港町での取引 5
ギルドで書いて貰った地図を参考に魔眼で詳細な場所を突き止めたヘルクス教会の前へ転移を終える。
周囲の人の気配を調べすべてを鑑定してみたがどうやらザンバロの手下はいないようだ。
急に転移で現れた俺達を教会の門衛が露骨に警戒しているがそれでも俺から声を掛けた。
「お忙しい所申し訳ありません。一つお訊ねするんですが、こちらの教会にノルトレンという司祭様はおいででしょうか?もしおられるなら面会の取り次ぎをお願いできませんか?」
「ノルトレン司祭様なら確かに当教会におられるが、どういった用向きで面会を希望する?」
「それはミラベルというドワーフの女性鍛冶師の方から祖父にあたるエグモントという人の借財について裏書人をされたノルトレン司祭様に詳細を聞いて来て欲しいと頼まれたからです。直接お話を伺えないでしょうか?」
面会理由を言っても門衛の人は露骨に俺達を警戒していたが、お布施だと言って銀貨を一枚渡すと表面上は横柄だが嬉しそうに教会内へ案内してくれた。
礼拝堂のような場所に通されここで待つよう俺達に指示して門衛の人は教会の奥へ向かう。
10分程待つと門衛は戻ってきてくれ案内してくれた部屋では男性が一人机に向かって書類仕事をしていたので俺の方から一礼して挨拶をした。
「初めまして。討伐者をしているリクといいます。後ろの者は従者のアリアです。ノルトレン司祭様でよろしいのでしょうか?」
ペンを走らせていた男性は手を止め俺の方へ顔を上げてくれる。
「確かに私がノルトレンだ。見ての通り忙しいのでな、話は手短に済まそう。エグモント氏の縁者の使いでわたしの元を訪れたそうだな?」
「はい、孫に当たるミラベル嬢からの依頼でこちらへ伺わせて頂きました。ミラベル嬢の話では財産を引き継いだエグモント氏には借財がありノルトレン司祭様が借用書の裏書人を務め返済期日がもうすぐ迫っていること以外、借財の金額や利子などの条件が一切伝わっていないそうなんです。もしノルトレン司祭様が借財に至った理由や借用書の内容を覚えおいでならお教え願えませんか?」
「いいだろう。憶えている限り全てを話してやろう。」
ノルトレン司祭様が引き続き話してくれた事を要約するとどうやらエグモント氏は鍛冶師としては超一流だったようだが商売人にはあまり向いていなかったようだ。
華美な装飾を嫌う質で高性能だが高価な物ばかり作っていたので目利きの出来る1流以上の討伐者にはそこそこ常連もいたが貴族や一般の討伐者などからは敬遠されていたようだ。
そのせいであちこちに借金が出来てしまい借りている店の大家がノルトレン司祭へ借金の整理を依頼したみたいだ。
ノルトレン司祭はエグモント氏と話し合い一番取引のあった鉱石や炉の燃料などを扱う店の店主の名義で借金を50万ヘルクに一本化し商売を改善する指導もしたらしい。
「私と話した後は中々の性能で安価な武具も作ると言っていたが流石に1年での完済は無理だったのだな。それで今はだれが借用書を持っているのだ?もう鉱石屋の店主ではないから内容が分からないのだろう?」
「はい、どういう経緯かは分かりませんがザンバロという街のチンピラの親玉が持っているようです。その上ザンバロはミラベル嬢へ営業妨害もやっていますね。」
「あの男か・・・」
ザンバロの名前を出すとノルトレン司祭は隠すことなく嫌悪の表情を見せた。
「ご存知なんですか?」
「ああ、ヘルクス様の教えに背き証拠を残さぬように非道な商いを繰り返している私が一番嫌悪する類の男だ。厄介な奴に借用書を握られたな。」
嫌悪の表情を強めるノルトレン司祭の態度に嘘は無いように見えるのでザンバロと手を組んでいる可能性は低くなったと思う。
この面会の後の行動を過去視眼で確認すれば裏も取れると思うのでノルトレン司祭へ協力を頼んでみよう。
「やはりそういう男でしたか。だとしたら司祭様、一つお願い出来ないでしょうか?」
「何だ、言ってみろ。」
「ザンバロが司祭様の言うとおりの男なら1度借金を返済しても利子分が残っているなどと難癖をつけてくると思うんです。司祭様の裏書で借金の完済を証明する書類を作って頂けませんか?」
「その願いの可否を答える前に私の問いに答えろ。お前達は借用書の内容を聞きに来ただけだろう?何故借金返済の手助けまでしようとする?」
「それはミラベル嬢には俺達の武具をこれからも作って貰いたいんで武器屋を閉めて欲しくないんですよ。」
「なるほどそういう事か。いいだろう、借金の全額返済を確かめた後証書を書いてやろう。ただし、わたしの頼みも一つ聞いて貰おう。」
「分かりました。何をすればよろしいのでしょうか?」
俺の了解の返答にノルトレン司祭は一つ頷いて話を続ける。
「今王家の直轄領に動員令が出ているのは知っているな?」
「すみません。ここ2週間ほど船旅をしていたので陸の情報に疎いんです。」
「ならシェイド伯領と直轄領の間に魔境があるのは知っているな?」
頷いてノルトレン司祭へ続きを促す。
「そこから魔物が溢れてくる兆候が確認され、実際外縁部で緊急展開したシェイド伯家に王家両傘下の騎士団が魔境の外へ溢れだそうとする魔物の群れと接敵したそうだ。その時の魔物の群れの様子から今回の魔境の氾濫はかなりの規模と推察されたようで、この街の代官にも旗下の兵の出撃命令や食料に魔核石といった物資の徴発命令がきている。その影響で既に人手不足や物価の上昇が始まっている。だから討伐者だというお前達にこの街への魔核石の供給を頼みたい。」
「魔境の氾濫が収まるまでですか?」
「恐らく討伐には数か月かかる。流石に完済証明書1枚でそんな長期間拘束する気はない。そうだな200個程魔核石を調達して貰おう。」
「分かりました。その数でお引き受けします。ただもうすぐ借金の期限となる筈なので返済が済んでからの調達になりますがよろしいですか?」
「いいだろう。魔核石の数が揃ったら私の元へ持って来てくれ。後ミラベル嬢の金策が済んだら連絡してこい。返済の場に立ち会いその場で完済の証明書を出してやる。」
「確かにミラベル嬢へ伝えます。では今日はこれで失礼します。」
念のためノルトレン司祭を捕捉眼の目標に設定し一礼して執務室を辞した。
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