表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/126

港街での取引 11

 外への門を目指してシュクラの町中を歩きながらノルトレン司祭へ近づき正面を向いたまま小声で話しかけた。

「俺の方へ顔や視線を向けずそのままお聞きください。実はヘルクス教会を出てからずっとザンバロの手下がつけてきています。他にも俺の調べではザンバロが報復ため腕の立つ用心棒を雇ったようなので、恐らく街を離れた所で奴らの襲撃があると思います。予めご承知ください。」

「その口ぶりだと襲撃を迎え撃つつもりか?お前達は転移法術が使えると聞いている、それでアミオンまで一気に移動しないのか?」

 司祭の口調に多少の非難が含まれているように感じるが怯まず答える。

「確かに司祭様の言う通り襲撃を回避してもいいのですが、奴らの性格の考えるといつまでも付きまとってきそうですし俺達の情報を得ようと護衛が終わった後司祭様を襲う可能性もあります。今回奴らの方から襲ってきそうですから返り討ちにして合法的に始末しようと考えているんですがいかがですか?」

「確かに合理的な考えだが、問題なく返り討ちに出来るのか?」

「ザンバロ本人やその手下の腕前は大した事ありませんし、雇われた用心棒は腕利きですが能力を調べて対策を立ててありますよ。」

「なるほどな。そういう事ならセイジ達に任せる。しっかりと片を付けてくれ。」

「任せてください。」

 流石に頷くと見張っている手下に違和感を持たれるかもしれないのでそのまま離れた。

 ノルトレン司祭にはああ言ったが本当に襲撃があるかザンバロ達の居場所を魔眼で探してみるとアミオンへ向かう街道上を歩いている。

 どうやらギルドでまいた餌に食いついてきたようで襲撃は確定だろう。

 以前から考えていた対策通りBPで新しい魔眼を一つ取得しザンバロ達の動向を注視しながらシュクラの街を進んで行った。


 門を出て俺達もアミオンへ向かう街道へ出たが、ザンバロ達は動きを止めここから半日程進んだ街道脇の茂みの中に身を隠している。

 俺達が結界を使えるのをあいつらは知っているので結界を壁に転移で逃げられないよう移動中の不意を突くつもりなんだろう。

 襲撃場所がほぼ確定したので過度に緊張はせずいつも通りに昼食を食べ街道を進んで行く。

 ザンバロ達が潜む茂みが近づいてくると俺からファナの傍へ行き声を掛ける。

「後ろから2人つけてきてるのが分かるか?」

「うん、分かる。」

「よし、じゃああの二人はファナが警戒して仕掛けてきたり俺から合図があった問答無用で捕らえてくれ。頼めるか?」

「任せて、主様。」

 頷いてくれたファナへ俺も頷き返し声を掛けて全員に立ち止まって貰う。

 魔眼を組み替え左手に盾を装備し俺一人でザンバロ達が潜む茂みへ近づいて行った。

「そこにいるのは分かってる、さっさと出てこいザンバロ。それとも隠れたまま灰になって終わりたいか?」

 そう茂みに向かって宣言し掌の中にファイアーボールを生み出すと用心棒達を先頭にザンバロ達が街道へ出てくる。

 案外と素直に出て来たのでファイアーボールを消し出方を窺っていると用心棒達を押し退けザンバロが先頭に出て来た。

「最後の忠告だ、糞餓鬼。ミラベルとあいつの持ち物をすべて置いてここから失せろ。そうすれば見逃してやる。」

「滑稽だな。誰がそんな出任せを信じるんだよ。もしお前の言う通りにしても口封じにミラ以外の全員殺すつもりなんだろ?」

 そう俺が少しおどけて言い返すとザンバロは苦虫を噛み潰したような表情で一つ舌打ちし用心棒達の後ろに下がると襲撃を命じる。

 レベル40のリーダーの顔がにやけ足を1歩踏み出すが俺はそいつを指差し用意していたセリフを口にした。

「おい、あんた。横の3人はあんたの奴隷だろ。どうだ、お互いの奴隷を掛けて俺との一騎打ちでけりをつけないか?」

 その一言で用心棒のリーダーの動きが止まったのでセリフを続ける

「後ろにいる女5人はミラも含めて全員俺の奴隷だ。勿論一騎打ちを始める前に制約法術で宣誓してやる。乗るか?」

 セリフを言い終え右の掌に制約法術の光を灯すと先程より笑みを深めザンバロへ許可を求めるように振り返る。

 笑みを浮かべたザンバロも頷いて許可し用心棒のリーダーは剣を抜くと一人俺に近づいて来た。

「一騎打ちの勝利条件は相手の殺害のみ、勝者は敗者の所有物を占有できる。これが条件だ、さっさと宣誓しろ。」

「分かった。制約法術を展開する。」

 自分で言った通り制約法術を発動し要求通りの文言で先に宣誓してやる。

 用心棒のリーダーも続いで宣誓するが文言の最後でいきなり早口になり、法術が成立した感触が伝わってくるのとほぼ同時に俺へ剣を突き込んでくる。

 この男最高の武技アーツ閃光螺旋瞬突という突き技を俺の心臓目掛けてはなってくるが、手の内は見ていて敏捷値で上回り危機感知スキルのおかげで遅れず反応できた。

 防御膜を展開した盾で余裕を持って剣を受け流すと用心棒のリーダーは驚愕の表情を浮かべ、俺が剣の柄に右手を掛けると慌てて俺から距離を取る。

 俺の剣の間合いの外までバックステップで下がった用心棒のリーダーは忌々しげに表情を歪めて一つ舌打ちして口を開く。

「この糞餓鬼、俺が最高の突きを見せてやったんだ、大人しく死んどけよ。」

「確かに最初の一撃に今の攻撃を選んでくれたのには感謝するよ。簡単に倒せそうなんでどうやって今の突きを出させようか少し悩んでたんだ。お礼にいい物を見せてやる。もう一度今の突きを撃ってこい。」

 俺も剣を抜き左手で手招きするように挑発を追加する。

 顔を真っ赤に紅潮させて用心棒のリーダーは突きの構えを取った。

 それを見て俺も同じ構えを取ると用心棒のリーダーは歯ぎしりも加えてさらに怒りをあらわにし、もう一度全力の閃光螺旋瞬突を放ってくる。

 その瞬間、


「限界突破。」


アビリティを発動し一拍遅れて俺も閃光螺旋瞬突を放ち剣の切っ先同士が正面から激突すると用心棒のリーダーの剣が粉々に砕け散った。

 続けて耐久性の落ちていた俺の剣にもひびが入り、用心棒のリーダーが驚愕の表情を浮かべ動きが止まった一瞬を見逃さず剣を捨てて格闘戦の間合いに飛び込む。

 レベル40だけあり用心棒のリーダーもすぐ戦意を立て直して腰の短剣に手を伸ばすが、右手がそれを掴んだ瞬間俺の掌底が鳩尾を捉えた。

 気力と魔力の両浸透波を上乗せした掌底波が用心棒のリーダーの金属鎧を貫通し、衝撃波が内臓を潰して浸透波が全身の細胞を破壊しながら大気や地面に広がっていく手応えを感じて距離を取った。

 確かに仕留めた手応えがしたがそれでも残身を崩さず様子をみる。

 すると5秒程して用心棒のリーダーの両目や両耳に口から血が溢れだし、まっすぐ立ったまま前のめりに地面へ倒れ込んだ。

 それと同時に制約法術の効果で残りの用心棒達を支配下に治めた手応えが伝わってきたので声を張る。

「新しい主人として命じる。多少痛めつけてもいいザンバロとその手下を一人残らす生け捕りにしろ!ファナも動いてくれ!」

 集中して待っていてくれたんだろう俺の声に反射の領域でファナが動き出してくれ、元用心棒の3人も即座に制圧に掛かってくれた。

 俺も援護のために魔術を使おうとまずファナの方を見るがもうつけてきた2人を気絶させており、元用心棒の3人の方へ視線を移すとレベル30代後半だけあってザンバロを含めもう半分仕留め終わっており誰も逃げ切れそうにないので支援は辞めアビリティも切った。


 一つ息をつき後ろを振り返ってみるとファナ以外の皆の護衛でノルトレン司祭が近づいてくる。

 ザンバロへの尋問は雇い主のノルトレン司祭がやるべきなので合流をここで待ちながら今の戦闘を振り返ってみた。

 ミラのレベルがまだ低いのでみんなを餌に一騎打ちへ誘ってみたが、よく考えると向こうも数的不利だったんだから別に餌をちらつかせずとも誘いに乗ったと思う。

 後で餌扱いした事をみんなには謝っておこう。

 用心棒のリーダーの動きは鑑定で見た能力値からの予想の範囲だったし新しく取得した魔眼の完全なる模倣眼も思った通りの能力を発揮してくれた。

 この完全なる模倣眼は目視したアーツやスキルを完全な形で取得出来るというもので、用心棒のリーダーがミラルテやシュクラでもアーツブックを見かけなかった閃光螺旋瞬突を身に着けていてBPも大分溜まっていたので取得してみたが上手く行ってよかった。

 後は他の魔眼と組み合わせても上手く機能するかだが、それおいおい試して行こう。


 そう考えを纏めているとノルトレン司祭が俺のすぐ後ろまで歩いてきたので俺が先導する位置に着きザンバロ達へ近づいて行く。

 元用心棒の3人が一か所に集めてくれたザンバロ達の前まで来ると俺からノルトレン司祭は話かけた。

「こいつ等の処分はどうしますか。司祭様。」

「そうだな、セイジ達には悪いがシュクラへ引き返し盗賊として警備隊へ引き渡そう。余罪の追及の後犯罪奴隷として売られる事になると思うが、それらの手続きは私の教会の者達にやらせるし売却益の配分もきちんと行おう。ただそこの3人の身柄は出来るなら私に譲ってくれないか?今の情勢下使えそうな駒は手元に置いておきたい。」

 この三人レベルは高いしザンバロ達を拘束した手際を見ても実戦経験豊富なようだが、特殊なクラスやアビリティを持っている訳ではないので手放してもいいだろう。

「お譲りするのはいいんですが、倒した男を含めて金品は俺が頂いてもいいですよね。」

「ああ、勿論だ。シュクラへ引き返すついでに身柄の代金も払おう。さて引き返す前に問いただしたい事があるのでその男を起こしてくれ。」

 ノルトレン司祭が顎でザンバロを指名するので俺がすぐ傍まで行って体術の応用で気つけをして司祭の前まで引き出した。

「ザンバロ、わたしの関与した借用書を悪用した今回の事件、お前ごときの発案ではないだろう。一体誰にそそのかされた?」

 ノルトレン司祭の問いにザンバロは始め忌々しげにそっぽを向いていたが、俺が関節を決めて説得すると大人しく喋りはじめた。

「名前や詳しい素性は言わなかったが、恐らくアミオンの男だ。ドワーフの男特有の体つきをしてたからな。そいつがあんたらの取っていった借用書を俺の所に持ち込んで来た。その上借金を理由にそこの娘へ追い込みをかけて娘自身と待ってるはずの古書を回収して引き渡せば追い込み中に得た金の他に1000万謝礼として払うって言ってきたんだ。これ以上は何も知らねえ!本当だ!」

 念のため制約法術を使って確認してみたがどうやら嘘は言っていないようだ。

「もし策が上手く行ったらどうやってミラベル女史や古書を引き渡すつもりだったんだ?」

「借用書と一緒に受け取った魔道具で連絡すれば、向こうが金を持って受け取りに来る手筈だった。」

 一応これも嘘ではなかったがザンバロが知っていた裏事情はこれだけのようだった。

 これでザンバロ一味に用は無くなったので俺の制約法術で逃亡防止に奴隷化しようとしたらノルトレン司祭から待ったがかかる。

 ザンバロ達の余罪を洗う途中で共犯者が出て来た場合に奴隷だと証言の効力が弱くなるというのでこのまま連れて行く事にした。

 俺とティアにアリアの3人で手分けをして死体を含めここにいる全員を転移法術でシュクラの門近くへ運ぶ。

 ノルトレン司祭の従者に門まで走って街の警備隊を呼んできて貰い、ノルトレン司祭の名義でザンバロ達を盗賊として引き渡し一度ヘルクス教会へ引き上げた。

 ノルトレン司祭立会いの元教会で用心棒達の所持品を改めると1000万ヘルク分の現金を持っており装備に売値が付きそうだったが、仕留めた男の死体の処理を教会へ頼む代わりに装備は残った3人の物と認めた。

 続いてノルトレン司祭の要望通り一人20万計60万ヘルクで三人の身柄の所有権を譲り、司祭が後始末のため多忙になったのでこの日はヘルクス教会の一室に泊めて貰う。

 翌朝ノルトレン司祭の目に隈が出来ていたが後始末は終わったようなので今度は転移法術を使いアミオンへ向かって出発した。






お読み頂きありがとうございます。

作者都合で申し訳ありませんが、次回の投稿予定は7月上旬になります。

よろしければ引き続きお付き合いください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ