魔物と悪意 1
今日も朝日で目が覚めた。
装備をつけこれまでと同じように食事をした後、ダメもとで食堂の人に水筒に水を詰めてくれるか聞いてみると、すぐに水筒を満タンにしてくれた。
そういえばここでの水事情について聞いた事が無かったと思い、俺担当の騎士に聞いてみると井戸はあるがそれらの水は主に洗濯や洗い物に使われていて、飲料水は主に魔道具で生成したもので賄っているようで、その魔道具も比較的安価に手に入るようだ。
その他にも生活魔術で飲料水を生成することも出来るようだ。
ギルドで朝の鍛練をしたら迷宮に入ることを俺担当の騎士に伝えて詰所の前で別れた。
ギルドで鍛練をした後、昼食を買う為大通りに出ている料理の屋台を物色してみる。
いろいろ迷ったがホットドッグに似た物を五十ヘルクで買い紙に包んでもらった。
紙に包んだ昼食を腰の袋に仕舞い迷宮へと歩いて行く。
下へと続く階段の前で警備をして居る騎士にカードの提示を求められたのでカードを見せた。
次からはカードを見えるようにしておく事と初めて迷宮に来たようだから階段下の扉は入ったら必ず閉めるよう注意を受けた。
警備の騎士の横を通り二階分くらいの階段を下りた先に高さが三メートル以上あり大人が四人は通れる両開きの扉が在った。
扉を押し開け中に入ると如何にも迷宮らしい石造りの通路が奥へと伸びていて、天井や壁に床が発光しているようで暗くはないが明らかに外とは空気の感じが違っている。
重くのしかかる様な空気の感じはここが魔物との戦いの場所だと実感させてくれた。
扉を閉めて地図を取り出す。
皆考える事は同じかもしれないが一層で魔物とより多く戦うには二層への階段から離れた方がいいだろう。
地図を見て現在地と向かう方向を確認して迷宮の中へと歩き出した。
地図を仕舞い石造りの通路を歩きながら迷宮についての本に書いてあったこの迷宮の記述を確認のために思い出す。
この迷宮は魔王クラスに成長したゴブリンの上位個体を封印する時に生み出されたものらしい。
その所為かこの迷宮に発生する魔物はすべてゴブリンかその上位種や変異種に限られると書いてあった。
ちょうどゴブリンについての記述を思い出しながら曲り角を曲がった所でそれと鉢合わせした。
通路の十五メートルほど向こうに、俺の肩位の背丈で緑の肌にぼろぼろの腰みのの様な物を着た人型だが決して人ではない魔物が棍棒のようなものを持って立っていた。
俺がそれをゴブリンだと認識すると同時にゴブリンが吼えた。
その声が俺の肌をビリビリと振るわせると、俺の周りの空気が粘り気を持ち、構えを取ろうとする俺の動きを鈍らせてくるように感じる。
そしてこちらに走ってくるゴブリンの速度が段々と上がって行くようにも感じた。
ゴブリンの一撃目が来る前に何とか構え終わり、ゲオルさんの忠告に従いその攻撃を受け止めた。
受け止めた攻撃がゲオルさんの拳の一撃のように感じ後ずさりしそうになるが何とか堪え、続く二撃目、三撃目も受け止める。
五撃目を受け止めたあたりで空気が纏まり付いてくる感じが薄れてきて、八撃目を受け止めた時にはそれはもう感じず、早いと感じたゴブリンの動きもスローモーションの様に見えた。
そして十撃目を受け止めた瞬間、気鎧と魔装衣を重ねて発動して受け止めていた棍棒を盾で弾き飛ばし、剣で左の肩口に全力のアーツ一閃を放った。
剣が心臓の辺りまで引き裂くと傷口からは濁った煙が吹き出し、ゴブリンの体は輪郭が崩れ煙が四散するように無くなった。
コツンコツンと音がして床に牙の様な物と石だけが残った。
瘴気探知スキルを取得した
危機感知スキルを取得した
感覚強化術スキルを取得した
暗視スキル、瘴気探知スキル、危機感知スキルは感覚強化術スキルに格納されます
恐怖耐性スキルを取得した
スキルの取得を告げる声と体の芯から湧き上がってくる力が考える余裕と冷静さを取り戻させてくれる。
耐性スキルを身に着けたことから考えると、戦闘の最初あれほど俺の動きが鈍くゴブリンを早いと感じたのは、ゴブリンの咆哮や殺気に俺が気圧され萎縮していたからだろう。
そして攻撃を受け止める内にゴブリンの殺気に慣れていき萎縮が解けたんだ。
ゲオルさんはこうなることがあるかもしれないと思ってあの忠告をしてくれたんだろう。
探知スキルと耐性スキルを手に入れたのだから次からは不意を打たれず気圧されないよう気を張って闘おう。
そしてお金を貯めて今度会いにいく時は忠告の礼も忘れずしよう。
戦闘の反省をそこまでにして床に落ちた物を拾い、鑑定してみる。
ゴブリンの魔核石とゴブリンの牙と見えた。
魔核石は魔道具の核や動かす際の燃料源に牙の方は付与を行う際の触媒として使われるようだ。
これらをギルドで換金して貰えるんだろう。
拾った物を袋に仕舞い俺は迷宮の通路を奥に向かって歩き始めた。
この後両手持ちでアーツ一閃の威力を試したり、昼食時に迷宮の床の冷たさを感じパンの硬さと格闘したりして夕方になる少し前までに七体のゴブリンを狩り迷宮の門を出た。
階段を上りながら今日の事を思い返すと迷宮の中は命懸けの場所だという実感とゴブリンの見つかりにくさが際立つ。
特に初戦闘の印象は強いし、ゴブリンを探してただ迷宮を歩く時間は結構きつかった。
俺を取り巻く現状では迷宮で魔物と戦わなければいけない、そうである以上形振りかまわず強くなろう、そのためにゴブリンを効率よく見つける方法を探そうと決めて階段を上り切り地上に出た。
地上に出ると空が青から赤に色付き始めている。
食事や風呂を先にするか持ち帰った物の換金を先にするか迷ったが、まだ混み始める前のだと思ったので先にギルドに行くことにした。
ギルドではそれほど待たされることなく換金できて、魔核石は一個三百ヘルクに牙は五十ヘルクで引き取って貰え総額二千四百ヘルクになった。
二千ヘルク分の借金を返済してギルドを出て、あとはここに来てからと同じように食事をして風呂に入り部屋に戻ってきた。
部屋に入りベッドに座ると自分自身を鑑定する。
上條 征司 Lv3
クラス 戦士Lv3
筋力 24
耐力 21
知性 21
精神 18
敏捷 21
感性 24
アビリティ
超越者の器
万色の魔眼
限界突破
スキル
13個
七体目のゴブリンを倒した時にも力が湧いてくる感じがしたので思った通りレベルは3になっていた。
スキルの数も増えてきているし何よりBPが25に増えている。
強くなるのに形振りかまわないと決めたのでアビリティ限界突破の能力の一つBPを消費してのステータスの拡張でクラス設定枠を増やそう。
クラスは設定しただけで基礎成長値が増加し、それぞれのクラスで異なるアビリティがクラスレベルの上昇と共に強化されていく。
たとえば俺の持っている四つのクラスのアビリティは、戦士は装備負荷軽減と武技アーツ強化、闘士はライフ強化とプラーナ強化、魔術師はマナ強化と魔術強化、法術師は自然回復量増加と法術強化というものだ。
俺自身の強化はクラスの設定の増加でいくとして次は効率のいいゴブリンの探索法だ。
瘴気探知のスキルレベルが低いので大まかな方向しか分からず、通路が迷路状になっている事と合わせて今日は何度も回り道をすることになった。
何かないかとスキルや魔眼のリストを頭の中で精査していると万物の透視眼というものが目に留まる。
この魔眼は視界にあるものを何でも透視できるというものだ。
瘴気探知で大まかな方向を感じ万物の透視眼で場所を特定すれば地図と合わせて効率よくゴブリンを狩って回れるだろう。
他にこれはと思うものを見つけられなかったので万物の透視眼を使ってみよう。
そう決めて20BPを消費して三枠のクラス設定枠を増やし、万物の透視眼を身に着けた。
クラスの設定を増やし万象の鑑定眼で確認してベッドで眠りに就いた。
翌朝カードに二つ目以降のクラスの表示が無いことを確認して部屋を出る。
食事をしてギルドで朝の訓練をして昼食を買い迷宮に入った。
万物の透視眼は有効に働き、この日は夕方までに十五匹のゴブリンを狩ることが出来た。
十五匹目のゴブリンを倒したところでレベルが上がった感覚がしたので鑑定で確認するとレベル4になっていた。
これを区切りにして今日は迷宮を出る事にした。
お読み頂き有難う御座います。