することだが武器屋が何処にあるか分からない。
ギルドが引き受けてくれないかと期待してギルドの受付に聞いてみたが武器や防具は扱わないと返事をされた。
だが討伐者の必需品は大抵大通りに面した店で売っていると教えてくれたのでお礼を言ってギルドを出た。
とりあえず用があるのは武器屋だがこの際どこにどんな店があるか確認するため左右を見回しながら大通りを端まで歩く。
大通りは街の外への門に突き当たって終わっていて、ここまでの道の左右に武器屋、防具屋、服屋、魔法薬店、魔導具店、野営用具を扱っている雑貨店、携帯食を置いている食料品店を幾つかずつ見つけることが出来た。
探していた武器屋も端まで歩く間に3軒見つける事が出来た。
明らかに高級品を扱っているのが外からでも分かる1軒を除いて、歩いて近い方の武器屋に入った。
「いらっしゃい、どんな武器がご入り用ですか?」
「いや、買取りをして欲しいんだが頼めるか?」
俺の入店と同時に声を掛けてきた少年が、少し待っていて下さいと言って店の奥に声を掛けた
鑑定眼で店の品を見ると、飛び抜けて質が高い物は無いが、劣悪品も決してない堅実な品質で色々な種類の武器を扱う店のようだ。
店の中を見回した後、俺がカウンターまで行くと店主だろう作業着姿の中年の男性が出てきた。
「買取り依頼だそうだな、物は持って来てるか?」
「これがそうです。」
「悪いがいろいろ確認させて貰うぜ。」
店主は俺から手渡された剣を断りを入れて鞘から抜き、いろんな角度から刃の部分を見て叩いて音を確認してから鞘に戻しカウンターの上に置いた。
「ここにある迷宮で魔物が落とす一番ランクの低い剣だな。銀貨で7枚がうちの店で出せる一杯の額だ。不満があるなら他所の店に行ってくれ。」
「因みにここの剣はどれ位の値段で売ってるんですか?」
「金貨3枚から金貨3枚に銀貨5枚のあいだ位だな」
「なるほど、銀貨7枚でいいです、この剣を引き取ってください。」
分かったと答え少し不審な表情をして店主は剣を持って店の奥に入った
店主が言ったここの剣の売値と鑑定眼が見せてくれた価値がほぼ同額だった以上、10000〜12000ヘルクと鑑定眼で見えた剣を7000ヘルクで引き取ってくれるのだから悪くない取引だろう。
奥から出てきた店主がカウンターの上に7枚の銀貨を置きこちらに押し出した。
数を数えて金袋に金を仕舞いお礼を言って武器屋を後にした。
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