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港町での取引 8

 ザンバロのアジトから人気のない裏路地に出ると全員に固まって貰い転移法術を発動する。

 ヘルクス教会の前へ出るとノルトレン司祭が俺に手を出し話かけてきた。

「セイジ、ザンバロから回収したエグモント氏の借用書を渡せ。」

 不意の要求だったので流石に司祭へ聞き返す。

「借用書をお渡しするのは構いませんが、いまさらこれにどんな用がおありになるんですか?」

 俺が説明を求めるとノルトレン司祭は手を戻し多少憮然とした表情になるが説明を始めてくれた。

「その借用書の金額部分が偽造されていると私が言ったのは覚えているな?」

 俺は頷いて話の続きを促す。

「あの偽造かなり精巧に手が加えられていて以前の内容を知っていた私は見抜けたが間違いなく一般の者には見破れないだろう。ザンバロのような者にあれほどの偽造は絶対に出来ん。恐らくヘルクス教の書類に詳しい何者かが裏で糸を引いている。私の手がけた書類で不正を働いた不届き者を見過ごす事は出来ん。問題の借用書はそやつを見つける手がかりになる。だからわたしに引き渡せ。」

「なるほど、そういう事でしたか。」

 もう一度ノルトレン司祭へ頷きポーチからエグモント氏の借用書を取り出して差し出した。

「どうぞお受け取りください。ただその黒幕の事が何か分かりましたら俺達にも教えて頂けますか?」

「まあ、お前達にも無関係な話ではないからな。いいだろう。」

 俺から借用書を受け取ったノルトレン司祭は少し不服そうだったが了承してくれた。

「どれ位で粗方の情報が集まりますか?」

「2〜3日と言いたいが1週間は必要だろうな。」

「ではその間に俺達は魔石を集めてきます。1週間後約束の数を納めに参りますので分かった情報をお教えください。」

「良かろう。事故なく息災で訪ねてくるがいい。」

 了承の返事をしてくれ大様に頷いて教会の中へ去っていくノルトレン司祭へ一礼し俺達も転移法術を発動した。


 ミラベル嬢の店の裏口に移動すると念のため周囲の気配を探ってみる。

 やっぱり危機感知に反応する気配があり鑑定してみるとザンバロ手下だったが、俺達がアジトに踏み込んだことがこいつ等に伝わっているとは思えないので取り敢えずはどう動くか様子見だろう。

 店に入り全員居間へ集まるとミラベル嬢と向き合った。

「これからの事を決めたいけどその前に約束通りに奴隷契約を済ませる。昨日決めた条件に変更は無い?」

「はい、ありません。でも奴隷商に行かなくていいんですか?」

「俺が制約法術を使えるから問題ない。じゃあ始めるぞ。」

 ミラベル嬢が頷いてくれるのを見届けてまず昨日決めた隷属制約の前提条件を俺と彼女の間で誓約する。

 続けて隷属制約を発動すると抵抗なく進んで行き問題なく法術が終了するとミラベル嬢が頭を下げてきた。

「改めてこれからよろしくお願いします。旦那様。」

「こちらこそよろしく。戦闘時にミラベルじゃ少し呼び難いから俺はミラって呼ばせて貰うよ。」

「はい、分かりました。」

「じゃあ、次はこれからの事だ。ミラには悪いけど俺達と討伐者になって貰う。身分は他の皆と同じでパーティーメンバー兼愛人だ。」

「ど、どちらも精一杯がんばります。」

 多少恥ずかしそうにミラは頷いてくれた。

「確認するけどミラは覚醒石に触ってる?触ってるなら解放されたクラスを教えてくれ。」

「覚醒石には触っています。今は鍛冶師を設定していて他に付与術師と戦士に斥候が解放されました。最低限の素材は自分で集められるようになれってお爺ちゃんに言われていたので迷宮ギルドに登録してカードを貰ってあるんですよ。」

「ミラがカードまで持っているんなら手間が省けてありがたい。今度ギルドに行ったらパーティー登録しよう。後ミラのクラスだけど鍛冶師はそのままで付与術師と戦士に斥候も2つ目以降に全部設定してみてくれ。」

 俺の指示を聞いて前の4人と同じようにミラは少し怪訝な表情を浮かべて目を閉じ、2〜3秒たつと上手く行ったのだろう興奮したように俺を見上げてきた。

「4つともクラスを設定出来ました。どういう事ですか?」

「それは俺の持ってるアビリティの効果で可能になってると考えてる。余計な詮索を受けたくないから誰にも他言しないでくれ。」

「確かにそうですね。この事は誰にも言いません。お約束します。」

「よろしく頼む。次は装備の事だけど、カードを持ってるなら自前の装備も持ってるか?」

「はい、ありますよ。ご覧になりますか?」

 俺が頷くとミラは自分の寝室へ向かい両手持ちの大きな戦鎚と抱える大きさの木箱を持って戻ってきてくれた。

 その木箱をミラが開いてくれ中を覗いてみるとチェインメイルに部分鎧と兜が一式詰まっていた。

 装備からミラの戦闘スタイルを推察すると鎧で魔物の攻撃を防ぎながら近づき鎚の一撃で仕留めるというものだと思う。

 基本的にはこのままでいいと思うが俺のパーティーの編成やミラの能力を考えると盾を使った壁役や弓手もやって欲しい。

 まあ付け加えての役目はアーツブックを使い対応したスキルを身に着けた後でもいいだろう。

「おいおい強化していきたいけど取り敢えずは装備に問題ないな。」

 

 ミラの装備の入った箱から顔を上げ全員を見回して口を開く。

「アリアは昨日俺の後ろで話を聞いてたから知ってるんだけど、実はノルトレン司祭から証書の発行手数料として魔核石を最低でも200個納めるよう依頼されてる。ヘルクス教会前での話から大体察しはついていると思うけど、鎧や剣の制作は後回しにして全員で魔物狩りに行こう思うから準備に入ろう。まずこの家にある持ち出せるものは全部ポーチに仕舞って持ち出すから手分けをして作業しよう。ミラは工房にある据え付けの工具以外をポーチに仕舞えるように整理してくれ。」

 俺が指示を出すがミラを含めて全員怪訝な表情になり、ティアが手を挙げ代表して問いかけてきた。

「セイジ様、魔核石集めに向かうのにどうしてミラの家から家財を持ち出されるのですか?」

「ティアやリゼラには聞こえなかったと思うけど、ザンバロが報復を示唆する捨て台詞を吐いてたんだ。この店は今も手下に見張られているようだし俺達が街を出れば必ず盗みに入ってくるだろうし、証拠隠滅のために放火される可能性もある。流石に1週間も結界は続かないし荒らされると分かりきっている所に家財を残していくのは勿体ないだろ?」

 おれが説明を終えるとみんな納得の表情で頷き家の中へ散ってくれた。

 俺もミラに声を掛け彼女の見ている前で秘伝書の納められた箪笥をポーチに仕舞うと工房の方を任せて家具の片付けへ参加する。

 収納量の多い俺とティアにアリアの亜空間ポーチへ均等に振り分けて家財道具をすべて仕舞いミラの元へ顔を出すと、炉を含めすべての工具が綺麗になくなった工房に丸めた絨毯を抱えたミラが立っていた。

「据えつけに見えた炉まで無くなってるけど、どういう事だ、ミラ?」

「えっと、ここにあった工房はお爺ちゃんから引き継いだ特殊な魔道具なんです。全ての設備が亜空間ポーチのようにこの絨毯の中に仕舞えて、これを広げられる広さがあればどこでも鍛冶が出来る優れものなんですよ。元々は迷宮の内で武具の整備をするために作られた物だってお爺ちゃんから聞きました。」

 自慢げなミラの説明に感心していると彼女は自分のポーチにその絨毯を仕舞って俺を見上げてきた。

「他の片付けはもう終わりましたか?」

「ああ、持ち出せる物は全てポーチに仕舞ったけど、もしかして台所も今の絨毯みたいに持ち運びが出来る奴なのか?」

「いえいえ、あれはこの家に備え付けの物ですよ。」

「何だそうなのか、じゃあミラも装備を身に着けてくれ。それが終わった魔核石集めに出発しよう。」

 頷いたミラが装備を身に着けている間、一応俺とアリアにティアでこの店に結界法術を多重展開する。

 準備が終わると店の表玄関に休業の張り紙をミラに出して貰い店の中で転移法術を発動した。





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